第87回「日本の仕組み」を変えよう(橘玲の世界は損得勘定)

2019年は平成が終わり令和の時代が始まった節目の年だった。平成の30年間をひと言でまとめるなら「日本がどんどん貧乏くさくなった」だろう。

国民のゆたかさの指標である一人あたり名目GDP(国内総生産)は、1990年代はほぼ5位以内で2000年にはルクセンブルクに次いで2位になったものの、その後は急落して2018年は26位だ。

80年代末のバブル期には日本の経済力はアジアで圧倒的で、「貧しいアジア」から観光客がやって来るなど考えられなかった。それがいまや国民のゆたかさで香港やシンガポールに大きく引き離され、韓国に並ばれようとしている。長いデフレが続いた結果、「安いニッポン」にアジアから観光客が押し寄せるようにもなった。

さまざまな世論調査で、年齢が高いほど「反中・嫌韓」意識が高いことが示されている。団塊の世代を中心に、「貧しい日本/ゆたかなアジア」の逆転を受け入れられないひとたちが、排外主義的な感情を抱くようになったのだろう。

日本では保守/リベラルにかかわらずほとんどの「知識人」が、「年功序列・終身雇用の日本型雇用が日本人を幸福にしてきた」として、「グローバリズムの雇用破壊を許すな」と大騒ぎしてきた。

だが労働者のモチベーションを示すエンゲージメント指数を国際比較すると、OECDを含むほとんどの調査で、日本のサラリーマンは「世界でいちばん仕事が嫌いで会社を憎んでいる」との結果が出ている。多くの企業でうつが蔓延し自殺者が後を絶たないことが社会問題になっているが、労働者を会社というタコつぼに押し込め滅私奉公を強要する日本型雇用こそが日本人を不幸にしてきたのだ。

なかでもいちばんの問題は、長時間労働の割合が欧米諸国の2倍も高いにもかかわらず、労働生産性が先進国で最低で、米国の7割以下しかないことだ。日本企業の利益率はきわめて低く、ROA(対資産)でもROE(対資本)でも欧米はもちろん韓国や中国の企業より劣っている。

主要先進国では実質賃金は着実に上がっているにもかかわらず、日本だけが1995年からの20年間で10%以上も下がっている。これも「グローバル資本主義の陰謀」のせいにされてきたが、たんに稼げないから賃金を下げざるを得なかっただけだ。

企業の利益率が低く、労働者の賃金が下がり、物価も上がらない経済では、当然のことながら株価も低迷する。ニューヨーク株価は2万8000ドルを越えて「史上最高値」を更新したが、日本株は2万4000円前後をうろうろしていて、いまだにバブル絶頂期(1989年末の3万8915円)の6割の水準だ。

金融庁や証券業界は平成の30年間、ずっと「貯蓄から投資へ」を唱えてきたが、まったく効果がないと嘆いている。だがこれは話が逆で、「国民の意識」を変えるのではなく、まずは「日本の社会・経済の仕組み」を変えなくてはならない。それによって日本株が「史上最高値」を越えるようになれば、「啓蒙」などしなくてもみんな株式投資に夢中になるだろう。

橘玲の世界は損得勘定 Vol.87『日経ヴェリタス』2019年12月29日号掲載
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