中国の金融バブルを解剖する

ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、このブログで再掲載していくことにします。

今回は2014年11月公開の記事です。(一部改変)

Sinseeho/shutterstock

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私が中国で銀行口座を開設してみたのは2000年代のはじめで、その当時の中国経済は破竹の勢いで、多くの専門家は「2008年の北京オリンピックか、遅くとも2010年の上海万博までには人民元は自由化されるだろう」と予想していた。

人民元預金は必ず儲かる?

人民元は管理通貨で、アメリカなどから「人為的に為替を安くすることで輸出を不当に有利にしている」ときびしく批判されていた。そのため中国政府は、為替の変動幅を管理しつつも、人民元高を容認せざるを得なくなっていた。すなわち、人民元を持っているだけでドルベースでは必ず儲かることになる。

そのうえ中国のインフレ率は日本よりもはるかに高いから、当然、預金金利も高くなるはずだ。そう考えると、人民元預金は(ドルベースでは)為替リスクがなく、日本円より金利も高いという、経済学ではあり得ないフリーランチが成立していることになる。投資においてこれほど有利な機会はめったにないから、とりあえず試してみようと思ったのだ。

オフショア(タックスヘイヴン)を除き、先進国の多くは居住ビザを持たない外国人の銀行口座開設を原則として認めていない(カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど移民国家は敷居が低い)。新興国でも同様の規制をするところは多いが、中国は株式市場を外貨(米ドル、香港ドル)建てと人民元建てに分離し、外国人投資家の人民元建て株式取引を認めない一方で、銀行の人民元口座はビザなしでもパスポートのみで自由に開設させている。

*これは2014年時点の話で、現在は中国非居住者の外国人による銀行口座の開設は難しくなっている。

中国の人民元口座の特徴は、アリ地獄型になっていることだ。

名目上はさまざまな制約がついているものの、外貨から人民元への両替は比較的自由に行なえる。これは中国の経済発展が外資に依存していたためで、外貨の両替ができなければ外資系企業は中国に投資できないし、従業員への賃金も払えない。

しかしその一方で、人民元を外貨に両替することは原則として禁じられている。貿易などの実需に関しては例外措置が定められているものの、中国国内の人民元をドルや円などの外貨に換えて海外送金するには中央銀行の許可が必要だから、個人には事実上不可能だ(海外送金できない特別な口座で外貨に両替することは可能)。

こうした規制はおそらくはアジア通貨危機の教訓で、金融不安をきっかけに外国人投資家がいっせいに資金を引き上げ、体制転覆を招いた現実を目の当たりにして、その対策として、中国への投資資金を海外に戻せないようにしてしまえばいい、と考えたのだろう。

もっとも少額の預金者にとっては、こうした規制はなんら障害にはならない。中国の金融機関は銀聯(Union Pay)という決済システムを使っているが、中国人旅行者の増加にともない、いまでは日本でも銀聯カードで支払いができるし、ATMから現金(日本円)を引き出すことも可能だ。あるいは、香港に行ったついでに深圳まで足を延ばし、銀行窓口で人民元を下ろして香港に持ち帰り、銀行や町の両替商でドルや円に両替することも簡単にできる。

人民元の持ち込み、持ち出しは2万元(約30万円)までに制限されており、香港と深圳の間は出入国管理と税関検査があるが、税関はほぼフリーパスだ。その結果、中国国内から持ち出された人民元の現金が香港の不動産に投資され、地価が異常なまでに高騰することになった(もっとも、私は多額の人民元を持ち出したことはないから成功は保障しない)。

実質的なマイナス金利と公共投資の爆発的な拡大

このようになにもかも有利に見えた人民元預金だが、オリンピックや万博が終わっても厳しい為替管理はほとんど変わらず、あいかわらず中国国内の資金を海外送金できないままだ。

人民元の為替レートは予想どおり元高/ドル安に一方的に進んだが、リーマンショック後の“超円高”によって、対円では人民元安になってしまった。とはいえ、対米ドルで4割も切り上がった円相場は、対人民元では15%ほど高くなっただけだから、投資戦略として間違っていたわけではない(現在は円安で、元は2000年以降の最高値圏にある)。

10年前の予想のなかで大きく外れたのが金利だ。

高度経済成長のさなかの中国のインフレ率は比較的落ち着いているものの、3%前後と日本よりはるかに高い。その一方で、物価上昇率を反映するはずの預金金利はずっと2%前後で、インフレ率が5%を越えた2011年でも3.5%までしか上がらなかった。

日本のゼロ金利を考えれば年利3.5%ならはるかにマシだといえるかもしれないが、物価が年率5%で上がっているのだから、中国のひとびとからすれば実質金利はマイナス1.5%で、銀行に貯金しても損するだけという理不尽なことになっている。

なぜこのようなことが起きるかというと、中国では人民銀行(中国政府=共産党)が預金基準金利と貸出基準金利を決めており、銀行間で競争が起きないようにしているからだ。銀行は預金基準金利でお金を集め、貸出基準金利で融資することで確実に3%程度の利ざやを得ることができる。日本の金融業界はずっと大蔵省(現財務省)の護送船団方式といわれてきたが、それをはるかに上回る過保護ぶりだ。

こうした金利政策は、預金者の(マイナス金利という)犠牲のうえに貸出金利を低く抑える効果がある。たとえば2011年の貸出基準金利は6.3%で、インフレ率が5%なのだから、実質金利は1%程度しかない。

その結果、中国で公共投資の爆発的な拡大が起きた。

北京や上海は10年ほど前にようやく最初の地下鉄が開通したが、いまでは東京に匹敵する地下鉄網ができている。中国の高速鉄道は列車事故でさんざん批判されたが、北京・上海を中心に日本の新幹線を上回る広域ネットワークを築いた(運行も正確で、北京・上海間でも高速鉄道の利用が増えている)。高速道路はすでに内陸部の奥地にまで到達し、上下8車線も当たり前だ。

公共事業を請け負う側からすれば、銀行から低金利で資金調達し、工事代金は政府(地方政府)が払ってくれるのだから、こんなにおいしい話はない。このようにして、わずか10年で中国の景観は大きく変わった。

もちろん、こうした「赤い資本主義」には代償もともなう。人民元の為替レートを管理し、金利を人為的に低く抑えようとすると、自由な資本移動を放棄しなければならない。これが「国際金融のトリレンマ」で、中国がこれまでの成功方程式にこだわるかぎり、何年待っても人民元を自由に海外送金できるようになるはずはなかったのだ。

さらに、このおいしすぎる話にはもうひとつ大きな問題がある。

人民銀行(=共産党)の金利政策によって、中国のひとびとは常にマイナス金利を余儀なくされている。しかしこれは「銀行預金しても損するだけ」ということだから、放っておくと預金者はいなくなってしまう。しかしその一方で、銀行は預金金利を引き上げて顧客を勧誘することが認められていない。中国の銀行は政府によって過剰に守られているようにみえて、実際にはこのままでは経営が成り立たなくなってしまうのだ。

こうして、預金とは別に資金調達する方法として、陰の銀行(シャドーバンキング)が登場することになる。

「官製闇銀行」という地雷源

中国のシャドーバンキングは、もともとは政府の認可を受けていない闇銀行として始まった。

貸出金利が決められているということは、銀行にとってはリスクに応じた金利を設定できないということだ。そのため融資は回収の確実な大企業や国有企業(央企)に偏ることになり、ベンチャー企業や中小企業のようなハイリスクな融資先は金融システムから排除されてしまう。

そこで、民間から銀行預金よりも高い金利でお金を預かり、こうしたハイリスク企業に高利で融資するビジネスが急速に拡大した。これが闇銀行で、一時、その存在感は表の銀行システムを脅かすまでになった。

この闇銀行は政府の管理下になく、金融システムを混乱させる要因になるので、けっきょくは厳しい取締りによってほとんど消滅してしまう。とはいえ、闇銀行が担ってきた融資機能は市場には必要不可欠だ。それでどうなったかというと、あろうことか、表の銀行が闇銀行を取り込んでしまったのだ。

闇銀行が一掃されるのと、「理財商品」と呼ばれる高金利のファンド(のようなもの)を中国の銀行が我先に販売し始めるのはほぼ同じ時期だ。理財商品の仕組みは闇銀行と同じで、高い金利(年利5~10%)でお金を集め、それを中小企業などに融資するのだ(その後、融資先は地方政府の不動産開発事業にシフトしていく)。

ところでこの理財商品には、誰がリスクをとっているのかわからない、という大きな問題がある。

ファンドや債券であれば、融資先の破綻などで資金が回収できないときの損失は購入者が負うことになる。これは、ハイイールド債(ジャンクボンド)と同じだ。

ところが理財商品の多くは、顧客に「元本保証」と説明して販売されているという。もしこれが本当だとするならば、融資先の破綻リスクは理財商品を組成した信託会社が負うことになる。もっとも信託会社にはリスクを引き受けるだけの財務基盤がなく、金融機関の子会社の場合も多いので、最終的には販売した金融機関の責任が問われることになるだろう。

さらには、理財商品は実質的に地方政府の保証がついている、という見方もある。
融資先から資金回収できなくなれば「元本保証」していた金融機関も連鎖破綻してしまう。しかし中国の金融機関は実質的に地方政府の管轄化にあり、金融機関が破綻すれば地方政府の共産党幹部にとって大きな失点になる。彼らは出世の妨げになるような事態が起こらないようどんなことでもするだろうから、理財商品のリスクは最終的には地方政府が負っている、という理屈だ。

このように理財商品は、誰にとっても都合のいいように、わざとリスクの引き受け手をあいまいにしたまま販売されているきわめて特殊な金融商品だ。中国の銀行業監督管理委員会によれば、そんな理財商品の残高が2013年3月末現在で130兆円もあるという(日経新聞6月30日朝刊)。これは中国のGDPの16%、人民元預金残高(67兆元)の12%に匹敵する。

さらに米金融大手JPモルガンのアナリストは、「影の銀行」の融資残高は中国のGDPの約7割にあたる36兆元(約583兆円)にのぼると試算している(朝日新聞7月3日朝刊)。こちらのほうが実態に近いとすれば、とてつもない金額になる。

中国経済は、インフレ率に比べて人為的に金利を低く保つことで経済成長にターボチャージャーをつけることに成功した。しかしそれは同時に、銀行とは異なる巨大な“闇の金融システム”を生み出してしまった。

6月20日、中国の短期金利(翌日物指標金利)が1日で7%台から過去最高の13%台に跳ね上がるという異常な事態が起きた。中国の金融当局が、膨張する“闇の金融システム”を制御しようと資金供給を絞ったためとされている。その後、金融市場の動揺を受けて資金供給が再開された模様だが、そうなれば“官製闇銀行”はふたたび膨張を始めることになる。

中国の金融当局はいま、“闇の金融システム”を破綻させずに縮小するという綱渡りのような金融政策に取り組んでいる。しかしこれは、「人類史上最大」といわれる中国の不動産バブルを直撃することになるだろう。その構図については、また稿を改めて書いてみたい。

後記:中国の金融当局は2018年に「資管新規」と呼ばれる資産管理業務の統一規制を発表し、銀行による損失補填を禁止し、投資家の自己責任を徹底した。2020年代の不動産バブル崩壊で大手不動産デベロッパーが破綻すると、理財商品が期日通りに償還されなかったり、元本割れを起こすケースが急増し、多額の個人資産が失われて社会問題になった。

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