タックスヘイヴン ──揺れる「無税の楽園」 『ファンド情報』2009年8月10日号


チューリッヒから湖に沿って列車で1時間ほど南東に下り、山間の保養地サルガンスでバスに乗り換えて約30分で終点のファドゥーツに着く。道中はのどかな田舎の風景がつづき、検問はおろか国境を示す標識すらないが、小川をひとつ渡ればそこは世界でもっとも小さな国のひとつ、人口3万4000人のリヒテンシュタインだ。

首都ファドゥーツの中心は郵便局で、そこに観光案内所、歴史博物館、バスターミナルなどが集まっている。街を見下ろす山の中腹に中世の古城があり、リヒテンシュタイ家の当主であるハンス・アダム二世がいまも暮らしている。1719年、ハプスブルク家の高官であったヨハン・アダム・アンドレアス侯爵が神聖ローマ帝国より侯国の認可を受けたのが国のはじまりで、ナポレオン革命とドイツ連邦成立という一九世紀初頭の大動乱を生き延びて、国連に正式加盟する主権国家の地位を獲得した。

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世界がタックスヘイヴンになる日 月刊『中央公論』2009年6月号


香港人のプライベートバンカーからその奇妙な名刺を見せられたのは、3年ほど前のことだった。名前のほかに、携帯電話の番号とホットメール(マイク ロソフトが運営する無料メール)のアドレスしかない怪しげな名刺は、日本出張の必需品だという。それ以外にも、顧客情報の入ったパソコンの携行は許されず、資料はあらかじめ現地の知人宛に郵送しておくなど、さまざまな規則があるのだと教えられた。

その当時、UBS、クレディスイス、香港上海銀行など大手金融機関のプライベートバンク部門は、香港に日本人(および日本語を話す外国人)担当者からなる「ジャパンデスク」を擁し、日本の富裕層を積極的に開拓していた。いずれも歴史と信用を誇るグローバル金融機関ばかりだが、それがまるで犯罪者のように身分を偽って入国審査をすり抜けるのだ。彼はジョークとして語ったが、私にはそれが真っ当なビジネスだとはとても思えなかった。 続きを読む →

秘密暴かれるUBS、揺れる富裕層 『日経ヴェリタス』2009年3月15日号


顧客情報流出

まるでハリウッド映画のような、としか形容しようのない事態の展開で、世界最大の金融機関のひとつが窮地に陥っている。

2008年2月14日、ドイツ司法当局は脱税の容疑でドイツポストのツムウィンケル会長の自宅・事務所を強制捜査した。その4日後、ドイツ連邦情報局BNDはリヒテンシュタインの皇室が経営する大手プライベートバンクLGTの顧客情報1,400件を460万ユーロで購入したと発表した。 続きを読む →