アメリカとイスラエルがイランを攻撃し、その報復で石油輸送の要衝であるホルムズ海峡が封鎖されたことで、トランプは日本・韓国・中国に対し、「(米国が)ホルムズ海峡をずっと守ってきた」「我々に感謝するだけではなく、助けに来るべきだ」などと述べました。その直後に行なわれた日米首脳会談では、トランプが自衛隊派遣の確約を迫るのではないかと懸念されましたが、「日米同盟をより強固なものにしていく」と合意しただけで、具体的な要請がなかったことで政府内に安堵が広がりました。
イラン情勢が集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」や、米軍の後方支援活動を行なう「重要影響事態」と認定されれば、自衛隊は米軍とともにイランと交戦することになります。こうした事態は現実には考えにくいものの、ここではその前提として「自衛隊は軍隊として活動できるのか」を考えてみたいと思います。
周知のように日本国憲法は9条で戦争を放棄し、「陸海空軍その他の戦略は、これを保持しない」としています。そのため自衛隊は、国内法では「行政組織」のひとつで、自衛隊員は「軍人」ではなく「国家公務員」、保有している戦車や戦闘機、艦船は「武器」ではなく「装備」とされます。
世界では、軍隊は「軍法」という独立した法体系の下に置かれ、戦場での命令不服従や敵前逃亡など軍規違反が起きた場合、軍人が裁判官・検察官になる軍法会議によって裁かれます。ところが自衛隊は軍ではないので軍法(軍刑法)はなく、刑法や国家公務員法を適用するしかありません(自衛隊法は自衛隊という行政組織を管理するための法律です)。
話がさらに複雑になるのは、戦闘行為で民間人が巻き添えになって被害を受けた場合です。自衛隊の海外での活動でこのようなことが起きたら、警察が現地まで行って捜査し、検察が自衛官を刑法199条の殺人罪などで起訴して、地裁・高裁・最高裁が判断することになります。財産などの損害を被った場合は、被害者は民法にのっとって裁判を起こすしかありません。
こうした欠陥がこれまで問題にならなかったのは、自衛隊は災害救助のための組織で、戦闘をすることが想定されていなかったからです。ところが「台湾有事」をはじめとして、自衛隊に「軍隊」としての貢献が求められるようになって、「軍法のない軍隊」問題を放置できなくなってきました。野党も含め、国会議員の大半が憲法改正に賛成しているのは、この危機感がようやく共有されるようになったからでしょう。
じつはこのことは、保守派だけでなくリベラルなメディアも理解しています。しかし、軍法を制定するには自衛隊を「軍」だと認めなくてはならず、そうなると9条を改正せざるを得なくなるため、見て見ぬふりをしてきたのです。
すこし前のことですが、リベラルな新聞社の記者から、「若手を中心に社内では憲法改正派がほとんどなのだが、団塊の世代の読者の反発が怖くて紙面に書けない」という話を聞きました。リベラルはつねに「自由な議論こそが民主主義の基礎だ」と主張してきましたが、こうした「事なかれ主義」が軍隊について議論することを封殺し、いまやその矛盾が露呈しているのです。
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