世界じゅうが”中国化”するまであとすこし 週刊プレイボーイ連載(344)


仕事場のあるビルの1階でエレベーターを待っていると、ドアが開いてなかに40歳前後の女性がいました。降りるんだろうと思ってちょっと脇にどいたのですが、彼女は私を見て、いきなりドアを閉めたのです。エレベーターはそのまま上がっていって、鍼灸院のある5階で止まりました。

なにが起きたのかとっさには理解できなかったのですが、どうやらその女性は鍼灸院に行こうとして上の階まで行ってしまい、下りボタンを押したものの5階で降りることができず、また1階まで戻ってきたようです。

同じビルに入っている美容院の若い男性がいたので、「待っているのに気づいたのにヒドいよね」と文句をいいました。するとその若者から、「最近、おかしなひとが多いから相手しないほうがいいですよ」と諭されてしまったのです。

新幹線の車内で刃物を振り回したり、ネットのアカウントを閉鎖されたことを逆恨みして復讐したり、警察官を襲って拳銃を奪い小学校で発砲するなど、常軌を逸した犯罪がたてつづけに起こっています。障害者施設の大量殺人や、自殺願望の若い女性をネットで誘って殺していく事件もありました。

「若者の犯罪が凶悪化している」とか、「外国人が増えて治安が悪化した」と思っているひとは多いようですが、あらゆるデータが犯罪は減少し、非行少年率が低下し、日本はどんどん安全になっていることを示しています。

警察の安全相談は1990年代は年間30万件程度で安定していましたが、2000年代から上昇しはじめ、近年は150万から180万件と高水準で推移しています。殺人など重大犯罪の割合は一貫して低下しているのに、体感治安は逆に悪化しているのです。

しかしこれは、考えてみれば不思議なことではありません。世の中が安全になればなるほど特異な犯罪が目立ち、それが大きく報道されることでひとびとの不安が煽られます。こうして、「面倒そうなひとにはかかわらないほうがいい」という常識がつくられていくのでしょう。

じつはこれは、日本だけのことではありません。アメリカでは犯罪の厳罰化で30代の黒人の10人に1人が刑務所に収監され、母子家庭が増えて黒人コミュニティが崩壊してしまいました。イギリスでは「危険で重篤な人格障害(DSPD)」法が2006年に成立し、「潜在的な危険性のある人格障害者」を、法を犯していなくても逮捕・拘束し、治療施設に送ることができるようになりました。

現在では、スマホやネットで収集したビッグデータからテロリスト予備軍などの危険人物を割り出し、犯罪が起きる前に対処する「プリクライム」の技術がアメリカ、イギリス、フランスなどの警察に導入されています。映画『マイノリティ・リポート』の世界が現実になったのです。

しかしなんといっても監視技術で先行するのは中国で、14億の国民を「統一的社会信用コード」で管理し、信用度の低い個人は航空機や高速鉄道の利用を制限されています。日本や欧米でも「絶対安全」を求める声はますます高まっており、世界じゅうが“中国化”する日も遠くないでしょう。

『週刊プレイボーイ』2018年7月9日発売号 禁・無断転載

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1件のコメント

  1. LCCが就航したので、香港や台湾、あるいはベトナムなどによく行くのですが、

    現地では中国共産党一党支配に対する反発はむしろ強いのでは
    と感じますが。

    「一帯一路」は
    かつての
    「大東亜共栄圏」
    と同じですよ。

    >映画『マイノリティ・リポート』の世界が現実になったのです。

    同じフィリップ・K・ディックが1966年に発表した小説『追憶売ります』(We Can Remember It for You Wholesale)を映画化したSF映画の「トータル・リコール」
    という未来もあるかも。

    反乱軍のフリークの首領を探すために送り込まれた
    土方が寝返って

    反乱軍の救世主になるという話で、これはこれで
    マトリックスの元ネタみたいな話ですな。

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