小学5年生の4人に1人が小学1年レベルの算数が解けない 週刊プレイボーイ連載(546)

「子どもが14人、1れつにならんでいます。ことねさんの前に7人います。ことねさんの後ろには、何人いますか。」

これは小学1年生の算数の教科書に出てくる問題ですが、広島県の小学生を対象にした調査では、正答率は3年生28.1%、4年生53.4%、5年生72.3%でした。5年生でも、およそ4人に1人が小学1年レベルの問題が解けません。

誤答を見ると、14から7を引いて「7人」とするなど、文中に出てくる数字を適当に演算したり、せっかく図を描いたにもかかわらず、なぜか全部で15人になっているものなどがありました。

「えりさんは、山道を5時間10分歩きました。山をのぼるのに歩いた時間は、2時間50分です。山をくだるのに歩いた時間は、何時間何分ですか。」

これは時間の引き算の問題ですが、正答率は3年生が17.7%、4年生が26.0%、5年生でも53.9%とさらに低くなりました。5時間10分に2時間50分を足して「7時間60分」としたり、510から250を引いて260分とし、これを「2時間60分」に変換したうえで、60分は1時間なので合わせて「3時間」とするなど、そもそも時間の概念がわかっていない誤答が目立ちました。

困惑するのは、学年間の成績のばらつきよりも、学年内のばらつきの方が大きかったことです。「1/2と1/3は、どちらが大きいですか」の質問で、正答率を上位、中位、下位で比較したところ、3年生の上位は34.1%が正しく答えられましたが、5年生の下位は23.6%でした。進度別のクラス編成では、3年生の上位グループと5年生の下位グループを入れ替えたほうがいいことになってしまいます。

この調査でわかったのは、問題文がすこし複雑になったり、抽象度がすこしでも上がると、認知的な処理が追いつかなくなる子どもがかなりの割合でいることでした。小数や分数のような基本的な概念がわからないままだと、その後の授業についていくのは困難で、「やっても無駄」とあきらめる「学習性無力感」の罠に陥ってしまいます。

文科省の調査では、2021年度の不登校の小中学生が24万4940人になり、前年度から24.9%増の過去最多になりました。その理由として、コロナ禍で学校活動が制限されたことなどが挙げられますが、もともと勉強が苦痛だった子どもが登校する意味を見出せなくなったこともありそうです。

しかしこれは、(よく誤解されるように)いまの子どもたちの学力・知能が低下しているということではありません。

近代の教育制度は、軍隊や工場に最適化された人材を要請するために、同じ年齢の子どもたちを1カ所に収容し、同じレベルの教科を学習させてきました。そこで重視されたのは「みんなが同じ体験をする」ことで、学習内容を理解できているかどうかは二の次だったのでしょう。勉強のできる子どもは進学し、そうでない子どもは中学を卒業して働きはじめたのですから、それでよかったのです。

ところが知識社会が高度化すると、小学校から抽象的な思考に適応することを求められるようになりました。しかし人間の脳はそんなふうには進化してはいないので、子どもたちのあいだの認知能力のばらつきが「問題」として浮上してきたのではないでしょうか。

今井むつみ他『算数文章題が解けない子どもたち ことば・思考の力と学力不振』岩波書店

『週刊プレイボーイ』2022年12月12日発売号 禁・無断転載