SNSはみんなが望んだ「地獄」 週刊プレイボーイ連載(557)

22世紀からネコ型ロボットが自宅にやってきたのび太君は、困ったことや欲しいものがあると、なんでもドラえもんに頼むようになります。ポケットから出された「ひみつ道具」でとりあえず願いはかなうものの、そのうち事態は思わぬ方向に進み、痛い目にあって反省する……というのが、誰もが知っている国民的マンガの基本ストーリーです。

この作品が予言的なのは、テクノロジーの本質を描いているからです。それは、「みんなが望むものだけが現実化する」という法則です。

自動車や蒸気機関車・電車、飛行機が発明されたのは、もっと速く移動できたらいいと思ったらからです。エアコンは亜熱帯や熱帯でも快適に過ごすことを可能にし、医療の進歩は平均寿命を大幅に伸ばし、「いつまでも元気に」という願いをかなえました。

「失敗は成功の母」といいますが、失敗とはある意味、役に立たない発明でもあります。なんらかの新しい結果を生み出したかもしれませんが、誰もそれを望まなかったので、そのまま捨てられ忘れ去られたのです。

回転寿司チェーンで他人の注文したすしにわさびを載せるなどの不適切動画が拡散したり、芸能人の私生活を暴露して人気を集めたYouTuberが参議院選挙に当選し、いちども登院しないまま除名処分を受けるなどのニュースが続いたことで、「SNSが社会を破壊している」との声が大きくなっています。

これはもちろん間違いではなく、毎日のように起きている炎上騒動から陰謀論の拡散、社会の分断まで、あらゆる場面でSNSが強い影響を及ぼしていることは明らかです。以前なら知り合い同士の噂にすぎなかった話題が、またたくまに全国ニュースになるという“異常”な事態に、わたしたちはまったく対処できていません。

こうした混乱は、日本よりも英語圏でより深刻です。日本でのSNSの潜在的な利用者が6000万人程度だとすると、世界の英語人口は15億人とされますから、その十数倍の規模があります。それに加えて、言語は共通でも、人種、国籍、民族、宗教、文化的背景などが異なるひとたちが同じバーチャルな言論空間に集まれば、至るところで利害が対立することは避けられません。

これはいわば、どこに「地雷」が埋まっているかわからない状態です。Twitterの買収前にイーロン・マスクが指摘したように、フォロワー数1億人を超えるようなSNSのセレブリティは、いまではたんなる告知以外、ほとんど発言しなくなっています。どこでどのような反応が生じるか予測できないのなら、黙っているのがいちばんです。

毎日のように誰かが「地雷」に触れ、炎上によって(心理的に)爆死する光景は、まさに戦場のようです。しかしここで強調しておかなくてはならないのは、SNSのテクノロジーは、「いつも誰かとつながっていたい」「自分の評判をすこしで高めたい」という“夢”をかなえてくれるからこそ、世界中で広まったということです。

SNSは「地獄」かもしれませんが、それはわたしたちみんなが望んだからこそ、この世界に誕生したのです。

『週刊プレイボーイ』2023年3月27日発売号 禁・無断転載