第35回 意外に身近なミリオネア(橘玲の世界は損得勘定)


 

グローバル資本主義を批判するひとたちがウォール街を占拠してから、「1%の金持ちと99%の貧乏人」というのはすっかり決まり文句になった。たしかに、とてつもない大金持ち(ビリオネア)がいる一方で中産階級が貧困層に没落していく構図は先進国に共通している。

しかしその一方で、まったく異なる景色を見せてくれるデータもある。

スイスの大手金融機関クレディ・スイスが2012年10月に発表した世界の富裕層ランキングによれば、純資産100万ドル以上を持つ富裕層は1位がアメリカの約1100万人(人口比3.5%)、2位が日本の約360万人(同2.8%)、3位がフランスの約230万人(同3.6%)となっている。

「ワールド・ウェルス・レポート」(2012)ではイギリスの資産運用会社が、居住用不動産を除いて100万ドル以上の投資可能資産を持つ富裕層の数を推計している。それによれば1位はやはりアメリカの約300万人(人口比1%)で、2位は日本の約180万人(同1.4%)、3位はドイツの95万人(同1.1%)だ。これを富裕層の定義とするならば、日本はアメリカを抜いて、人口比では世界でもっともゆたかな国になる。

日本では、自宅不動産を含めて1億円以上の純資産を持つひとが360万人、投資など自由に使える1億円以上の資産を持つひとが180万人いる。これはどういう数字なのだろうか。

国勢調査によると、2010年度の日本の世帯数は約5200万、1世帯あたりの平均は2.46人になる。そこで「ミリオネア世帯」の比率を計算してみると、居住用不動産込みで人口の約7%、14世帯に1世帯が「億万長者」ということになる(自宅を別にすれば全世帯の約3.5%)。

これはアメリカも同じで、1100万人の富裕層を総世帯数の1億1700万で割ると、その比率は9.4%になる。じつに10世帯に1世帯が「ミリオネア」なのだ(ちなみにこれはフランスも同じ)。

「大金持ちはわずか1%」という数字は氾濫しているが、「先進国では10人に1人がミリオネア世帯で暮らしている」というデータはほとんど無視されている。「格差社会」を批判する社会運動家にとって、富はけっこう均等に分布しているというのは不都合な事実だからだろう(日本の場合、「富は高齢者に偏在している」とはいえる)。

ビリオネアは10億ドル(約1000億円)以上の資産を保有する超富裕層で、私たちのほとんどは縁がない。だが日本やアメリカのようなゆたかな社会ではミリオネアになることはけっして不可能ではないし、実際に10人に1人は“ミリオネアの暮らし”をしているのだ。

努力すれば誰でも億万長者になれる社会では、貧乏は自己責任になるほかはない。現にアメリカではそのように考えられている。

私は個人の責任を過剰に問う社会が素晴らしいとは思わないが、ゆたかな社会の現実を否定することにも意味はない。良くも悪しくも、私たちはこういう世界に住んでいるのだ。

橘玲の世界は損得勘定 Vol.35:『日経ヴェリタス』2013年9月8日号掲載
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第35回 意外に身近なミリオネア(橘玲の世界は損得勘定) への31件のフィードバック

  • tokumei2 のコメント:

    北の国から氏のご指摘通り、確かに、単純に2.46人という数字には無理がありましたので、1世帯で、資産を所有している人を想定すると1人か2人ですね。さらに高齢者に富が偏在していることも考慮すると、1.8人くらいが妥当かもしれません。そこで再度計算し直すと360万人/1.8人で200万世帯、180万人/1.8人で100万世帯くらいでしょうか。その結果、居住用不動産を除く層では、100万世帯/5200万世帯から1.9%となり約52世帯に1世帯、また居住用不動産を含める層では、約26世帯に1世帯という結果になりますね。先ほどの私のコメントでは、為替を考慮していませんが、この当時の調査時においては、1ドル80円程度だったように思いますので、居住用不動産を除く層では、円を基準にした場合の1億円以上の純金融資産を所有する層は、ますますNRIの結果(81万世帯)に近づくようにも思えてきます。何れにしても金融資産でミリオネアになれるのは、比喩が適正かわかりませんが、1学年200人とすれば、3人~4人程度になりますので、かなり競争率は高いように思えてきます。

  • 北の国から のコメント:

    tokumei2 さん

    1.8人にして世帯を基準にするなら、「世帯の合計の資産」になりませんか?であれば、5000万+5000万でも 7000万+3000万でも、3000万+3000万+4000万でも良いことになりますから、一億円以上の「個人」という最初の統計自体が意味をもたなのでは?

    >1学年200人とすれば、3人~4人程度になりますので、かなり競争率は高いように思えてきます。

    私が中学生のころは1クラス40人以上いたので、「1-2クラスに1人はミリオネラになった」ということになります。なので、結構多いように思えます。

  • tokumei2 のコメント:

    北の国から氏の再度ご指摘通りですね。むしろ世帯で見ると、金融ミリオネア層は、多くなりますね。180万人は、個人が100万ドル以上所有していますので、老夫婦であれば2人で200万ドル以上のケースもあるでしょうが、そのような世帯は限られますね。むしろ世帯合算(5000万円+5000万円)で100万ドル以上を所有している層の方が多いでしょうから、金融ミリオネア世帯はかなり存在するということになりますね。橘氏の指摘はかなりあっていることになりますね。となると、NRIの富裕層調査の81万世帯については、為替や調査範囲等の違いはあるにしても開きがあるようにも思えてきます。

  • はる のコメント:

    正しい統計を導こうという発想が理解出来ない、中央値が妥当でしょう。新発売のスマートフォンを買う為に並ぶ列を見ただけで豊かさは感じますし、逆に配給や生活保護費に並ぶ人生に無責任な列もあるのがこの世界かと。統計というなら、あの購買の行列にどれだけ富裕層がいるか調べた方が面白い。
    一億以上という金額はおそらく「将来の金銭的な不安」はこれぐらいで払拭できるだろうという庶民レベルに照らし合わせたものでしょうが正直足りない・・・と自覚して初めて富裕層への道程が出来るはず。その為に国・地方の議員の元に参っては(献金活動)、税法の抜け道作成や税に有利な法律の維持に努める連中もいる・・・三世代以上に渡って。努力すれば誰でもお金持ちになれる(らしい)アメリカは、子供の頃からファイナンスしかり模擬投資の授業をしてますから可能性はありますよね。前に銀行の利子で世界旅行をされてる夫婦の事を余談で書きましたが、事業の不動産の顧客に海外のビリオネア家族がいたそうです。印象的な特徴は、「ディスカウント」知らず・・・それどころか倍返しでお礼が返ってきたそう(買った豪邸に社員を無料で招待しかつ無制限で自由な観光をしてくれと、全ての費用請求はこちら持ちでいう内容)。
    トリクルダウンが隔年して実現出来れば、何世帯であれ富裕層が存在すればいい。うちは3/4人で億単位は資産ありますが、全然富裕層なんて器じゃない。不安は解消出来ても上には上がいますから・・・。

  • ホムーラン のコメント:

    自宅資産も含めて1億円は、少なくとも日本ではお金持ちではないですよね。
    「お金持ち」と言われてイメージする生活を送れるのは10億円くらいからかなと私も思います。

  • G のコメント:

    平均的な資産額ではなく、
    1億円以上の資産を持つ人の割合を計算するのに
    中央値を持ち出す意味がわからない。

    1億円以上の資産を持つ人を富裕層と定義するならばという前提条件があるのに、
    個々人の持つイメージで富裕層を語る。
    アンケートじゃん。

  • はる のコメント:

    >G氏

    単年の統計で導き出した結論(日本及び先進国は豊かだ)に疑問符なだけ、橘先生の統計や計算法は否定してません。ただどうしてもこれ(平均値)を成立させたい人達に言いたいのは、例えば人口が一億人に達してからほぼ最近までの比率のデータを提示する必要があるじゃないの?あくまで例えですが12人に1人から現在では10人に1人は定義上の富裕層が増えた・・・となれば、そりゃ豊かですねとなる。
    たった一年のデータで豊かさを図りたいならアンケートや中央値で充分かなと。また社会活動家に、10人に9人は満足な生活が出来ていないと、愚直で安易ですが逆手に取られる恐れだってありますよ。

  • G のコメント:

    >あくまで例えですが12人に1人から現在では10人に1人は定義上の富裕層が増えた・・・となれば、そりゃ豊かですねとなる。

    昔に比べて豊かになったかどうかの話じゃないよ。
    「今」富裕層と定義される人が、どれくらいの割合でいるかの話だよ。

    >また社会活動家に、10人に9人は満足な生活が出来ていないと、愚直で安易ですが逆手に取られる恐れだってありますよ。

    そういう輩は、どんな数値だって逆手に取りますよ。
    そして、逆手に取られたところで、そういう輩の主張には全く説得力ないよ。

  • はる のコメント:

    例えば(毎度内容厳し目だけど)、1や16の意見や感想の出し方があって議論や反論ありきになるんだけど・・・あなたには少し必要な事だと思う。無意味ですよ、あまり読解力テスト並みに他者と絡むのは。

  • 匿名 のコメント:

    >これを富裕層の定義とするならば、日本はアメリカを抜いて、人口比では世界でもっともゆたかな国になる。

    なんでアメリカ除くの?アメリカ除いて最も豊か~とか言いたい理由でもあるん?

  • T のコメント:

    >なんでアメリカ除くの?

    よく読んでからコメントしましょう。
    そんなことはひとことも書いてないから。

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