沖縄をタックスヘイヴンに(2)

「沖縄をタックスヘイヴンに」のエントリーに、予想外の反響があった。政策にかかわるひとたちも読んでくれているようなので、これが荒唐無稽な話ではないことをもうすこし説明してみたい。

私の提案は、沖縄にジャージーやガーンジーのような自治権を与えることだ。とはいえ、ほとんどのひとはチャネル諸島なんかに行ったことがないだろう。

ジャージー島は伊豆大島くらいの大きさで、人口は約9万人、1人当たりGDPは56,000ドル。首都セント・ヘリアはこんなところだ。

セント・ヘリア(ジャージー)


ガーンジー島はひとまわり小さく(八丈島くらい)、人口は約65,000人、1人あたりGDPは約4万ドル。首都セント・ピーター・ポートはこんな感じだ(港のすぐ裏手が丘陵になっていて、平地はほとんどない)。

セント・ピーター・ポート(ガーンジー)


ちなみに、日本の1人当たりGDPは約39,000ドルだから、漁業と牧畜、観光以外さしたる資源のないこの小さな島のひとびとは、日本よりもずっと豊かだ。

この写真を見ればわかるように、どちらの町にも高層ビルはひとつもない。「オフショア金融センター」という言葉から、香港やシンガポールのような摩天楼をイメージしたひとはびっくりしただろう。

なぜこんな田舎町で、最先端の金融ビジネスが営めるのだろうか。その秘密は、「世界がタックスヘイヴンになる日」のなかで書いた(タックスヘイヴンの本当の所在地)。

金融業は純化した情報産業で、タックスヘイヴンはヴァーチャル空間(電脳空間)の中にある。ロンドンのシティに本拠を構えるグローバル金融機関は、イギリス周辺の島々の「自治権(主権)」を利用して、巨大なオフショア金融市場をつくりだしているのだ。

ジャージーやガーンジーの金融機関にあるのはコールセンターと営業部門だけで、資金運用やデータの管理はすべてロンドンの親会社が行なっている。銀行には顧客用の窓口すらなく、ドアを開けると、受付の脇に応接セットが置かれているだけだ。

沖縄にオフショア金融センターをつくるとしても、バックオフィスだけなら、新規の公共投資はほとんど必要ない。現在のインフラだけで、十分にスタートできる。

前のエントリーで、「沖縄がタックスヘイヴンになっても、国内の金融業や税収に影響を与えることはない」と書いたけれど、これは正確ではない。沖縄タックスヘイヴンに東アジアから膨大な資金が流入すれば、ロンドン・シティと同様に、東京に巨大なオフショア金融市場が誕生するだろう。日本の金融業は空前の活況を呈し、その収益で金融機関はふたたび税金を納めるようになるにちがいない(よく知られているように、バブル経済のツケで、日本の銀行は利益を上げても税金を払っていない)。

98年の金融ビッグバン以降、日本政府は「金融のグローバル化」を叫びつづけているが、現在にいたるまでなんの成果も上げていない。外資系金融機関は東京から上海へアジア拠点を移し、日本の金融業はドメスティックなビジネスに張りついたままだ。「沖縄タックスヘイヴン」には、この閉塞した状況を劇的に変える大きな可能性がある。

もちろん、沖縄の潜在力はチャネル諸島の島々よりもはるかに大きい。最初は東京のバックオフィスとしてスタートしても、いずれは香港やシンガポールに匹敵する金融センターへと成長していくだろう。

閉塞する日本社会に必要なのは、みんながびっくりする(わくわくする)ようなイベントだ。東アジア最大のタックスヘイヴンつくるのは、沖縄問題も、金融の国際化も、日本の不況もまとめて解決できる妙案だと思うのだけれど、どうですか、菅総理。

PS おまけとして、タックスヘイヴン化にともなう制度設計もタダでできるという話を次頁で書いた。興味のある方はどうぞ。