インフレはほんとうに起こりますか?


ケビン67さん

日本が財政破綻することは、理解できますが、日本でインフレが起こることはイメージできません。
「日本でインフレが起こるのか?」という問いについての橘さんの意見を伺いたい。

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「日本国破綻でハイパーインフレになる」と警告するひとはたくさんいますが、ほんとうにそうなるかどうかはじつはよくわかりません。

ただ、次のことはいえます。

  • このまま国の赤字を国債で穴埋めしていけば、いずれ行き詰まる(もし現状が維持可能なら、紙幣を刷るだけで儲かる錬金術になる)。
  • この世に錬金術がないとしたら、持続不可能な借金は円安・インフレ・金利の上昇(国債の下落)によって帳尻を合わせるほかはない。

ここまでは誰も異存はないと思いますが、難しいのは、この3つが同時に起きるとはかぎらない、ということです。

そこで、日本国破綻の簡単なシミュレーションをしてみましょう。

そもそもの前提として、破綻とは国家の信任が失われることですから、国債の下落と金利の上昇は間違いありません(というか、これが起こらないと国家は破綻しません)。となると、起こりうるシナリオは以下の4つです。

  • シナリオ1:金利は上昇するが、円高とデフレは持続する。
  • シナリオ2:金利が上昇し、円安になるがデフレは持続する。
  • シナリオ3:金利が上昇し、インフレになるが円高は持続する。
  • シナリオ4:金利が上昇し、円安とインフレになる。

金利の上昇(国債の下落)が起こると、連鎖反応的に、以下のような事象がつづくことは(他国の例などから見ても)ほぼ確実です。

  • 住宅ローン金利の上昇によって、変動金利でマイホームを購入していたひとたちが破綻する。→地価が下落する。
  • 貸出金利の上昇によって、中小企業と負債の大きな大企業の経営が行き詰まる。→株価が下落する。
  • 日本の銀行は国債を大量に保有しているので、時価評価によって莫大な赤字を計上することになる。
  • 地価下落、株価下落、国債の評価損によって深刻な金融危機が発生する。
  • 景気の悪化によって失業率が大幅に上がる。

そうなれば円は売られるでしょうが、これでインフレが起こるとはかぎりません。ジンバブエは国家破綻によってハイパーインフレに襲われましたが、97年のアジア通貨危機や07年の世界金融危機を見ても、金利上昇や通貨の下落は起きたものの、制御不能のインフレにはなりませんでした(シナリオ2)。

*経済学的には、公債の増発は貨幣需要を刺激し(国債価格の下落を嫌ってみんなが現金を持ちたがるから)、実質的な貨幣供給を減らすことで、短期的な効果としてはデフレ要因になります。

しかしだからといって、このままずっとデフレがつづくともいえません。日本は超高齢化と(将来の隠れ債務を含む)莫大な社会保障の負担を抱えており、これはインフレがなければ解消不可能だからです。

年金の受給額は景気が悪くなっても(実質的に)減額されませんから、金利の上昇や円安だけでは高齢者の生活はさほど影響を受けません。そればかりか、預金金利が上がれば利子によって暮らしが豊かになることもあるでしょう。

その一方で、国の国債利払い額は加速度的に膨らんでいきます。医療・介護サービスの水準を維持するとすれば、社会保障の赤字も大きくなる一方でしょう。これでは問題はなにも解決せず、またすぐに財政破綻するだけです。

このことから、どのような経緯をたどるかは別として、抜本的な社会保障改革ができなければインフレで帳尻を合わすほかはない、ということがわかります。

インフレになれば、名目での歳入(税収)は増えますが、債務の額は変わらないので、実質的な借金の棒引きになります。そのかわりに、高齢者と公務員、そしてサラリーマンの大半がそのしわ寄せを受けることになるでしょう。

年金受給額が物価にスライドする設計になっていても、基準額の改定は年1回ですから、急速なインフレにはとうてい追いつけません。不景気と失業率悪化のなかで、公務員給与を引き上げることは政治的に不可能ですから、公務員の実質賃金は大幅に下落することになるでしょう(これでようやく、「公務員改革」が実現します)。

終身雇用と年功序列の日本的な雇用制度では、企業は降格や減給をすることができません。しかしインフレになれば、昇給率の調整だけで実質的な減給が可能になります。それによって、これまで対等に扱われていた専門職(クリエイティブクラス)とバックオフィス(マックジョブ)が、成果主義に基づいて二極化していくことになるでしょう。

その一方で、円安によって日本の輸出産業は息を吹き返します(ウォン安で業績を急回復させたサムソンのように)。円安と同時に地価と株価が下落すれば、海外投資家(投機家)にとってきわめて魅力的ですから、いずれかの時点で買戻しが入ることは間違いありません。

このようにして、社会的弱者の死屍累々たる犠牲のうえに新富裕層が登場し、日本経済はようやく長いトンネルを脱するのかもしれません。暗鬱な未来ですが……。

私は預言者ではないので、いつどのようにしてインフレになるのかはわかりませんが、現在の(どうしようもない)政治状況がつづくかぎり、それは必ずやってくるでしょう。

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5件のコメント

  1. こんにちは、7年ほど前「雨の降る日曜は幸福について考えよう」に初めて触れてから、橘さんの大大大ファンです。

    わたしは比較的高額の給与所得者ですが、橘さんの本を読んでは、いつもいつも自分の今後の人生をどうしようか、考えさせられます。
    (国民年金のどうしようもない部分を、有無をも言わせない厚生年金払込者が一部肩代わりしている
    こととか、まあいろいろ・・・・・・)

    少子化や「土地は『生産』されている」事実とかを思うと、住宅ローン減税のためだけに土地建物を買う気にはなりませんし(作戦のひとつとして有効だとは思いますが)、この先どう備えていこうかなあ・・・・・・と、頭を悩ませています。

    著書を熱心に読んでいる割に、実行できていないのがカナシイのですが、わたしの仕事は毎日毎日職場に行くことで(人と会うことで)なりたつ仕事なので「マイクロ法人化して今の職場と業務委託する」とか、日本国内で国家資格を得て日本国内で認められる資格なので、同じ仕事を海外でやるには、かなりの困難が伴うとか、今後のことを考えると、どう準備しておこうかな、と、正直頭を悩ませています。

    (アビーインターナショナルには口座を開きましたが、急速な円高進行の前だったので、とりあえず預けたお金は半額近くに値下がりして、まあどうにもできないのでそのままおきっぱなしの状態です)

    ドルベースで値上がりしている点がやけに気に入りませんが、やっぱり金を買うべきか、と思い始めています。

    橘さんとしては、有効な戦略はどのようにたてられていますか?
    (差し支えない範囲で)ぜひともお伺いしたいと思います。

  2. 初めまして。橘さんの著書はすべて熟読している大ファンの一人です。今回の記事もとても興味深く拝見させていただきました。

    私はこの記事を読んでもなお、この国に生まれて良かったと考えている一人です。上下水道が完備され、犯罪も比較的少なく・・・と他国と比較して良い面は沢山あるからです。

    個人としてできることは、将来的にやってくるであろう、円安・金利上昇に合わせたポートフォリオを今から少しずつでも構築していくことだと思っております。むしろ予想可能な将来というのは、チャンス以外の何ものでもないのでは・・・? 地道にMSCIコクサイに連動するインデックスファンドをただ積み立てているだけで、将来的に多大な恩恵を受けることができるのかもしれません。

  3. 私の質問に答えていただき、ありがとうございます。
    大変、感激しています。

    以下の点についても、またご興味があれば、意見を伺いたいです。

    私が「財政破綻は起こらない(あるいは当分先)」説で説得力を感じているのが、長谷川慶太郎氏の意見です。
    氏の意見によると、(1)日本の産業力は相当に強く、当分、日本は経常黒字を続けることができる。(2)その経常黒字によって、財政赤字はファイナンスできる。

    結局、財政破綻を避ける方法は、日本の産業力を強くするということでしょうか?

  4. インフレはこの1年後から起こるのではないかと考えています。国が借金で首が回らなくなって起こるインフレでなく、チャイナマネーによる日本への不動産、水資源の投資がかなり入ってきています。日本の不動産は所有権を持ちますが、中国では使用権だけで土地は基本国家の物です。そして、中国国内でバブルを抑制するため総量規制や金利を引き上げようとしていますので、中国の富裕層は日本にターゲットを絞って投資を始めています。北海道の不動産、優良企業の買収など買い漁っています。これら投資により、日本の不動産が上昇するきっかけとなります。もうそろそろデフレから脱却できます。日本が国家破産をしてハイパーインフレのようなことは、世界的にはできないと思います。世界大恐慌となってしまう危険性やアメリカの財務証券の買い手がいなくなりますから。
     インフレになってもすぐには給料が上がりませんから、現金の保有率をあげておくべきです。
    先行き不安なため、住宅のようなローンを組んで買う大きな買い物は危険なのでやめておいた方がよいです。

  5. 私は発達障がいみたいなのを背負っています。今中学校の勉強を中学生が習うみたいに丁寧に教えてもらえれば身についていくと思うが、残念ながらその場がありません。 一般の人にはわかりにくいかもしれませんが、どんなに普通高校、高等教育を受けようと、今の制度では支援学級でろくに勉強をしなかった人生は取り戻せません。 勉強しなかった私も多いに責任ありですが、とりかえしの立場を与えてくれない社会も悪いし、絶対に赦せません。就職できない大学生にも意外と発達障がいやら、仕事に対してよいイメージがもてない人もいて、それが見抜かれてやとってもらえなくて・・・。家庭内不和とかいろんな状況もあって自殺する人だっているし、とりあげられないのが変です。一般の人だって、もっと国の制度や他人の気持ちや、文明を発展させるためにも本当はもっともっと仕事以外にも(それこそ、高校程度のことは忘れていたとこは反復して定着させて、アンテナをはりめぐらせること!このことは頭をよくして、仕事の能率をあげることにもつながるはずです!PCの変換ソフトだって、誤字を指摘しないのも変!世の中おかしなことだらけです!本来はわざわざ意図的に学びなおさなくても、学生ではなくなっても、いくらでも自然に学べる(うざったいほど、知識を叩き込んで嫌でも覚えるようにもって行く、そうすることで知的ボーダーな人、発達ボーダーな人は救われると思うのですが、今の世はそれをしないために、普通になれる人を普通にすらしてくれないと自分は憤りを感じます。なので、私は障がい年金をもらってます。そんな身なので、障がい年金は絶対にあげるべきだし、手帳があれば、税率を考慮するとか、福祉保障を充実させること!それなしに、アベノミクスが赦されてはならない。この政策には殺意すら感じます。!

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