社員がアルバイトになりたがる不思議な会社 週刊プレイボーイ連載(103)


 

ワタミの渡邉美樹会長が、夏の参院選で自民党から出馬するにあたって、「ブラック企業」との批判に反論しています。

「賃金や離職率、時間外労働時間などいずれの基準でも飲食サービス業の平均を上回っており、ブラック呼ばわりされるいわれはない」という渡辺氏の説明に納得するかどうかは別にして、ありもしない理想の会社を基準にして「反社会的」のレッテルを貼るのがフェアでないのはそのとおりでしょう。徒手空拳から一代で会社を興すのが“普通”のひとではないのは当たり前で、「365日24時間死ぬまで働け」と社員を叱咤する中小企業のオーナー社長はいくらでもいます。ブラックかどうかは、あくまでも法に則って判断するべきです。

ところが困ったことに、この「正論」が問題をさらにややこしくしています。

ブラック企業は、終身雇用の代償として慣習化していたサービス残業などを利用して、社員を最低賃金以下で働かせています。サービス残業が違法なのは明らかですが、この悪習は日本の社会全体に広まっているので、これを基準にすると大企業ばかりか官公庁まですべて“ブラック”になってしまいます。その実態を論じるには、ブラック企業のなかから「ほんもののブラック」を見つけ出さなくてはなりません。

リトマス試験紙のひとつとして考えられるのが、正社員のアルバイト化です。

飲食業界のブラック企業は、残業代をいっさい払わずに正社員を使い倒すことで人件費を抑えようとしています。当然、こんな労働環境では働く気はしませんから、新卒で入社した社員の大半は半年もたたずに辞めていきます。

スタッフが次々といなくなれば店を回していけません。ハローワークに求人を出したとしても、正社員になりたい若者が押し寄せてくるわけではないからです。

こんな時、困り果てた店長はどうするのでしょうか。実は、辞表を出した社員に「アルバイトで残ってくれないか」と懇願しているのです。

アルバイトは時間給ですからサービス残業はありません。そのうえ深夜勤は応募が少なく、アルバイト代は時給1200円程度まで上がっています。正社員と同じ仕事をアルバイトでやれば月収が1.5倍になり、場合によっては店長の年収を超えてしまいます。こうして、「正社員がアルバイトになりたがる」という不思議な現象が起きるようになったのです。

ブラック企業問題の本質は、「正社員は過剰に保護されているのだから会社の無理難題を受忍すべし」という日本的な雇用慣行にあります。“世界標準”の労働制度は同一労働同一賃金で、正社員と非正規社員の「身分格差」は差別であり、サービス残業は「奴隷労働」と見なされます。

しかしそうなると、会社は社員の雇用を保証する理由がなくなりますから、金銭による整理解雇を認めるしかありません。労働市場改革があらゆる改革のなかでもっとも困難なのは、日本社会の中心にいるサラリーマンや公務員の既得権を直撃するからです。

もちろん、正しい解決法が実現不可能だからといって目の前にある問題を見過ごしたりはできません。だからこそひとびとは、バッシングの標的を探すのです。

 『週刊プレイボーイ』2013年6月17日発売号
禁・無断転載 

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15件のコメント

  1. 「正社員だから大丈夫」と思えたのは、1990年までじゃないかな?

  2. 無期、長期の雇用契約を法で禁止したら良いと思う。

    例えば、初回契約は1年まで、再契約最長5年までというように。
    再契約は何度でもすればよい。

    長期雇用の密約もいいでしょう。ただ法的に保証されなければよい。

    既得権を持っていると考えている人たちがそれにしがみつこうとするのは、
    それを手放すと、それ同等又はそれ以上のものをほぼ手にすることが出来ないから。

    法で長期契約を禁止すれば、多くの人が一定期間内に転職することになり、
    転職が普通になりその困難さがかなり軽減される。

    労働者は最初の契約で会社を見極めることが出来、
    より良い職場を選択することが可能になる。
    契約期間内は仕事や賃金を(程度はあるだろうが)保障される。
    再契約するためには、真剣に働かざるを得ない。

    企業はミスマッチや駄目社員を無駄に抱えなくて良い。
    契約期間内はそのリスクを負わなければならないが、
    契約終了時に再契約をする義務はない。
    良い人員を長期間抱えたいならば、待遇を改善しなければならない。

    労働市場を流動化させ転職を当たり前にし、キャリアアップ(ダウン)を現実のものにする。
    ミスマッチをなくし、駄目社員を淘汰し、無駄なコストをかけない。
    学校を卒業して就職したら、とりあえず安泰という幻想を見させるのを止める。

    それに伴い学校教育も変わり、就活より勉学に集中できるかもしれません。

    アルバイトも正社員もない。すべての人が自営業者、プロ労働者となる。
    そして、労働者と雇用者の関係がよりフェアーになると思うのです。

    そもそも、何年も先の会社の状況や労働者の能力など誰にもわからないのだから。

  3. 賛成です。 世間では、「非正規労働者をいかにして正規労働者へ移行させるか」と言う建前論が多いですが、逆の発想で「全員を非正規労働者にする」のが良いと思います。 いわば全員がプロ野球選手のようになる訳で、毎年働きに応じた時給で契約を更新することになります。 もちろん、大企業の部長なら時給5千円とか、役員なら時給1万円とかになるでしょうが、それはもちろん実力があればの話です。 こうすれば、既得権益を持つ窓際族のおじさん達は自然に淘汰され、逆に能力のある女性や若者がどんどん活躍できるようになると思います。 まあ、今の日本ではとてもこんな社会実験は出来ないですね。  

  4. 実は、建前上の資本主義である日本で一番位が高く既得権モリモリなのは、資本家ではなく、
    経営者であり、それを指導する立場にある官僚です。資本家は基本的には損させられます。
    (ワタミさんはオーナー経営者なので、強欲資本家としての誤解を受けやすいのかも。多分、
     強谷欠経営者の方なんじゃないかと)

    ごくごく単純化すれば、会社はムラそのもので、名主は経営者で代官はそのまんま官僚で、
    百姓連中が労働者です。孔子さんの儒学が生きていて、マルクスさんの目の敵である資本家
    なぞ影も形もありません。ハラキリ江戸からギュウドン明治へワープした封建資本主義です。

    今回のテーマの解決策の正解は、一応のところあります。労働市場の流動化です。橘さんも
    昔から書いているように「同一労働同一賃金」で、これに変わる賃金体系にはなんらかの差別
    が含まれます。

    流動化は、現実にはありえません。なぜなら経営者のほとんどがプロパーの雇われ経営者で、
    彼等自身が無能なのに高い報酬を受け取っているからです。「中高年の既得権を取り上げて、
    若い労働者に報いる」などと言うと、もろにブーメランが己のアタマに突き刺さることは、
    良くわかっています。それでなくともムラ社会の中で人間関係を大切にして、百姓代表の名主
    にまでなったのです、己の力の源泉である社内人脈まで破壊する「同一労働同一賃金」はタブ
    ーです。

    代官さまも幕府から俸禄が貰えなくなった時に頼りになるのは誰かというと、今までモナカ
    をもらっていた間柄の人達です。役人という立場上「同一労働同一賃金」を否定しませんが、
    己の再就職先を担保する人脈をツブすようなことはタブーです。

    この国では、昔から若者は老人に喰われてきたのです。今に始まった事じゃないのです。戦時
    なら「お国の為じゃ、爆弾を積んで敵艦に突っ込んでくれ、たのむ!なに、イヤだと?この非
    国民めが~。お前の家族・親族まで含めて大恥さらせ!あっ?よしよし、行ってくれるか」
    そして散っていった者は、多数。

    生きがいのある仕事を見つけて、大切な家族と共に、いつまでもいつまでも幸せに暮らしまし
    たとさ、などというサヨクの好きな人権のお伽話などは無い。現実の世の中はキビシー。

    でも、「使用人として幸福になりたい」などとは、水に濡れずに泳ぎたいと思っているサカナ
    です。そんな人であれば、「24時間働け!でないと良き起業家になれんぞー」と真剣に思って
    いるオーナー経営者の所では、さすがに働いてはいけませんね。

  5. 橘さまへ。

    最後の数行をもっと噛み砕いて説明してください。
    アルバイトや非正規労働しかしたことのない我々には理解できないのです。

    ちなみに我々がたどり着ける職のほぼすべて、やはり明らかに社員様の方が待遇も処遇も有利でした。
    ワタミさんは知りませんが、製造業ではあきらかに社員様の方が高待遇です。
    それは、ブラック企業ではない、という証なのかもしれませんが、
    いづれにせよ我々は未来永劫たどりつくことの出来ない楽園なのだと思います。

  6. >「ほんもののブラック」を見つけ出さなくてはなりません。
    何を言っているのかよくわかりません。
    ブラック企業に本物も偽者も無いと思います。
    法令違反=ブラック企業です。

    >大企業ばかりか官公庁まですべて“ブラック”になってしまいます。
    その通りです。ほとんどブラックですよ。
    その事実をまずしっかり受け止めなければいけませんね。
    恥の概念があるなら。

  7. 私の以前いた会社ではアルバイトでも普通にサービス残業はありました。

    >アルバイトは時間給ですからサービス残業はありません。

    これは事実誤認ですね。

  8. ある種の市民道徳を国家が形成推進した戦前の日本が崩壊した後、戦後は企業が日本人の労働倫理資源を活用し、生涯を保証することで人々の自己統治への欲求を満足させる共同体の役割を果たして来た。企業の国際競争力の低下によりその役割を放棄せざるを得なくなった。労働市場の柔軟化より生き残りの方法はないからだ。外国人や派遣社員の活用だ。その中でも日本人の労働倫理を逆手にとって奴隷労働的搾取をする企業も現れた。それがブラック企業だろう。それは法的に厳罰に処するべきだ。私企業であろうと公務員であろうとだ。国家が日本人の倫理形成の中心となり、人々の生活の最低保証を行い、自己統治の欲求を吸収できる真の共同体とならなければいけない。
    経済のパイを大きくして分配を….というような経済論理も重要だが、その前に必要なものは人々が所属感を持てる強い政治共同体だ。

  9. 社員で採用される力がなく、非正規でその[「いい企業」に働いているということ。それに対して不平をゆうならば、学歴も何もあったものじゃなくなる。そもそも、その企業に就職する力がなかっただけのことである。それを非正規は損などと、ありえない。じゃ社員で入社してみろよ!その学歴や力があれば社員で入社できていたのだ。同じ仕事で待遇が違う!?学歴やコネクションの力、が違うのである。

  10. 自分が働いた会社(体質の古い建設会社です)しか知りませんが、20代後半から自分の仕事に自信がついてきたと感じたとき、残業すれば時間外報告をするようになりました。当然、上司からは時間外報告を書くなという話はされました。同僚からも控えた方が良いとアドバイスもされました。でも、自分が必要だったと判断した職務遂行の勤務延長時間は申告すべきでしょう。
    就業規則と自分の判断を信じて時間がかかっても仕事をやり遂げないでどうするんでしょう?
    周りがどうとか、どう思われるかの起きてもいない憶測で流される生き方でいいんでしょうか?
    社会の仕組みや心理をいろいろ考えることは第三者的にはおもしろいと思うし、本にもできるでしょう。でも現実として職場で自分が陰湿な処遇を受ければ、その時点でどうするか(時間外を請求しないとかいろいろと)考えればいいと腹を決めることが、自分にとって最も大切なことではないでしょうか。考える葦でしょ人間は。

  11. 橘先生の記事を見ているとバブル崩壊後1990年代後半の就職氷河期と叫ばれていた時期に、なんとなく思っていたことがあります。何かの本で読んだ一節だったと思うのですが、その一節とは、「今後日本のあらゆる仕事は個人が職人のような請け職となる、それで仕事の安定を得るために職工組合的な集まりになる。」という予測でした。言い換えると、世界史を習った方ならピンとくると思いますが、「社会はイタリアのギルドになっていく。」という結論でした。経済が縮小傾向のなか、時代の要請もあり、企業側がそれを先に取り入れ、「アウトソーシング」という名の委託事業が華を開くことになりました。それが当たり前だと社会が認識した時期から「非正規雇用」という言葉が社会に現れてきたように思います。
    正社員になり、社会的に安定した地位と収入を得たい若者とそれを利用して過酷なサービス残業を強いてきた企業。そこがブラック企業を生む下地になりましたが、橘先生もご指摘の通り、中小企業ならそういうことは今でも普通にあることだと思います。ブラックの中のブラックを探さないと本当のブラック企業が分からないという指摘は、若者が安定した職をえる権利があるという主張もありますが、人口が減るこの国は、仕事を選ぶことができる幸せな時代は終わったと感じます。若者が過重労働、しかも不安で押しつぶされるような雇用形態や社会の在り方は問題ですが、それを突き詰めていくと若者が皆社会に出るときは公務員以外自営業となってしまうか、暴論ですが近い将来に新入社員は全員非正規かつ期限付採用、採用期間中の能力の有無で正社員登用なんていう想像するだけで恐ろしい時代がやって来るのではと思います。

  12. ホリエモンや柳井さんと違って意外と正統なジャパンドリームの体現者って・・・ナベミキじゃないですかね。本質はブラックというよりスパルタというだけな気がするし、彼自身何気にナルシスト的ノブレスオブリージュの域を目指している。では本物のブラック企業はというと・・・実は案外途中で淘汰されたり自然と消えてる会社が多い、だから上場なんて到底出来ないですよ、本物なら。彼は株価に影響が出るから反論してる(正しい経営判断)だけだし、それでも世論が彼を許せないならスパルタ社風を叩くか労働組合が無い事や何よりグループから提供されるサービスの優劣等を追求するのが筋ですよ、余計なお世話ですが。まぁ・・・介護食はレベルが相当低いそうですよw下働きも人に従うのも嫌なら知恵を絞り出すしかない、発明でも出世法でも金融投資でも変なダイエットでも詐欺でも作家に転職でも、それが資本主義ですから。嫌なら共産党があるじゃないか、アメリカには真似出来ない最終兵器ですから虐げられてる方は参院選で清き一票をどうぞ。世界一だ政治家になるんだという人には批判は届かない、だから政治で反乱を起こせばいい。為替相場を動かすより簡単な事・・・いや僕は左翼じゃないですよ。

  13. 非正社員は本来労働力の調整弁としての役割を持つために生まれたはずなのに今では安い労働力の代名詞になっている。
    それが一番の問題では?
    非正社員こそ正社員より労働単価を上げ正社員と変わらない仕事をしてるにも関わらず不安定な立場に置かれている彼らに報いるべきなのでは?
    当たり前のように非正社員を安い労働力と刷り込まれてしまってる社会は、目を覚まさなければいけない。

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