ミサイルはこれからもどんどん飛んでくる 週刊プレイボーイ連載(305)


北朝鮮の金正恩委員長が「日本人を驚愕させる」として打ち上げた中距離弾道ミサイル「火星12」が、北海道を通過して太平洋に落下しました(北朝鮮は9月15日にも北海道上空を通過するミサイルを打ち上げていますが、このコラムは8月29日の打ち上げ後に書いたものです)。

これを受けて安倍首相はトランプ米大統領と電話会談を行ない、国連安保理の緊急会合で北朝鮮非難の声明が出されました。しかし、度重なる北朝鮮のミサイル発射で明らかなように、「国際社会の圧力」は何の効果もありません。

もうひとつはっきりしたのは、北朝鮮が日本の足元を見ていることです。グアムに向けてミサイルを発射すればアメリカはなにをするかわかりませんが、日本列島を超えるだけなら、「キャンキャン」騒ぐだけでなんの実害もないのです。

これはゲーム理論における、古典的な「相互確証破壊」の問題です。相手への攻撃を控えるのは、そのあとの報復が怖いからです。平和憲法で手足をしばられ、「9条」をお経のように唱えているだけなら、これからもどんどんミサイルは飛んでくるでしょう。この単純な事実に国民が気づいたときになにが起きるか、護憲派のひとたちは真剣に考えるべきです。

金正恩の狙いは、核弾頭を搭載したICBM(大陸間弾道弾)が米本土を射程に収めつつあることを誇示することです。トランプ大統領は中国(習近平)との“ディール”によってこの問題を解決しようとしましたが、こちらもまったく上手くいっていません。最大の失敗は、大統領選の公約だとして、さっさとTPP(環太平洋パートナーシップ協定)から離脱したことでしょう。

TPPは自由貿易を推進すると同時に、経済版の「中国封じ込め」として構想されました。中国がもっとも警戒していたのは、TPPにEUまで加わり、自由なグローバル市場(民主国家連合)から排除されることでした。野党時代の自民党はTPPに否定的でしたが、政権を奪ったとたんに前のめりになったのも当然です。

日本では「TPPはアメリカの陰謀だ」と大騒ぎするひとがたくさんいましたが、トランプは「TPPはアメリカにとってなにひとついいことがない」として離脱しました。中国と“ディール”する最強のカードを自ら捨ててしまったのですから、あとはなにをいっても「のれんに腕押し」です。米中経済は複雑にからみあっており、貿易摩擦を激化させる政策はアメリカ国内から強硬な反対が出て、身動きがとれなくなってしまうのです。もはや中国は、トランプを「うるさく吠えるイヌ」と見透かしているかもしれません。

今回は全国瞬時警報システム「Jアラート」が発令され、東京でも一部の鉄道会社が運休を決めるなど混乱が広がりました。大気圏外のはるか上、国際宇宙ステーションとほぼ同じ高度を飛行するミサイルからどう“避難”すればいいかなど、だれも知らないのですから無理もありません。

金日成が死去した1994年、アメリカは北朝鮮の核施設を攻撃し、体制を転覆させることを真剣に考えたと思われます。当時の中国は天安門事件の混乱からようやく国際社会に復帰しはじめたばかりですから、リアリストの鄧小平は、条件次第ではこれを容認したかもしれません。

しかしその後、中国の爆発的な経済成長によってこの機会は永遠に失われてしまいました。日本人はこれからも、奇怪な隣人に右往左往するしかなさそうです。

『週刊プレイボーイ』2017年9月11日発売号 禁・無断転載

カテゴリー: Column, そ、そうだったのか!? 真実のニッポン タグ: パーマリンク

ミサイルはこれからもどんどん飛んでくる 週刊プレイボーイ連載(305) への8件のフィードバック

  • 尖沙咀 のコメント:

    北朝鮮が何度も日本上空を超えたミサイルを飛ばし続けるという

    ブラフにかかるコスト

    の算段ができていないことが問題なのです。

    後ろ盾でもある中国共産党のメンツを潰してまで
    ミサイルを飛ばし続けることのコストと
    いくつかの経済制裁によって疲弊すれば
    そのうち自滅しますよ。

    もっとも、金正恩が
    漫画「アカギ」のように天才かつ狂っていれば、
    アメリカ+日本に対抗できるかも。

    続・アニメ後のアカギの展開第3話『幻想の国士』
    http://www.nicovideo.jp/watch/sm31426203

  • 匿名 のコメント:

    北朝鮮からの移民を人道的に、大量に日本が受け入れたら、高齢化問題、年金、人手不足とか、いろんな問題が解決するのにな。

  • 引きこもり のコメント:

    >中国がもっとも警戒していたのは、TPPにEUまで加わり
    >自由なグローバル市場(民主国家連合)から排除されることでした

    ベトナム、マレーシアの何処が民主国家なのだろうか。
    所詮橘は自分が儲けたいからTPP推進しているだけだろ。
    金融屋はこうやって誤魔化していく良い例だな。

  • 引きこもり のコメント:

    >後ろ盾でもある中国共産党のメンツを潰してまで
    >ミサイルを飛ばし続けることのコストと
    >いくつかの経済制裁によって疲弊すれば
    >そのうち自滅しますよ

    大飢饉で数十万人が死んでも自滅しなかったのに?

    >日本列島を超えるだけなら、「キャンキャン」
    >騒ぐだけでなんの実害もないのです。

    小銭稼ぎの橘のようなものだな。というのは置いておいて
    これだけは同意。ロシアで密漁する日本人が少ないのは
    ロシア沿岸警備船が誰であろうとすぐ撃つからでして、
    要は実害(リスク)があるから旨味があろうと密漁しないわけ。
    それに比べて日本は実害ないから怖くない、という。
    ただ日本が情報戦をしっかりやり世界を丸め込ませられれば
    実力行使でなくても其れは其れで怖いのだろうけどね。

  • 尖沙咀 のコメント:

    >大飢饉で数十万人が死んでも自滅しなかったのに?

    第二次世界大戦での旧ソ連の犠牲者数は2000万人にも
    のぼるといわれていますが、1991年までソビエト連邦は
    存続しました。

    国の存亡は、犠牲者数の多寡ではなく、
    地政学的・地経学的な要因によるところが大きいのです。

    現在の北朝鮮の場合、ロシア・中共からすれば、
    西側世界との緩衝地帯としての存在意義があり、

    (もし北朝鮮がなければ、ベルリンの壁と同じように
    そこから西側世界へ人間や資源が流出してしまう)

    だからこそ、ロシアや中共から軍事的・経済的な
    援助がなされてきたとの考えは想像に難くないですな。

    その緩衝地帯たる北朝鮮が、ミサイルや核開発など
    やりたい放題をやると、ロシアや中共から
    軍事的・経済的な援助がストップされて
    崩壊へとつながるというわけです。

  • 論屋 のコメント:

    >これはゲーム理論における、古典的な「相互確証破壊」の問題です。相手への攻撃を控えるのは、そのあとの報復が怖いからです。

    そうですか?この一連のミサイルは「攻撃」ですか?花火にしか見えませんが。
    北朝鮮は、その後の報復を十分恐れています。実際北朝鮮程度の戦力では米韓連合軍が北上を開始したら一日保たないでしょう。

    >平和憲法で手足をしばられ、「9条」をお経のように唱えているだけなら、これからもどんどんミサイルは飛んでくるでしょう。
    飛んできて何か問題でも?所詮花火です。憲法に縛られる?縛るの目的語は何ですか?縛られてるのは政府ですよね?やはり橘先生はリバタリアンでは…

    >この単純な事実に国民が気づいたときになにが起きるか、護憲派のひとたちは真剣に考えるべきです。
    そんなに安全(というか安心)が欲しいなら、先制攻撃できれば先制核攻撃で相手を完全に潰してしまうことです(可能なら確実を期すために核以上の高威力兵器を使う(あれば)か、核を大量に使うことが望ましい)。
    核は改憲しなくても持てますし(政府見解)、何より兵は拙速を尊び巧久を見ざるものですから、よいアイデアと思いますがね。

  • ユダヤ顔と言われた者 のコメント:

    ユダヤの天才、キッシンジャー・シナリオが進展中。

    オンスケなら来春以降だが

    突発的な事故の可能性は低くない・・

    優秀な日本でさえ原発管理できず事故起こしたように。

    シナリオどおりなら、予兆となる事件が起きて避難もしやすい。

    管理不能の事態は、米中ロのフェイルセーフの多重化に期待大

  • 匿名 のコメント:

    >リアリストの鄧小平は、条件次第ではこれを容認したかもしれません。

    クリントンは日本嫌いで、中国大好きだったから、なかったでしょうね。
    まだ北朝鮮の脅威はその頃は小さかったです。

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