北朝鮮が「水爆」実験をする合理的な理由 週刊プレイボーイ連載(227)


北朝鮮が水爆実験に成功したと発表したことで、朝鮮半島がいまだ緊張状態にあり、日本もこの奇怪な国とつき合っていくほかない現実を思い知らされました。しかしなぜ、金正恩第1書記はこんな危険なゲームをつづけるのでしょうか。

もっともわかりやすい説明は、長年の鎖国政策と独裁によって政治指導者がもはや正常な判断を下せなくなっている、というものです。日本の報道をみても、軍事パレードやマスゲームの異様な映像を背景に、「あたまのおかしい権力者」「洗脳されたかわいそうな国民」という図式がほとんどです。

しかしこうした(暗黙の)常識とは逆に、北朝鮮がきわめて合理的に行動しているとしたらどうでしょう。

北朝鮮がもっとも大きな利害関係を持つのは、アメリカでも韓国でもなく、中国です。たびかさなる核実験によってきびしい経済制裁の対象となっている北朝鮮は、中国に完全に依存するようになり、中朝間の金融・貿易の流れを止められればたちまち破綻してしまいます。逆にいえば、ここまで孤立してしまうと、中国との関係さえ維持できればあとはどうでもかまわないのです。

だとしたら、中国の北朝鮮政策はどのようなものでしょうか。

2010年末にウィキリークスでアメリカの外交公電が暴露されましたが、中国高官はアメリカの大使に、北朝鮮は「駄々っ子」で「彼らのことは好きではないが、それでも隣国だ」と述べていました。北朝鮮の暴走のたびに、後見人である中国は国際社会からその責任をとわれるのですから、「いい加減にしてくれ」というのが本音なのは間違いないでしょう。

だったらいっそのこと、金政権を崩壊させてしまえばいいのではないでしょうか。しかしこれは、中国政府にはぜったいにできません。

毛沢東率いる中国共産党は朝鮮戦争に参戦し、北朝鮮とともにマッカーサーの米軍と闘いました。これによって中朝関係は「血で固められた同盟」と名づけられ、中国共産党(毛沢東王朝)の正統性を証する神話の一部になりました。

南北に分断された朝鮮半島はずっと世界の最貧国でしたが、20世紀末からの韓国の飛躍的な経済成長によって、いまでは両国の経済力にとてつもない差がついています。北朝鮮が崩壊すれば、金政権に代わる新たな権力が登場するのではなく、そのまま韓国に併合されることになるでしょう。

しかしこれは、中国から見れば、人民解放軍の血によって獲得した同盟国をむざむざ敵(米国)の手に渡すことにほかなりません。もしそんなことになれば、保守派からのはげしい攻撃によってどんな政権も維持不可能になるでしょう。習近平も当然、このことをわかっているので、北朝鮮がなにをしても政権崩壊につながりかねない制裁をすることはできないのです。

そうであれば、北朝鮮にとってもっとも利益が大きいのは、定期的に核実験やミサイル発射を行なって朝鮮半島の緊張を高め、国際社会からの圧力で政権が危機にあることを示し、“瀬戸際戦術”によって中国からのさらなる援助を強要することです。

そしてこれまで北朝鮮は、この仮説のとおりに「合理的」に行動しているのです。

『週刊プレイボーイ』2016年1月25日発売号
禁・無断転載

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10件のコメント

  1. だから、北朝鮮も中国も韓国も米国も、「自分の国にとって利益が最大になるように行動」
    しているわけだから、橘さんに訊きたいのは、

    「日本」および「日本国民である自分」がどのように行動するべきか?

    ということなのです。

    安易に北朝鮮の金王朝が崩壊すると、欧州のように難民が日本に押し寄せてくるリスクがあるから
    現在の米中のパワーバランスを維持し、金王朝の崩壊を防ぐというのが正しいことなのかも
    しれませんが、北朝鮮の国民は浮かばれませんよね。

    とはいえ、北朝鮮が今後も閉鎖国家であることを望んているのは、日本もロシアも中国もアメリカも
    そして韓国も同じかもしれません。

  2. “事故”で北のミサイル基地が自爆したら、どうなるんでしょうね?大人しくなってくれるかな。

  3. 慰安婦や南沙や靖国、偽の?水爆で大騒ぎしてる東アジアって、
    むしろ世界の中では安定・平和地帯かも

    口げんかですむなら現状維持でいいじゃありませんか

  4. べたな文章です。北は中国にとってその存在こそが重要であって、そこにあればいいのです。アメリカにしたって、生かさず殺さず、暴走させず自滅させず、鼻面を取って取り回ししているだけです。
    日本がどうするかは政治家の力量で決まります。人気取りで迎合して人質奪還などとやれば、要らぬ反撃を招いて予想の付かない反撃やテロを呼び込むでしょう。
    軽薄な政治家に外交を任せれば、そんな失敗を繰り返すでしょう。

  5. 大学の場所はわざわざ分けずにショッピングモールのように一か所にまとめたほうが良いのだ。

  6. 私は、相場でヒドイ目に合っているうちに、ココロがヒネクレてしまいました。

    まずニュースや記事になっている内容は、自分に届いたという時点で既にウソ
    が多く含まれ、そのヒネクレたココロでもってイチャモンをつけないと、元ネ
    タに近づけない、と解りました。そもそも、シロートの一般人が見るようなメ
    ディアに、正しいフレッシュな情報などあるワケありません。昔「新聞を読ま
    ないとバカになる」と言われていましたが、真っ赤なウソです。逆です。

    で、中国と北朝鮮の猿芝居です。この可能性も大いにあります。大体が、外交
    の舞台で本当の事を誇らしげに言うのは我国外務省ぐらいで、他国はウソに少
    しだけ真実を入れて後々のアリバイにしています。

    ミサイルが飛んできて「わーわー」言ってたら、その時にはもう尖閣に赤旗が
    翻っていて「ビックリしたなモ~」と総出撃したら、今度は沖縄に赤旗が・・
    裏口からコッソリとグァムへ帰って行く米軍が「グッドラック、トモダチ!」

    日本は平和ボケを治して「外交は、自分以外は皆敵だ~」として対応しないと。

  7. 初めまして。突然の非礼をお許しください。
    私、和歌山の川村栄三と申します。このたび、産経新聞出版社から辻貴之というペンネームで『「憲法9条信者」が日本を壊す』という本を出しました。副題は「進化心理学と『破壊衝動』」となっています。もしよろしければ、お送りいたします。
    ご検討のほど、よろしくお願いいたします。
    なお、お金を頂くつもりはありませんし、このメールはコメント用でもありません。

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