高市早苗氏が初の女性首相に選出されたのを機に、新しい日本のリーダーへの期待を書いてみたいと思います。
石破前首相は著書で、日米安保条約は「世界で唯一の非対称双務条約」で、日本から見れば、米軍人の犯罪を捜査する権限や基地の管理権などの「主権」を譲り渡し、アメリカから見れば、実際に戦闘行為に参加するのが米軍だけという不満の温床になっていると指摘しました。
トランプ大統領も日米安保条約を「不公平」と批判しており、その認識は石破氏と一致しています。しかし石破氏は、関税交渉の材料にされることを警戒したのか、在任中にこの問題でトランプ氏と話し合うことはありませんでした。新首相にはぜひ、米国大統領と堂々と渡り合い、非対称な日米関係を対等な同盟関係へと正常化してほしいと思います。
これは政治学の常識ですが、近代国家は暴力を独占するかわりに、それを法の支配の下に置いています。そのなかでも軍は最大の「暴力装置」ですから、世界のどの国も軍刑法や軍法会議(軍事裁判所)の規則を定めています。
ところが日本だけは、自衛隊という重武装の軍隊をもちながらも、それを統制する法がありません。自衛隊の戦闘によって民間人が死傷した場合、検察官が自衛隊員を被疑者として刑法199条の殺人罪で起訴したり、民事裁判で戦闘で生じた被害の損害賠償を請求するしかないという、異常な状況が放置されているのです。
こうした事態を解消するには、憲法9条を改正して自衛隊を軍として認めたうえで、その「暴力」を民主的な法の統制の下に置かなくてはなりません。保守派の高市氏を当然、このことを熟知しているでしょうから、在任中にぜひとも実現してほしいと思います。
経済面での喫緊の課題は、金銭解雇のルールを導入して、労働市場に流動性をもたせることです。日本経済は空前の人手不足ですが、じつは企業は膨大な数の「不活性人材」を抱えています。会社にしがみつくしかない社員は、仕事への満足度も、会社への忠誠心も低く、その結果、あらゆる国際調査で日本の労働者のエンゲージメント率(仕事のやる気)は最低です。
企業が公正なルールにのっとって社員を労働市場に戻すことができるようになれば、社内に活気が生まれるとともに、人手不足も緩和できるでしょう。
それ以外では、安楽死法案をぜひ国会で議論してほしいと思います。欧米を見れば明らかなように、いまや死の自己決定権はリベラルな社会の前提で、新聞社などが行なった世論調査でも日本人の7割以上が安楽死の法制化に賛成しています。
安倍元総理は、「国際標準では私がやっていることはリベラル」と述べていました。「支持率下げてやる」騒動でわかったように、マスメディアは政治も政治家もバカにしながら、自分たちに都合のいい「報道」ばかりしてますが、「まっとうな保守こそがリベラルである」ことを示せば、似非リベラルたちを黙らせることができるでしょう。
註:コラム掲載時点では首相が決まっていませんでしたが、高市氏の選出を受けて一部加筆しました。
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