超党派の社会保障国民会議で「給付付き税額控除」の導入に向けての議論が始まった。コロナ禍の一律10万円給付が典型だが、日本ではこれまで、なにかあるたびにお金をばらまいてきた。しかしこれでは、あまりに非効率で不公平だ。
突然のパンデミックで仕事を失い、路頭に迷ってしまったひとは、10万円ではまったく足りないだろう。その一方で、お金には困っていないが、とりあえずもらっておく、というひともいたはずだ。
それに対して給付付き税額控除は、一定の所得以下のひとに所得税を減税するだけでなく、控除できなかった差額を現金で給付する。ばらまきに比べれば、このほうがはるかの合理的で公正だ。
制度設計の課題は、所得や資産を正確に把握できないことだ。都内の一等地に暮らす、年金以外に所得がない資産家は給付の対象になるのか。サラリーマンは源泉徴収と年末調整で所得がガラス張りだが、自己申告の自営業者は、給付を受けるために申告所得を調整する誘惑にかられないだろうか。
「税金が安くなる」よりも「お金がもらえる」ほうがずっとインパクトが大きいので、給付付き税額控除を導入した海外でも、制度の定着に苦労しているようだ。
もちろんこうしたことはすでに議論の俎上に上がっているだろうが、ここではあまり触れられない問題を指摘したい。
「マイクロ法人」は私の造語で、自営業者の法人成りのことだ。これによって、「個人」と「法人」の2つの人格を使い分けるという不思議なことができる。
マイクロ法人では、法人(自分)から個人(自分)に役員報酬を支払うが、この額は自由に決められる。法人の所得を減らせば個人の所得が増え、個人の所得を減らせば法人の所得が増えるから、結果的に、どちらの人格で納税するかを選んでいるわけだ。
私がこの方法に気づいたのは20年以上前で、そのときは「個人所得を増やしなさい」が定番のアドバイスだった。当時はマイクロ法人や家族経営の法人は国民年金・国民健康保険に加入するのがふつうで(厳密には違法だったが)、保険料は国民年金は定額、国民健康保険は上限が低く、所得を個人で受け取ったほうが有利だったからだ。
だがその後、政府の景気対策で法人税の税率が大幅に引き下げられる一方で、法人への社会保険加入義務に強化されたことで、状況が大きく変わり、「個人所得を減らしなさい(法人で納税しなさい)」になった。社会保険料は報酬に連動して決まるので、個人の所得を減らすと負担が軽減できるのだ。
ここまでは、制度のバグを利用した一般的な節税(節社会保険料)対策だが、この手法では個人の所得がかなり少なくなることがある(社会保険料負担を最低限にするには年収75万円程度にすればいい)。
だがこれでは、給付付き税額控除の導入で、法人で大きな収入がありながらも、個人で給付を受けるという不合理なことが起きかねない。だからといって、法人の所得と個人の所得を合算して把握するのは簡単ではないだろう。
私にはこれを解決する名案はないが、せめて節税で個人所得を減らしている場合は、給付対象から自主的に除外してもらうオプトアウトの制度をつくるのはどうだろう。これで、不公平感は多少はやわらぐのではないだろうか。
橘玲の世界は損得勘定 Vol.127『日経ヴェリタス』2025年4月25日号掲載
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