ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。
今回は2015年7月公開の記事です。(一部改変)

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私がアテネを訪れた2010年の冬は、ギリシアがデフォルトの瀬戸際に追い詰められ、国会議事堂のあるシンタグマ広場周辺はデモ隊がたくさん集まっていた。
ギリシアがユーロ危機の引き金を引いたのは2009年10月で、巨額の財政赤字が粉飾によって隠されていたことが明らかになり、国債の暴落で金融支援を要請したのが翌年4月。資本規制が始まって銀行の窓口やATMの前には長い行列ができ、「反改革」のデモが激しくなった。
過激派の投げた火炎瓶で死者が出たこともあって、日本でも夏ごろまではさかんに報道されていたが、さすがに半年以上経つと海外メディアの姿もほとんど見なくなった。しかしデモに集まるひとたちは意気軒昂で、路上のあちこちで大声で議論をたたかわせていた。
ギリシアの財政状況についてはすでに詳しく報道・解説されているからここで繰り返すことはしない。ニュースを見て思うのは、世の中はかぎりなく残酷だ、ということだ。
「55歳から年金をもらう権利」のための反EUデモ
2010年1月の総選挙で、まがりなりにも財政再建に努力していたアントニス・サマラスが破れ、「EUの再建策を拒否して国民の年金を守る」と公約した急進左派連合のアレクシス・チプラスが首相に就任した。そこからEUとの関係が悪化し、ギリシアの財政破綻が現実味を帯びてきた。それから半年ちかくたっているのだから、富裕層はもちろん中間層ですら、虎の子の預金を自宅の金庫に隠したり、海外に避難させるにはじゅうぶんな時間があったはずだ。
スイスのプライベートバンクでなくても、タックスヘイヴンのキプロスならギリシア語で口座開設できる。キプロスも財政破綻と預金封鎖を経験していて不安なら、地中海のマルタとか、フランス・スペイン国境のアンドラとか、イギリス領の飛び地のジブラルタルとか、あるいはジャージーやガーンジー、マン島など英国王室領の島々とか、ヨーロッパには富裕層でなくても利用できるオフショア金融センター(タックスヘイヴン)がいくらでもある。
旅行のついでにそういうところで銀行口座をつくっておけば、クリックひとつでギリシア国内の預金全額を送金することだってかんたんだろう。――念のために説明しておくと、ここで重要なのは非居住者でも金融機関に口座開設できることだ。日本と同じく、ヨーロッパの主要国でも労働ビザなど正規の滞在資格を持っていない外国人は銀行口座を開設できない。
もしそれが無理でも、ギリシアでは家族や親戚の誰かがドイツなど近隣諸国に出稼ぎに行っているはずだから、その口座を借りるだけでも「キャピタルフライト(資本逃避)」は可能だ。ヨーロッパはいまやひとつの「国」で、マネーが国境を越える敷居はものすごく低いのだ。
ほとんどの個人や法人は決済に必要な最低限の預金を除いてすでに“避難”を終えていると考えれば、ATMに並んでいるのがどんなひとたちなのかは容易に想像がつく。彼らは、毎月振り込まれる乏しい年金以外に預金などまったくなく、いまあるありったけの現金を引き出す以外に資産を守る術をなにひとつもっていないのだ。 続きを読む →
