ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、このブログで再掲載していくことにします。
今回は2014年11月公開の記事です。(一部改変)

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前回は中国で“闇の金融システム”が増殖していく仕組みについて書いたが、問題の核心は、これが地方政府の不動産開発事業と結びついて、“人類史上最大”とも称される巨大なバブルを生み出していることだ。
市場原理主義を凌駕したと自負する中国共産党の賢明な経済官僚たちは、なぜこの事態を放置しているのだろうか?
あなたの目の前に金塊が山のように積まれていて、もうすこしで手が届きそうなのに扉がゆっくりと閉まっていく。もしそうなったら、あなたはどんな気持ちがするだろう。
中国で起きていることは、簡単にいうとこういうことだ。
400兆円の「自己資金」はどこからくるのか?
中国でどのような“錬金術”が行なわれているのかは、多くの専門家の指摘が一致しており、ほぼ解明されたと考えていいだろう。
ここではそのなかから、具体的な数字を示して中国の不動産バブルの実態を推計している川島博之氏の『データで読み解く中国経済 やがて中国の失速がはじまる』(東洋経済新報社)を紹介したい。
川島氏はまず、中国統計年鑑から、21世に入ってから中国市場への投資額が指数関数的に増えていることを示す。2006年以降5年間の投資額の平均増加率は27%で、とりわけリーマンショック後の4兆元景気対策の効果で2009年の伸び率は37%という驚異的なものになっている。さらに、景気対策のなくなった2010年でも投資額は前年比24%増で、金額にすると31.1兆元(約500兆円)。近年の中国の経済成長は、日本のGDPに匹敵する巨額の投資によって支えられているのだ。
ところでこの「投資」の内訳だが、中国統計年鑑では「国家予算」「国内借款」「外資」「自己資金」の4つに分類されている。このうち国家予算は国の支出、国内借款は金融機関からの融資、外資は外国からの投資資金だ。
中国の経済成長というと外資の導入がまず挙げられるが、じつは投資資金に占める外資の割合は95年あたりから明らかに低下している。それ以外の国家予算と国内借款の比率も徐々に低下しており、それを補っているのが自己資金で、2010年にはその割合が78.5%と全体の8割にもなっている。
中国の経済成長を支える投資とは、24.4兆元(約390兆円)の自己資金のことだ。
ところで、経済学で一般に自己資金というと家計の貯蓄を意味する。中国の1年間の家計貯蓄は約5兆元だが、これは金融機関を経由して投資に回される。2010年の国内借款は4.73兆元だから、辻褄はあっている。
だがそうすると、400兆円ちかい「自己資金」はいったいどこからくるのだろうか。
1平米あたり10元で仕入れた土地を1000倍で販売する
川島氏によれば、無から有を生み出す錬金術のからくりは中国の急速な都市化にある。
社会主義国である中国では土地は公有制で、文化大革命が終わって人民公社が解体されたあとは、土地を農民に分配するのではなく、村などの地方自治体が所有することになった。農民は村から使用権を借りて農業を行なっているから、中国の土地には固定資産税がかけられない(そのため、固定資産税の引き上げで地価の高騰を抑えるという常套手段が中国では使えない)。
そんななかで、経済成長にともなって急速な都市化が始まった。都市化というのは農村から都市に人口が流入してくることで、中国ではこの30年間に4億人の人口移動が起きたとされている。人口が増えると、当然、彼らが暮らすための住宅が必要になる。
中国都市部の平均的な世帯人数を3人とすると、4億人を受け入れるのに必要な住宅の数は1.3億戸だ。これに公園、道路、商業用地などを加味すると、中国の都市部の面積は400万ヘクタール増加する必要があった。中国では都市化にともない、九州よりもひと回り大きな土地が宅地へと開発されたことになる。
農地を宅地に換えるには、農民に対する補償が必要になる。だが農民が持っているのは使用権だけなので、これまでは数年分の年収が支払われるだけだったという。農民の収入を年間5000元とすると、土地を手放す代償として彼らが手にするのは3万元(約48万円)か、高くても5万元(約80万円)程度だ(最近は土地収用の相場もかなり上がった)。
中国の平均的な農家は0.5ヘクタール(5000平米)程度の農地を耕している。その補償金を5万元とすると、地方政府(土地開発公社)が土地を取得するコストは1平米あたりわずか10元、日本円にして約160円になる。
こうしてタダ同然で手にした土地を、地方政府はいくらで販売しているのだろうか。
ここで先ほどの「自己資本」が重要になる。2010年の自己資本は24.4兆元だったが、無から有が生まれるわけはないことを考えれば、その原資はなんらかの商取引の結果と考えるほかない。川島氏はこれを、中国の地方政府が不動産開発によって得た利益だとする。
2009年から10年にかけて、中国の都市人口は2470万人増加している。そこから概算すると、都市化にともなって24.7万ヘクタールが農地から宅地に転換されたことになる。これを1平米あたり1万元で売れば土地開発公社に24.7兆元が入ってきて、自己資金の額と平仄があう。
中国の地方政府は1平米あたり10元で仕入れた土地を1000倍(!)の1万元で販売することで巨額の利益を生み出している。これが、中国の“錬金術”の正体なのだ。
“錬金術”によって支えらえた社会
中国では、都市開発にともなって日本のGDPに匹敵する富が1年間で生み出されている。ところがこの巨額のマネーにかかわることのできる人間は、地方政府の共産党幹部などごくわずかしかいない。中国でとてつもない腐敗が生まれるのは当然のことだ。
ブルームバーグは2012年8月、中国の家計には公式統計に反映されていない隠れた収入が9兆3000億元(約148兆円)あり、その8割は富裕層が得ていると報じた。汚職と腐敗にともなって巨額の裏マネーが共産党幹部に流れているのは間違いないが、その一方で川島氏は、裏マネーの一部は都市部の中産階級の手にも渡り、それによって国内消費が活性化しているのだと述べる。
中国の総人口13億人のうち、都市部の居住者は6.7億人と半数を超えた。周知のように都市と農村には深刻な経済格差があり、富裕層や中産階級は都市部に集中している。
川島氏は、訪日観光客の数から中国の富裕層(台湾や韓国からの観光客より平均して1.5倍のお金を使う中国人旅行者)の数を2000万人と推計する。富裕層の下には、海外旅行には行けないけれど、一家に1台は自家用車を持てるくらいの中産階級がいる。2010年末の中国の自動車の保有台数は3443万台で、世帯人数を2.87人とすると、中産階級の推計人口は1億人になる。
中国の都市人口が6.7億人で、2000万人が富裕層、1億人が中産階級なのだから、残る4.5億人が貧しい生活をしていることになる。そのなかでも農民戸籍のまま都市に居住する2.4億人は建設現場などで働く最底辺労働者で、身分格差がなくならないかぎり社会的地位の上昇は期待できない。残る3.1億人は、都市戸籍を持ちながらも中産階級になれない予備軍で、彼らは「明日は今日よりゆたかになれる」と思えるかぎり社会体制を転覆しようとは考えないだろう。
公式統計では中国の平均所得は都市部でも年間2万元(約32万円)で、上海でも年間3万6000元(約58万円)だ。これでは住宅ローンを組んでマイホームやマイカーを買い、結婚して子どもを育てるのは不可能だが、苦しいながらもそれがなんとか成り立っているのは、裏マネーが社会階層の中流くらいまで流れてきているからだ。そう考えると、(農村が反乱の主体になることは考えられないから)中国社会は意外に安定している、と川島氏は指摘する。
“錬金術”によって生まれた裏マネーは、経済だけでなく、中国社会そのものを支えているのだ。
「人類史上最大」のバブルを後始末
中国の地方政府は巨大な不動産開発会社で、農民から収奪した土地を整地し、道路や空港、高速鉄道の駅をつくり、地下鉄網を整備し、マンションや商業施設、公園や公共施設を建設して土地の付加価値を上げようとする。そのためには巨額の建設資金が必要で、不動産の売却益は「自己資金」となって土地開発に投じられることになる。こうした裏マネーの循環によって、中国各地で地価が上昇してきた。
ところが最近になって、こうしたマネーの流れに異変が生じるようになった。
ひとつは農民の権利意識が強くなったことで、それによって以前のようにタダ同然で土地を手に入れることができなくなった。もうひとつは、不動産価格の上昇が鈍ってきたことだ。
仕入れ値が高くなり、販売価格が頭打ちなのだから、当然、利益は減っていく。だが建設投資を止めてしまえばただのゴーストタウン(鬼城)になるだけだから、なんとしても資金調達して不動産開発を進めなければならない。
中国政府は財政規律を維持するため地方政府の債券発行を認めていない。また中央銀行も、金融機関の不動産融資を規制しはじめている。その結果地方政府は、「融資平台」と呼ばれる投資会社を設立し、高利の理財商品(シャドーバンキング)によって資金を集めるほかなくなった。
「影の銀行」の実態を取材した日経新聞(2013年7月5日朝刊)によると、江蘇省常州市の「天誉都市花園」では、事業費6億元(96億円)を年11%の予想利回りを掲げた理財商品で調達したという。予定していた価格でマンションなどが販売できなければこの巨額の投資は焦げつくことになるが、そのリスクを最終的に誰が負うかは曖昧なままだ。
問題は、こうした無謀な事業が中国の「すべての」地方で行なわれていることだ。これも当たり前の話で、“錬金術”の方法はひとつしかないのだから、その機会を手にした者は誰もが同じことを始めるのだ。
鄧小平の改革・開放政策の恩恵を受けて北京・上海・広州など沿海部の主要都市の不動産価格が上昇し、それを利用して上海を地盤とする江沢民などが巨万の蓄財を果たし、権力を握った。その“魔法”を目の当たりにした内陸部などの地方政府の幹部たちが、我先に大規模な不動産開発に乗り出した。
前総書記の胡錦濤がそれを抑えることができなかったのは、“錬金術”を禁じれば地方政府が反乱を起こし、政権が転覆することを恐れたからであり、また自らが同じ方法で蓄財していたからでもある。
胡錦濤の地元の安徽省・合肥でも大規模な不動産開発が始まっていたのだから、それを中止することなどできるはずはない。前首相の温家宝は庶民派で腐敗に厳しいといわれたが、ニューヨークタイムズによって、夫人を含む親族が27億ドル(2700億円)もの蓄財をしていることが暴露された。
現首相の李克強は河南省・遼寧省の党委員会書記を歴任しているが、いずれの地域でも中国有数の大規模な不動産開発が行なわれている。総書記の習近平も、江沢民派との権力闘争を制して上海市長の座についたのだから、中国最大の経済都市の巨大な利権を手にしたことは間違いない。そう考えれば、中央政府が地方政府の暴走を抑えるのことがいかに困難かわかるだろう。
錬金術に成功した党幹部たちは、その富を国家から守るため海外で蓄財し、留学などの名目で妻と子どもを海外に移住させる。このようにして“単身赴任”の身分になり、いざとなればいつでも国外に亡命できるようにしている(薄煕来事件では、重慶市の公安局長だった王立軍が米総領事館に政治亡命を求めた)。
川島氏の推計によれば、中国全体の地価総額は266兆元(約4250兆円)で、中国のGDPの6.6倍になる。バブル最盛期の1989年末、日本の地価総額は2136兆円に達し、当時のGDPの約4.4倍になったとされる。それと比較しても中国の不動産バブルは異常で、“人類史上最大”と形容されるのも無理はない。
中国ではいま、“富への扉”が閉じられつつある。金融市場の混乱は、なんとしても自分だけは“金塊”に辿りつこうとする、地方政府の幹部たちの最後の苦闘を反映しているのだろう。
年率30%ちかい投資の伸びを維持するのは不可能で、いずれ不動産バブルは崩壊し、理財商品はデフォルト(償還不能)になるだろう。
そのときに中国の経済や社会になにが起きるのかは、誰にも予想できない。唯一確かなのは、その時期はさほど遠くない、ということだけだ。
注記:中国の地方政府の融資平台は行き詰まり、「隠れ債務」を正規の地方政府の債券(地方債)に借り換える10兆元規模の延命措置を行なうことを余儀なくされた。共産党は地方政府が債務不履行(デフォルト)を起こさないように支えているが、不動産価格が下落するかぎり、これは問題の先送りにしかならない。
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