「強いリーダー」はなぜいないのか? 週刊プレイボーイ連載(34)


昨年末には北朝鮮の金正日主席が急逝し、今年は米大統領選や中国共産党の政権交代など重大イベントが目白押しで、ユーロ危機はあいかわらず薄氷を踏むような状態がつづいています。そんななか、日本にも「強いリーダー」が必要だとの声が日増しに大きくなっています。

ところで、日本にはなぜ強いリーダーがいないのでしょう。この疑問はふつう「政治家がだらしないからだ」と一蹴されてしまうのですが、そんな簡単な話ではないかもしれません。

1980年代から、世界80ヶ国以上のひとびとを対象に、政治や宗教、仕事、教育、家族観などについて訊く「世界価値観調査」が行なわれています。これだけ大規模な意識調査はほかになく、その結果もきわめて興味深いのですが、2005年調査の全82問のなかで、日本人が他の国々と比べて圧倒的に異なっている質問がひとつあります。

近い将来、「権威や権力がより尊重される」社会が訪れたとすると、あなたの意見は「良いこと」「悪いこと」「気にしない」のどれでしょうか。

集計結果を先進国で比較すると、フランス人の84.9%、イギリス人の76.1%が、社会を運営するためには権威や権力は尊重されるべきだと考えています。マリファナや安楽死を容認するオランダで70.9%、自助・自立を旨とするアメリカでも59.2%が権威や権力は必要だと回答し、権威的な体制への批判が噴出する中国ですら43.4%が権力は好ましいものだと考えています。

それに対して日本人は、この質問にどのように回答したのでしょうか。

驚くべきことに、日本人のうち「権威や権力を尊重するのは良いこと」と答えたのはわずか3.2%%しかいません。逆に80.3%が「悪いこと」と回答しています。この結果がいかに飛び抜けているかは、権威や権力への信頼度が2番目に低い香港でも22.6%が「良いこと」と回答していることからも明らかです。

日本人は世界のなかでダントツに権威や権力が嫌いな国民だったのです。

なぜこのような特異な価値観を持つようになったのかは意識調査だけではわかりませんが、第二次世界大戦の経験が影響していることは間違いないでしょう。権威や権力を振りかざす政治家や軍人を信じたら、広島と長崎に原爆を落とされ、日本じゅうが焼け野原になり、民間人を含め300万人もが犠牲になったのですから、もうこりごりだと思っても不思議はありません。

しかしそれでも謎は残ります。敗戦によって同じような惨状を体験したドイツでも、半分(49.8%)のひとが「権威や権力は尊重すべき」とこたえているからです。

日本の歴史を振り返ると、「独裁者」と呼べそうな支配者は織田信長くらいしか見当たらず、徳川家康を筆頭に、あとはみんな調整型のリーダーばかりです。だとしたら日本人は、大昔から権威や権力を嫌ってきたのかもしれません。

もちろんこれについてはいろいろな解釈があるでしょうが、ひとつだけはっきりしていることがあります。

日本に「強いリーダー」がいないのは、だれも望んでいないからです。これまで1000年以上にわたってそうだったのだから、これからもたぶんずっとそうなのでしょう。

 『週刊プレイボーイ』2012年1月16日発売号
禁・無断転載 

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文章ではわかりにくいと思うので、上記の調査結果をグラフ化したものを掲載しておきます。

ここに近い将来起こると思われるいろいろな生活様式の変化があげてあります。もし、そういうことが起こった場合、あなたはどう思われますか。

よい(好ましい)ことだと思いますか、悪い(好ましくない)ことだと思いますか、それともそういうことが起こっても気にしませんか。それぞれについてお答えください。

の問のうち、「権威や権力がより尊重される」について、「良いこと」と回答したひとの比率です。

『世界主要国価値観データブック』(同友館)より作成

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21件のコメント

  1. 日本のほとんどの人は権威や権力を「自分が行使する側」になれると考えていないんでしょうね。
    それなら権威や権力は自分を縛り付けるだけのものですから決して良いものではないでしょう。

    そういう「身分制度」が日本にはしっかり残っていると思えます。

  2. 日本のみ特異な値が出てますので、調査自体の検証が、まず必要かもしれないですね。
    サンプルの取り方がおかしいのか、質問に使った単語のニュアンスが違うのか。

    「小泉純一郎」は強いリーダーではなかったのですかね?
    謎ですね。

  3. いつも月木のブログ更新を楽しみにしております。

    今回の題材については、正直かなり驚きました。
    しかし、日本が下位一位なのもさることながら、二位とダブルスコアどころか、約10倍の差がある事は、驚きを通り越して結果になんらかのバイアスがかかっている気がしてなりません。

    例えば、
    質問文にある権威、権力という表現は日本語以外の言語ではもう少しポジティブな表現になっている説。
    『権威』を『オーラ』とか、『権力』を『皆を導く力』というニュアンスの言葉に置き換えたら結果も随分変わるのではないでしょうか。

    まぁ、権威や権力をネガティブと捉えている時点で橘氏のロジックに見事にはまった日本人なのかもしれませんが。

  4. 「権威や権力」を「リーダーシップ」に置き換えれば全然違う結果かもしれませんね。
    「リーダーシップを尊重すべきか」とね。
    リーダーシップもフォローシップもなく、重要な問題が何も解決できないのがこの国の現状ですが、それを肯定的に考える人はどれくらいなんでしょう。

  5. 反権威や反権力といってる方が楽だからですかね。
    マスコミやコメンテータもどの党や誰が総理大臣になっても反対反対だめだだめだ言ってれば誰にも文句言われない。だめだね。

    あっ!俺も批判ばかりだわ。反省

  6. 日本の場合、「強いリーダー」も「独裁者」もいらないけど、「開明君主」=日本語で言えば「名君」「良い殿様」には従いていきたい。ってことなんでしょうかね。

  7. 神輿は軽いほうがいい、って言葉がありますよね。
    責任は取りたくないけど、決め事は空気に任せて、失敗したら集団責任、みたいな

  8. リバタリアンな我々には、強いリーダーなんて不要ですよ。
    衆愚政治に歪みがあれば、それを利用すればいいだけです

  9. 誠に注目すべき調査結果ですね。

    第二次世界大戦に関連して言えば、実際には権力が欠如していたために対米開戦を止めることができなかったにも関わらず、「権力を持った軍部が暴走した」というフィクションにすり替えられてしまったことが大きいように思います。

    今また、権力の欠如によって債務の膨張を止めることができず、もう一度ハルマゲドンが起これば、今度は日本人も冷静に「権力の欠如」が何を引き起すのか学べるかもしれません。

  10. いま大阪市民に同じアンケートをとったらどうなるんでしょうね?

  11. カリスマ的なリーダーが、日本では馴染まない精神構造について、下記書籍が的確に指摘しています。

    『中空構造日本の深層』
     河合隼雄,中公文庫

  12. 言うことをきかない民が少なかったこともまた一つの原因だろう。日本はなんだかんだと単一民族的で、諸外国のように民族の権利を争ってのデモも紛争もなかった国だ。力で言うことをきかない連中を押さえつける必要もなく、血の粛清もなかった幸せな国なのだ。大金持ちもいなければ、1日1ドル以下で暮らす貧困層もない国。強いリーダーなどいらないだろう。

  13. そうなんだよね。リーダーの必要性なんて、考えたこともないんだよね。
    「リーダー」じゃなくて、「架空の完全無欠の誰か」なんだよね。
    誰かが自分達を良くする義務があって、完璧なはずのその人たちが全部完璧にやるべきなんだよね。だから、自分達は考える必要がないはずなんだよね。

    「リーダー」の意味が解らないんだ。この国の人たちは。生活というか民族の思考フレームの中にそういうものが無いんだわ。責任、義務、委任するとか。
    自分達のアクションは「考える」とかそういう能動的なことではなくて、「我慢」なんだね。
    センキョとかセージとかヨロンとかみてるとさ、そうとしか考えられないじゃん。

    嘘つきとかもいっぱい居るけどさ、結局は国民が自分の意思で破滅に突き進んでるんじゃん。
    情報取りたくないとか考えたくないとかさ、愚かでいる自由、貧しくなる自由とかも認めてあげないとね。だって、自由じゃん。みんな。

  14. だいたい、「権威や権力がより尊重される」社会なんていきなり言われて
    すっきり理解できる日本人は少ないでしょう。抽象的すぎてわかりにくい。
    他の国ではどういう現地語で質問したんでしょうか。
    なんか、言語の違いによるバイアスがすごく大きそうです。

  15. 日本ではもう20年以上もまともな権力者が現れなかったことが理由では?
    真性の馬鹿の森、口だけの小泉、ふしゅう麻生、ルーピー、そして今は財務官僚の木偶が総理ときたもんだ
    こんな奴らの権限を強化したらどうなるか・・・国民が権力を嫌うのは当然だろう

  16. 本文中でご指摘の通り、日本では戦国時代と幕末以外に強力なリーダーは存在しません。それは日本人が強力なリーダーを好まないからです。だから日本おいて強力なリーダーシップを発揮する人はあまり暗殺されることも多いです。日本人は、なんでも話し合いで解決しようとします。そうしないと誰かが傷つき、恨みが生まれるからです。これを日本人は極端に恐れます。日本から談合がなくならないのも、これが理由です。日本人には法律よりも話し合いの結果の方が、上位に位置するのです。なので昔から権威である天皇と実質的に政治を行う幕府や政府が存在し、権力の一極集中を避けてきました。

  17. 音楽業界でいう初音ミクのように、
    日本の総理大臣を生身の人間でなく、アニメの架空のキャラクターにしてしまうのはどうでしょう。
    少なくとも、見た目、声、立ち居振る舞いくらいは、名君っぽくできそう。

    国民は、その総理大臣を動かす時になって始めて、
    世論だけでなく権威・権力が必要と、気付くのでしょうね。

  18. >日本の総理大臣を生身の人間でなく、アニメの架空のキャラクターにしてしまうのはどうでしょう。

    ボーカロイドならぬ、ソーリロイドですね。流行りそう(笑)

    でも現実はずっとソーリロイドだと思うのですが・・・
    今も昔も政治なんて裏にフィクサーがいるんじゃないかな
    どこの国でも。

  19. それぞれの国の人たちが「権威・権力」にどんなイメージを持って答えているかが興味深いところです。サラリーマン生活が長かった私は、社長・部長・課長・派閥の主などのイメージが先に立ちました。日本ではサラリーマンという職業に就いている人が多いことが影響しているとは考えられないでしょうか。

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