日本はスピリチュアル社会になっていく? 週刊プレイボーイ連載(69)

まず、次の3つの質問に答えてください。

  • A 悪いことをしたらバチが当たると思いますか?
  • B 良い行ないをしたときも、悪い行ないをしたときも、神や仏はこれを知っていると思いますか?
  • C 悪いことをすれば、たとえその人に何事もなかったとしても、その子や孫に必ず報いがあるという言い伝えがあります。あなたはそう思いますか?

おそらくあなたは、いくつかの質問に「いいえ」と答えたでしょう。

次にこの質問を、1976年と2005年の日本人に訊いたとしたら、どのような結果になるか想像してください。

世代が変わるにつれて、「はい」と答えるひとの比率は少なくなると思ったのではないでしょうか。76年にこの調査を行なった研究者たちも同じです。「お天道様が見ている」と信じる素朴な道徳感情は、お金がすべてのドライな世の中では廃れていくにちがいないからです。

ところが30年後に同じ質問をしてみると、驚いたことに、「古いタイプの日本人」が急激に増えていることがわかりました。

76年と05年でそれぞれの質問に「はい」と答えた割合は、質問Aが6割と8割、質問Bが4割と6割、質問Cが3割と4割です。今では日本人の8割は、「悪いことをしたらバチが当たる」と考えているのです。

それ以外にも、この調査では法の融通性と厳罰志向について調べています。

法の融通性とは、「立入禁止の国有林で雑木を刈ってもいい」など、ケース・バイ・ケースで法を柔軟に適用すべきだという意見です。これも社会が「近代化(法化)」するにつれてルール重視に変わっていくとされていたのですが、実際には昔も今も日本人は、「契約は最初に厳密に決めておくほうがいい」ものの、「実情に合わなくなったらその契約は守らなくてもすむようにしてほしい」と考えています。

厳罰志向についての変化はより顕著で、76年には刑罰の厳しさが「ちょうど適当」と答えたひとが3割いましたが05年には1割に減り、代わりに「ややゆるすぎる」「ゆるすぎる」との回答が合わせて7割弱に増加しました。

1970年代にはパソコンもネットもありませんでした。世界がグローバル化してテクノロジーが進歩したにもかかわらず、神や仏を信じるひとが大幅に増えているのはおかしな気がします。

しかしこの謎は、かんたんに解くことができます。昔も今も、最初の3つの質問に若者は「いいえ」と答え、高齢者は「はい」と回答します。30年間の比率の変化は、日本の高齢化とまったく同じです。むかしは「合理的」だった若者も年をとると「素朴な道徳」を好むようになり、厳罰が当然だと主張するのです。

日本はこれから人類史上未曾有の高齢化社会に突入し、2050年には国民の4割が65歳以上になります。それがどのような世の中なのかは、この研究が教えてくれます。

高齢化社会とは、他人に厳しい「スピリチュアル社会」なのです。

参考資料:木下麻奈子「私たちの法への態度は、どのように変わったか」(2007)

 『週刊プレイボーイ』2012年10月1日発売号
禁・無断転載 

消費税10%でサラリーマンの小遣いはなくなってしまう?

『納税通信』10月1日号に「消費税10%時の家計負担」という記事が掲載されていた。「野田内閣が消費税率を10%に引き上げた時の家計負担を試算していた」との朝日新聞(9月23日)の報道がベースになっている。

この試算は、消費税増税に批判的な民主党の国会議員に対し、内閣官房社会保障改革担当室が提示したもので、公表の予定はないというものの、消費税増税の国民負担について、はじめて政府による具体的な数字が明らかにされた。

政府の試算によると、年収500万円の4人家族(会社員の夫、専業主婦の妻と子ども2人)では、消費税引き上げにともなって家計負担が年間11万5000円増加し、これに年金・医療・介護保険料などの上昇、住民税年少扶養控除の廃止、子ども手当て(1人月額1万3000円)から児童手当(同1万円)への移行などを含めると、家計全体の負担増は年間33万8000円(1カ月2万8167円)になるという。

『納税通信』の記事が興味深いのは、この数字を、9月24日に新生銀行が発表した「サラリーマンのお小遣い調査30年白書」と比較していることだ。

「お小遣い白書」によると、飲食など自由に使えるサラリーマンの「お小遣い」は1990年の月額7万7725円をピークに減り続け、2012年には3万9756円まで落ち込んでいる。さらに、家計の状況は中高年ほど厳しく、2006年には20代と50代でお小遣いの平均額が逆転し、また「既婚子あり」のお小遣いは平均3万1328円と、「未婚」の5万394円よりも大幅に少ない(2012年)。家計が逼迫しているのは、子どもを抱える中高年世帯だということがはっきりわかる。

サラリーマンの家計が苦しい理由は、国税庁が公表した民間給与実態統計調査(平成23年度)で明らかだ。民間事業所の従業員(パート・アルバイトを含む)と役員の平均年間給与は409万円で、1997年の467万3000円をピークの下落を続け、22年前の1990年(平成元年)とほぼ同じ水準になってしまった。

また収入の内訳を見ると、賞与を含まない平均年間給与・手当ては上昇しているものの、平均賞与が大幅にダウンしている。業績悪化にともなうボーナスカットによって、サラリーマンの家計は資金繰りに窮するようになったのだ。

「納税通信」21012年10月1日

「既婚子あり」のサラリーマンのお小遣いが平均3万1328円で、消費税10%で家計負担が2万8167円増加すると、消費増税でお小遣いはなくなってしまうことになる。

デフレでも子どものいる家庭が経済的に逼迫するのは、教育コストが上昇しているためだ。子どものいる「標準家庭」の人生設計の破綻が明らかになれば、日本の少子化はますます加速されることになるだろう。

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