「高等教育の無償化」は教育関係者への巨額の補助金 週刊プレイボーイ連載(292) 


2020年施行を目指して憲法改正を表明した安倍首相ですが、9条と並んで「高等教育の無償化」を掲げたことが議論を呼んでいます。

「わざわざ憲法に書き入れる必要はない」との批判は、9条改正の目くらましを警戒しているのでしょう。「社会保険料から徴収する子ども保険は負担が現役層に偏り不公平だ」とか、「子ども国債は赤字国債と同じで将来世代への借金の先送りにすぎない」との批判もありますが、だったら消費税を引き上げて教育予算を増額すればいいのでしょうか。

この問題を考えるポイントは、そもそも教育無償化が誰のためのものか、ということです。

農家が、「ご飯をたくさん食べれば健康で長生きできる」としてコメの無償化を求めたとしたら、これが農家への補助金であることは誰でもわかります。しかし教育の無償化では、まったく同じことを主張しているにもかかわらず、「子どものため」とか「未来の日本ため」とされて、教育関係者への巨額の補助金であることは誰も指摘しません。

これは国民のあいだに「教育はよいもの」という幻想が強いことと、一般的に教育関係者が頭がいいことから説明できます。彼らはその高い知能を使って教育幻想をまき散らし、政治家や官僚、国民を幻惑して自分たちの懐に税金を投入させようとし、その利己的な所業を自己欺瞞によって気づかないようにしています。優秀な詐欺師と同じように、自分への補助金を「子どものため」だと本気で信じ、きれいごとをいいつづける厚顔無恥は、自分で自分をだましているひとにしかできません。

教育を無償化する根拠として、高卒より四年制大学の卒業者の収入が高いことが挙げられますが、これは奇怪な論理です。

一流大学の卒業生が就職に有利なのは、その希少性が知能と能力の指標として使われているからです。「東大卒」のブランドがあれば誰でも成功できるなら、18歳の全員が東大に入れるようにすればいいでしょう。大卒を増やせば貧困を解消できるというのは因果関係が逆転しています。

もちろん、「賢い子どもが貧しさで進学をあきらめる」ことはあるでしょう。しかしその場合は、奨学金や民間金融機関の教育ローンを充実させればいいだけです。「よい大学にいけば経済的に成功できる」というのがこの話の前提なのですから、社会に出たあとに利子をつけて返済してもらえばいいだけの話で、税金を投入する理由はどこにもありません。

教育無償化の理屈が破綻するのは、「子どものため」に税金を使えと主張するからです。「私的な利益になぜ自分の税金が使われるのか」との批判に抗するには、教育が「社会のため」であることを証明しなければなりません。「人的資本に投資すれば、(犯罪率の低下などで)10万円の税金が将来的に20万円になって返ってくる」というのなら、この話を真剣に考えるひとも出てくるでしょう。

だったらなぜ、「証拠に基づいた」議論ができないのでしょうか。それは、日本で「高等教育」と呼ばれているものの現場にいるひとたちが、働いて税金を納めることのできる人材を養成しているかどうかを検証されると困るからなのでしょう。

『週刊プレイボーイ』2017年6月5日発売号 禁・無断転載

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23件のコメント

  1. 橘さんの支持政党である民主党(現:民進党)が

    子ども手当

    子ども手当(こどもてあて)は、15歳以下の子供を扶養する保護者等に対し、金銭手当(給付金)を支給する制度。
    民主党(現:民進党)政権下の鳩山由紀夫内閣により、2010年(平成22年)4月1日から実施され、野田第1次改造内閣により、2012年(平成24年)4月1日をもって児童手当の名称に戻された[1]。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%90%E3%81%A9%E3%82%82%E6%89%8B%E5%BD%93

    なるバラマキ政策を実施したことは覚えていますよね。

    これが子どものためというより、民主党の集票のためだけの政策だったのと同様に、

    「高校無償化」も

    「高等教育=大学の無償化」も

    その親の世代への集票のためだけの政策だという話ですよ。

    逆に、高校生や大学生をかかえる家庭なら、
    この政策が実施されることへの期待、すなわち

    集票力はとても強い

    のではと思いますけど。

    この勢いで憲法改正まで成し遂げたら

    後世に名を残すこと間違いなし!

    やっぱり安部首相には
    かなりすごい「ブレーン」が
    着いていているみたいですね。

  2. ご自身の理論がさも正論のように書いていらっしゃいますが、教育に関するコストを無償化する事は、少子化対策として効果的であると共に、将来社会保障を担う世代を育成すると言う意味で、正当化することが出来ます。問題は、その費用が必要以上に膨らむことが内容にしっかり監督監視することです。

    子どもの教育費がかかるからという理由で二人目三人目の子どもを断念する夫婦が多いことからも、少子化対策に効果的であると言えます。また、現金給付型の場合、特に貧困世帯の場合に子どもの教育に使われない可能性が大きいことからも、教育そのものを無償化する事で貧困の再生産を防ぐことにもつながると言えます。

    それなりの部数の雑誌に記事を載せていらっしゃるのですから、こんな短絡的な主張をばらまくのは止めていただきたいです。

  3. 教育に関する改革ってなんでこうもエビデンス無しで進んでいくんですかね。
    過去で言えばゆとり教育の導入も、ゆとり教育に対する批判と見直しもデータ無しで行われた記憶があるのですが。
    政治家や官僚の知能が教育をどうこうする水準に達していないのが問題なんでしょうか。

  4. >ご自身の理論がさも正論のように書いていらっしゃいますが、教育に関するコストを無償化する事は、少子化対策として効果的であると共に、将来社会保障を担う世代を育成すると言う意味で、正当化することが出来ます。問題は、その費用が必要以上に膨らむことが内容にしっかり監督監視することです。

    日本の教育が、過去にそれなりの効果があったのは、

    東大を頂点とする「学のヒエラルヒー」があり、

    求められる学歴=入試合格歴

    だったせいであります。

    社会生活で必要な知的能力は
    大学入試までで習得したもので実は十分で、

    高等教育で、たとえばマルクス経済学みたいな
    実社会ではむしろ有害な学説が教えられていても
    良かったわけです。

    なんせ、こんなことを教えていたのですよ。

    1848年、マルクスとエンゲルスは『共産党宣言』の中で次のように書き、暴力革命の方針を明確にした。
    「最後に、共産主義者はどこでも、あらゆる国の民主主義政党との同盟と協調に努める。共産主義者は、その見解や目的を隠蔽することを、軽侮する。共産主義者は、自分たちの目的が、これまでのいっさいの社会秩序の暴力的転覆によってしか達成されえないことを、公然と宣言する。」

    もし仮に、高等教育が無償化されたなら、(Fランクと呼ばれる)
    大学へいくべきではない人間でもどんどん入ってくる
    現在の状況がさらに悪化するだけですよ。

  5. 橘先生も前に著書で書いていた通り、もう高等教育による経済成長効果は頭打ちなのです。
    しかし、知にしろ技術にしろ、現状打破できるブレイクスルーのためには、高等教育に賭けるしかないのです(コメを無償化しても技術ブレイクスルーは得られません)。
    例えその賭けの勝率がオプション取引で富を得るくらいの確率だったとしても。

    >教育に関するコストを無償化する事は、少子化対策として効果的である
    残念ながら、高等教育無償化で進学率が上がれば、ますます晩婚化が進み、少子化は一層加速するでしょう。少子化対策にはなり得ません。
    でも別に少子化でもいいじゃないですか。知のブレイクスルーによって生まれた天才が、少子化してもやっていける社会をつくってくれますって。

    そういう社会全体からの投資的観点が抜けてるようです。

  6. 少子化対策とか言ってるのって馬鹿親かね
    こんな馬鹿親の遺伝子を受け継いだ
    馬鹿なガキばかりが増えても迷惑
    この馬鹿ガキが成人するまでにつぎ込んだ税金分すら回収不能

  7. 文科省の国立教育政策研究所が作った資料が

    文科省の予算を増やすように
    つくられているのは

    あたり前田のクラッカー
    http://www.atarimaeda.com/

    ですな。

  8. 1970年代から合計特殊出生率は大きく下がっているが、
    完結出生児数はほとんど変わっていない。
    少子化は未婚化、晩婚化の影響が非常に大きく、
    高等教育無償化は、少子化対策にほとんど効果などない。
    だいたい爆発的に人口が増えているのは、就学率が低い国が多い。

    http://synodos.jp/wp/wp-content/uploads/2017/05/Slide4.png

  9. 無償化の話などどうでもいいのです。成功しようが、失敗しようが大差なし。
    人材育成もそうですが、むしろ失敗をテコに成長サイクル回すことこそ大切。

    橘玲研究員から言わせれば、また逆説的な理をここでも説いておられるかと。
    つまり、補助金のようなプラスの政策でなくて減税のようなマイナスの政策。

    法律や金融や世の中にも通じた哲人は、答えとは逆を説いて適切に導くのです。
    地域金融など民間が地域の若者を応援し、応じて政府は減税するだけで済む話。

    原資はどうすればいいかって。不必要な教育官僚や非効率な補助金の仕組みを
    削ればいいのです。日本は民間で済む仕事を公共がやりすぎなのです。

    何よりも、民間の中にエコシステムを作って、政府はただ減税するだけでよし。
    ついでに言えば若者は、勉強よりも遊びの達人こそ次代の革新者だと信じます。

  10. >でも別に少子化でもいいじゃないですか。知のブレイクスルーによって生まれた天才が、少子化してもやっていける社会をつくってくれますって。

    知のブレイクスルーを起こす確率が、人口に比例するなら、
    シナやインドに起こる可能性の方が高くなり、

    欧米や日本は没落する一方ですな。

    もっともシナ大陸では「マルクス・毛沢東主義」が
    インドでは「カースト制」が足かせとなり、
    その発展を抑えてくれたからこそ、
    欧米や日本が先進国でいられたのですが。

    近年の知のブレイクスルーである
    「オープンソース」を象徴する
    「Linux」を例にあげると、

    最初の開発者であるリーナス・トーバルズは
    学士でもなかった1991年9月に初版を公開しています。

    もちろんオープンソース自体に社会主義思想の影響があります。

    Linuxの背後にある精神
    http://www.aoky.net/articles/linus_torvalds/the_mind_behind_linux.htm

  11. 人口6000万人でもやっていけるような国を目指せばいいんじゃない。

    関係ないけど、リーナス・トーバルズって北欧の小国出身だよね。

  12. >関係ないけど、リーナス・トーバルズって北欧の小国出身だよね。

    リーナス・トーバルズはフィンランド出身ですよ。

    ちょっと前のPCヲタならだれでも知っている、
    Future Crew
    http://www.wdic.org/w/TECH/Future%20Crew
    既に伝説と化したメガデモ “Second Reality” を作ったグループとして有名。1995(平成7)年には主要メンバーが軍役にかり出され事実上の活動停止となってしまい今に至っている。

    もフィンランドのグループですね。

    なぜ北欧から凄腕のプログラマが多数輩出しているかといえば、
    白夜とその反対の極夜があるため、

    長く厳しい冬のある地域では、文学やブログラマといったインドア文化
    (オタク文化)が発展しやすい素地があるのでは?と考えられます。

    橘さんもはまったロシア文学なんか、まさにそうですね。
    「ロシア文学の黄金時代」にはフョードル・ドストエフスキー、
    ニコライ・ゴーゴリ、レフ・トルストイ、イワン・ツルゲーネフといった偉大な小説家もいます。

    逆に日本では宮崎勤事件以降にこういったインドア系オタク文化を
    極端に忌避する風潮があったため、凄腕のプログラマが世に出る
    ことはあまりなかったですね。
    (いわゆるメガデモで日本の有名なプログラマは聞いたことがありません。)

    何が言いたいかというと、

    その地域の気候や社会的価値観、あるいは宗教的要因によって
    人間の性質が左右されるということです。

    橘さんはやたらと進化心理学などで人間の遺伝的要因を強調しますが、

    それ以上に、その地域の気候や社会的価値観、あるいは宗教的要因
    も少なからずあるということです。

    一日中コードを書いていて平気なプログラマは北欧とかがお勧め。
    あと、ビットコインのマイニングで有名になったアイスランドとかも良いかも。

  13. >その地域の気候や社会的価値観、あるいは宗教的要因によって
    >人間の性質が左右されるということです。

    そういう見方もありますね。
    国内でも、東北人と沖縄人はだいぶ気質が違うように思えますしね。

    東北人は冬が長く遊びがないから、プログラミングじゃなくて、
    SEXが上手い、なんて巷では言われていたようですけどね。

  14. 橘さんは本当に自由主義者ですね。
    共感することも多いですがこの事は賛同できませんね。

    私は学生時代に親が事業を潰し高等教育を受けられませんでした。
    理由は単純に「お金がない」というものです。
    もし無償化出来てたらと今でも思い議論される事だけでも羨ましいと思います。

    全ての若年者が橘さんのようにリスクも考え未来を切り開けるわけではないのです。
    人は初めから前向きではなく素晴らしい出会いで変わっていくものです。
    学校とは出会いの場でもあり知を入れ込むだけの工場ではありません。
    大学無償化でどれだけの若者に未来が開けるか考えるとマイナスを大きく書き正論化するのはおかしいと思います。

  15. あなたが優秀な方であれば、
    別に進学を諦める必要はなかったわけですから
    それで良かったのではないでしょうか…
    お金をドブに捨てずにすんで

  16. 貧困家庭に育つと、あきらめや妬みが身体に染み付く。
    希望をもらえるだけでも大きな助けになる。

  17. 日本では

    「学歴」=「人間のランク分け目安」

    として考えられてきたため、

    学歴コンプレックスをバネにして松本清張のように(クチビルが)成長したり
    学歴コンプレックスをこじらせて問題を起こしたり
    する人がたくさんいただけの話ですよ。

    ぶっちゃけていえば、
    高校以上の学問的知識が社会生活上必要になることは
    ほとんどないのだから、

    センター試験の代わりに

    「全国統一人間ランク分けテスト」

    をやって、その成績で就職先を選べるようにすればよいだけの話。

  18. >>教育関係者への巨額の補助金であることは誰も指摘しません。

    池田信夫さんも同じ趣旨のことを指摘していました。また、彼はどうせやるなら幼児教育に
    つぎ込めといっています。高等教育よりも効果が期待できるそうです。
    教育関係者のみなさんも本当は分かってるんでしょうけどね、でもまあ、金は欲しいから自分
    も騙して社会も騙すか。

  19. ここがエリート気取りの屁理屈の巣窟だとよく分かりました。
    「全国統一人間ランク分けテスト」とか発想にビックリ!
    貧乏人の私には理解が出来ません。

  20. >ここがエリート気取りの屁理屈の巣窟だとよく分かりました。
    >「全国統一人間ランク分けテスト」とか発想にビックリ!
    >貧乏人の私には理解が出来ません。

    逆に考えてみてはいかがでしょうか?

    週刊誌などでなぜ毎年

    「高校別難関大学合格者ランキング」

    みたいなことを飽きもせずやっているのか?

    結局「学歴」=「人間のランク分け目安」
    つまり「差別」を助長しているに過ぎないのです。

    もし仮に、高校卒業程度の

    「全国統一人間ランク分けテスト」

    が実施され、その結果をもってして
    就職先や進学先が選べるとすれば、
    わざわざ遠くの大学に多額の費用を払って
    通う必要はなく、

    高校まで行けば

    貧乏人でも一流企業や官庁に就職できる可能性があるし、
    自由に自分の学びたいことをやっている大学などで学べるように
    なるのです。

  21. 全く同じことを考えていました。

    高校生が大学へ進学すればするほど国が豊かになるのなら、今どうして日本は落ち目なのかと思います。
    すでに大学への進学率は上がって来ているのですから、そろそろ日本は高度人材だらけになり、
    その競争力でもって世界中の知識集約型産業をかき集めていてもいいはずです。
    税収や教育予算不足で困る事もなさそうですが・・・。
    その兆候は見当たりませんね。

    教育の是非と、費用対効果は別々に問われるべきだと思いますよ。

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