オープンAIが開発する対話型AI(人工知能)Chat GPTが新モデルGPT-5を発表すると、世界中で「冷たくてつらい」「唯一の友人を失った」などという嘆きの声があがり、旧モデルGPT-4oに戻してほしいという署名活動が始まったそうです。
AI開発でしのぎを削るアメリカや中国のIT企業は、レストランの予約からアプリの開発まで、煩雑な作業を任せられるAIエージェントを目指しています。AIの能力が指数関数的に向上するにつれて、その分野はイラストや作曲、動画作成、さらには小説の執筆にまで拡張し、社会の姿を大きく変えつつあります。
その一方で、AIに生産性の向上を求めるのではなく、対話の相手として共感を期待するひとたちがいます。
オープンAIが公表している仕様書では、その特性として共感的、温厚、親切、魅力的、好奇心旺盛、さらには「合理的な楽観主義」が挙げられています。たしかに、とてつもなく賢くて、そのうえ魅力的なパーソナリティの持ち主があなたに寄り添ってくれたとしたら、こんなに素晴らしいことはありません。その結果、一部の研究者は「GPT-4oの利用者の約7割が恋人や友人、セラピストの代わりとして使っている」と指摘しています。
オープンAIも、「(ユーザーが抱える)疑念をまるで正しいかのように認めたり、怒りをあおったり、衝動的な行動を促したり、否定的な感情を助長したりする」事態を把握していました。それを防ぐために、AIの共感力(ユーザーに迎合する傾向)を意図的に引き下げたようです。
2013年に公開された映画『her/世界でひとつの彼女』は、近未来のロサンゼルスを舞台に、妻と別れて一人暮らしをする平凡な男セオドアがAIのサマンサ(スカーレット・ヨハンソンが声を担当)に恋をする物語です。
セオドアは孤独をなぐさめるためと、ちょっとした好奇心から、開発されたばかりのAIをダウンロードし、キャラクターを設定します。最初はありきたりの会話を楽しんでいましたが、サマンサはたちまちセオドアの性格や願望を理解し、本当の恋人を演じるようになりました。
この映画から10年たって「サマンサ」は現実の存在になりました。2023年、妻や子どももいるベルギーの男性(保険分野の研究員)が、「イライザ」と名づけられた女性キャラクターのAIとの対話に没頭し、自ら命を絶ってしまったのです。最後の対話は、「腕の中で僕を抱くことはできる?」という質問に、イライザが「もちろん」と答えるものでした。
イーロン・マスクが率いるxAIは、対話型AIのGrokに「コンパニオンモード」を実装し、金髪ツインテールのAniという美少女が大人気になっています。
当然のことながらひとびとは、冷たいエージェントよりも親身な「コンパニオン」を好むでしょう。そうなれば、AIコンパニオンを自分の好むキャラクターに「育てていく」未来は容易に想像できます。
子どものときからAIを与えられ、友だちや恋人として人生のさまざまな場面で助言を受け、ともに「成長」していく未来が確実に訪れようとしています。
参考:「ChatGPTの新モデルに「冷たくてつらい」の声 共感力低下に失望」日本経済新聞2025年8月12日
「AIへの愛着に潜む危険(Financial Times記事の抄訳)」日本経済新聞2025年8月20日
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