この夏の参院選では「外国人問題」が焦点になり、「外国人が社会保障制度にただ乗りしている」との主張があふれましたが、これを論じる前提として、まずは制度の基本を押さえておく必要があります。
外国人であっても、日本に居住していて20歳以上、60歳未満なら国民年金・厚生年金への加入義務があります。ただし、年金を受給するには10年以上の納付期間が必要で、技能実習生のように、短期間しか日本で働かない場合は納めた保険料が丸損になってしまいます。そのため脱退一時金の制度が用意されているものの、受け取れるのは最大5年分までです。
実際には、日本で働いている外国人の若者の多くが、年金保険料を払っても、なんの給付も受けずに帰国していきます。逆にいえば、日本国は彼ら/彼女たちから保険料を「搾取」し、それを日本人の高齢者の年金の原資に充当しているのですが、このことについてはなぜかどの政党も触れません。
それでも、「外国人は国民健康保険の未納率が高い」との反論があるかもしれません。SNSで「外国人の国保の未納は年間4000億円」とする投稿が広がり、それに対して厚労省は、2022年度の未納額が日本人を含めて1457億円と反論しました。そこで次に、外国人の納付率が24年4~12月に63%だったことが注目されたのです。
国保の未納率は全体で7%ほどなのでこれはたしかに「問題」に思えますが、その一方で医療費全体に占める外国人の割合は約1.4%と低く、1人あたり医療費も日本人の3分1であることは触れられません、。そこで、国保の実態を見てみましょう。
会社員は健康保険料の半額が会社負担で、それでも給与・ボーナスから天引きされる保険料の負担は年々重くなっています。ところが国保にはこの会社負担がないため、加入者は(会社員の自己負担分の2倍の)きわめて重い保険料を課せられています。
保険料は自治体によっても異なりますが、東京都内の自治体を例にとれば、40歳以降が納める介護分を除いても、均等割だけで年6万4100円、これに所得の10.4%の所得割が加わりますから、所得200万円の場合の保険料は約27万円、これに国民年金保険料を加えると、納めるべき社会保険料の総額は約48万円で所得の4分の1にもなります。
それでも国保全体の納付率が高いのは、保険料の軽減措置があるからですが、これは貧困世帯や年金を受給する高齢者を想定しており、一定の所得がある現役世代はまったく使えません。その結果、満額の保険料を払っているのは加入者の3割程度という異常なことになっています。働いている外国人の保険料納付率を議論するなら、年金受給者など軽減世帯を除いて比較すべきでしょう。
それ以外にも会社員とちがって、国保は専業主婦でも保険料免除はなく、子どもが生まれたときから納付義務が生じます(小学校入学まで納付免除や減免にしている自治体もあります)。国保の制度は、短期で働く外国人だけでなく、日本人の(とりわけ子どものいる)現役世代にとっても、ものすごく過酷で理不尽なのです。
超高齢社会の日本の社会保障費を圧迫しているのは、高齢者が多すぎることです。そのファクトに触れることなく「外国人」ばかり批判するのは、いい加減やめるべきでしょう。
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