「タリフマン(関税男)」を自認するドナルド・トランプは、アメリカはずっと不利な貿易条件を強要・搾取されてきたとして、それを是正するために、中国だけなく日本やEUなど同盟国にまで高関税を課しました。関税で“懲罰”を加えれば、相手国は不公正な貿易慣行を是正せざるを得なくなり、海外に移転していた鉄鋼・自動車などの製造業がアメリカに戻って、ラストベルト(錆びついた地域)は荒廃から復活できるというのです。
ところがニューヨーク連邦準備銀行の調査で、アメリカの平均関税率は2025年はじめの2.6%から年末には13%まで上昇したものの、トランプが輸入品に課した関税の約9割は、アメリカの企業や消費者が負担していることがわかりました。米議会予算局(CBO)の直近の報告書でも、関税による輸入品価格の上昇分の大半は米側が吸収し、その3割が企業負担、7割が消費者負担と推計されています。
トランプ関税に反対する経済学者らは、関税は「外国への課税」ではなく、輸入品価格の上昇によって国内物価が上がるだけだと批判しました。実際、消費者物価指数(CPI)は2025年3月の2.4%から夏(9月)には3%まで上昇しました(その後、インフレ率は下がっています)。関税とはいわば「消費税」の別の名前だったのです。
消費税は輸入品だけでなく、国内のすべての商品(食料品などが軽減される場合もある)に一律に課せられるので、税率を上げても外国と経済紛争になることはありません。それに対して関税は、特定の国を制裁対象とすることで国際関係が緊張します。輸入品を通じて間接的に課税する関税は効率が悪いように思えますが、それが政治家に好まれるのは、消費者に税を課していることをごまかせるからでしょう。
経済学の理論に反し、連邦最高裁でも違憲とされたトランプ関税を「ブードゥー(呪術)経済学」と揶揄するのは簡単ですが、そもそもグローバリズムが諸悪の根源だとして、2000年前後にWTO(世界貿易機関)に対するはげしい抗議行動を行なったのは労働組合、環境団体、開発NGOなどの左派(レフト)でした。それがいまや、トランプはWTOから脱退すると脅し、供出金の支払いを一時停止しています。
「反グローバリズム」であれだけ大騒ぎしたのですから、左派はトランプの関税政策を熱烈に賛美するか、さもなくば自分たちが間違っていたことを認めるほかありませんが、自分たちがなにをいっていたのかを忘れてしまったようです。これはあまりにも不誠実でしょう。
もうひとつ、日本はトランプ関税の「被害者」とされていますが、その一方でコメや牛肉に高い関税を課しています。関税は「消費税」なのですから、これは日本の消費者に高い食料品を買わせることで一部の農家を守っているわけです。
コメ価格の急激な上昇で社会が動揺したとき、インフレ対策として各党は消費税減税を掲げましたが、「関税を撤廃すればコメの値段は安くなる」という正論を唱える政治家はいませんでした。これを「同じ穴のムジナ」というのでしょう。
【後記】この記事はアメリカとイスラエルによるイランへの攻撃より前に執筆されましたが、トランプが軍事的な冒険を選んだ理由のひとつは、関税が思ったような効果をあげなかったことだと思います。
「トランプ関税 9割は米国側負担」朝日新聞2026年2月16日
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