財政再建は覚醒剤合法化で

日本国憲法第30条は、「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」と述べているが、世の中には莫大な所得を手にしながらまったく税金を納めていない人がたくさんいる。彼らの多くは組織暴力団の構成員であり、売春・賭博・薬物売買などの非合法ビジネスに携わっている。

違法行為で得た収入であっても納税の義務を免れることはできないが、税務署員がヤクザの組長宅に税務調査に行ったという話は聞かない。「彼らはそもそも税務申告しないから調査の方法がない」からだと言うが、これは職務怠慢ではないだろうか? とはいえ、私はこの件で税務署員を批判するつもりはない。自分や家族の生命を危険に晒してまで税金を徴収せよ、とは言えない(1)

この問題を解決するもっとも簡単な方法は、非合法ビジネスを合法化することである。そうすれば、闇に消えていく10兆円とも言われる巨額の収入に課税できるばかりか、一般企業の参入で消費者の利便性は向上し、資金源を失った組織暴力団は衰退していくだろう。日本政府は今、危機的な財政赤字に喘いでいる。なぜ、目の前にぶらさがっている果実を手にしようとしないのか。

日本でカジノが合法化できないのは、公営ギャンブルの既得権を守るためだ。

ギャンブルにおいて胴元の取り分は控除率で表わされる。控除率10%なら、100円の賭け金から10円を除いた90円が勝者に支払われる。ラスベガスのカジノでは、この控除率は1~5%とされているが、それに対して日本では、競馬・競輪などの公営ギャンブルの控除率は25%、宝くじにいたっては売上の50%が胴元である宝くじ協会に召し上げられ、その収益が関連団体に分配されている。仮に賭博を合法化し、ラスベガス並みの控除率で民間企業が参入してくれば、公営ギャンブルは瞬く間に駆逐されてしまうだろう。当然、関連団体も存続できなくなり、役人の天下り先がなくなってしまう(2)

売春を違法とするのは、奴隷的境遇から女性を守るためだという。だが現実には、性を売る女性のほとんどは自らの意思で職業を選択している。「援助交際」はすでに死語となり、最近では、携帯サイトを使ったセックスの直接販売が流行している。売春行為を禁止しているために、行政はこうした時代の流れにまったく対応できない。

売春を合法化すれば、性産業の従事者が避妊や性病の知識を得ることがはるかに容易になる。業者は魅力的な女性(男性)を確保するために、より安全で快適な職場を提供しようと競うだろう。その結果、性を売る女性たちの人権は現在よりも向上するに違いない。

薬物利用を禁止する理由は、依存性が強く、肉体や精神を荒廃させるからだという。だがそれだけでは、依存性や健康被害がほとんど観察されないマリファナを禁止する根拠にはならない。警察庁は「覚醒剤などのハードドラッグの入口になる」と説明しているが、マリファナを実質解禁したオランダにおいて薬物中毒が深刻化したとの報告はない。

医学的にはマリファナは、アルコールや煙草などの合法ドラッグより安全性が高く、その解禁論は日本国内でも一定の支持を集めている。だが、覚醒剤やヘロインのような破壊的な効果を持つ薬物は法で禁止すべきではないか? ノーベル経済学賞を受賞したゲーリー・ベッカーは、法的規制では薬物問題を解決できないと主張する。

米国の大都市では誰でも簡単にドラッグを入手できるが、それでも大半の市民は薬物中毒とは無縁だ。精神的に不安定な人は、薬物を禁止すれば酒やセックスに依存するだろう。それならばドラッグを合法化し、その税収を薬物中毒者への医療援助に充てたほうが効果的だ。

非合法ビジネスを合法化することによって社会全体の効用は改善する。だが残念なことに、この経済学的成果を認める人はほとんどいない(3)

(1)税務当局の名誉のために付く加えれば、過去において何度か、警察(マル暴)と協力して暴力団組織に本格的な税務調査を行なったことがあるが、資金の流れを解明できず、さしたる成果は挙げられなかったようだ。
(2)宝くじなどの公営ギャンブルはかたちを変えた「税金」である。賢い人はこのような分の悪い勝負に手を出さないから、これらは「愚か者に課せられた税金」と呼ばれる。
(3)アメリカのドラッグ自由化論についてはデイヴィッド・ボアズ『ドラッグ全面解禁論』(第三書館)を参照。経済学の泰斗ミルトン・フリードマンや名コラムニスト、マイク・ロイコなどが、「ニューヨーク・タイムズ」「ワシントン・ポスト」「ウォールストリート・ジャーナル」などの一流紙でドラッグ解禁の論陣を張っていることがわかる。

橘玲『雨の降る日曜は幸福について考えよう』(幻冬舎)2004年9月刊
文庫版『知的幸福の技術』(幻冬舎)2009年10月刊