国民の7割が生活に満足しているのに政権交代はある? 週刊プレイボーイ連載(307)


*9月22日執筆、10月2日発売号の記事です。その後、日本の政治状況は大きく変わりましたが、論旨に変更はないのでオリジナルのまま掲載します。

安倍首相が臨時国会冒頭での解散を決めたことで、政界は選挙一色になりました。これについては、「森友・加計の疑惑隠しだ」との批判があり、それはたしかにそのとおりなのですが、それが許されないことであれば有権者がそう判断するでしょう。「北朝鮮がミサイル発射を繰り返しているときに政治の空白をつくるな」との意見もあるようですが、そうなると日本の政治を金正恩が決めていい、ということになってしまいます。国会を解散させたくないなら、ミサイルを撃てばいいのですから。

すでに指摘されているように、首相が解散総選挙を決断したのは、(1)野党第一党の民進党が党首交代で混乱し離党者が相次いでおり、(2)政治的脅威になり得る小池東京都知事の「ファースト勢力」の準備が整わず、(3)北朝鮮問題などで内閣支持率が上向いている、という条件が揃ったからです。日本では任期が決まっている参院に対して、衆院解散は首相の専権事項とされていますから、勝てると判断したときに勝負に打って出るのは当然のことです。野党の批判に説得力がないのは、「自分たちが勝てそうなときに選挙をやってくれ」といっているように聞こえるからでしょう。

衆院議員の任期は4年ですが、任期満了が近づくにつれて首相の求心力は失われていきます。それは日本では、「いつ解散されるかわからない」という不確実性が首相の権力の源泉となっているからです。それを劇的に示したのが小泉元首相の郵政解散選挙で、誰もが「まさか」と驚くタイミングで衆院を解散し、圧勝したことで「官邸支配」を確立しました(ちなみにこのときも、「解散の大義がない」と批判されました)。

それに対して麻生内閣では、小泉時代の「遺産」が大きすぎて解散のタイミングがつかめず、任期満了まで引きずったあげく大敗して民主党に政権交代を許しました。民主党の野田政権はその失敗を見ていたため、任期を8カ月残して解散に踏み切りましたが、これも失敗して第二次安倍政権が誕生します。

これを見てもわかるように、日本の政治では衆院を適切なタイミングで解散することで権力がつくられます。そのルールを、気に入らないからといって、特定の政権だけに適用させないのは理不尽です。そこで、憲法を改正して首相の解散権に制約を加えるという発想が出てくるのですが、仮に実現するとしても何十年も先の話になるでしょう。

内閣府の調査では、現在の生活に「満足」とこたえたひとが73.9%と過去最高になりました。失業率は2.8%とほぼ完全雇用の状態で、求人倍率は1.52倍でバブル最盛期を上回り、大学生の就職内定率は9月時点で9割を超えています。これには少子高齢化による人手不足などさまざまな要因があり、一概にアベノミクスの成果ということはできませんが(これは後世の評価に任せるしかないでしょう)、ひとびとが経済運営に不満をつのらせているわけではないのはたしかです。

安倍首相は、「国民の7割が生活に満足しているのに、政権交代など起こるはずはない」とたかをくくっているのでしょう。有権者は足下を見られているような気もしますが、それも選挙によって審判されるのが「民主主義」というものです。

『週刊プレイボーイ』2017年10月2日発売号 禁・無断転載

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国民の7割が生活に満足しているのに政権交代はある? 週刊プレイボーイ連載(307) への11件のフィードバック

  • 尖沙咀 のコメント:

    >これを見てもわかるように、日本の政治では衆院を適切なタイミングで解散することで権力がつくられます。そのルールを、気に入らないからといって、特定の政権だけに適用させないのは理不尽です。そこで、憲法を改正して首相の解散権に制約を加えるという発想が出てくるのですが、仮に実現するとしても何十年も先に話になるでしょう。

    首相の解散権は、言ってしまえば

    株の利食いまたは損切り

    みたいなもので、
    首相および政権与党の
    「伝家の宝刀」
    なのです。

    誰がどう考えても、
    「自分が大損になる時」に

    利食いまたは損切り

    をするべきではないのと同様に、
    (かつて野田政権は最悪のタイミングで解散しましたね)

    首相および政権与党も
    自分の利益が最大で損失も最小になるタイミングで
    解散総選挙をするべきだし、
    実際にそうであるだけの話です。

    それにしても、「立憲民主党」って、「かつての社会党左派」みたいなもんで、
    共産党との共闘など、あまり「左翼」色を出し過ぎると、反共運動に
    まきこまれるリスクが高いのに・・・

  • 匿名 のコメント:

    確かに。枝野さん、良いと思うけど、共産党はないよね。共産主義めざして、資本家打倒とか、ちょっと票は入れられない。
    小池さん、やっぱここかな。
    安倍さん、飽きた。菅さん二階さん、岸田さん、もう見たくないよ。

  • 論屋 のコメント:

    大方、橘先生の趣旨に異存は有りません。
    まぁ実際情報機関をガッチリ押さえてる行政
    内閣が自分からバカな選挙するわけないし。

    ただ、日本の失業率のカウントの取り方は独特で、例えば土木作業員の求人までカウントしていることです。あれは高齢のひとにはできない仕事だし、ある程度事務職などでキャリアを積んだひとの就職先にはなり得ないでしょう。
    そういう点では統計と現実のミスマッチは確実に起きてます。また、「今まで」良かったからといってこれからも良いとは限らないですね。

    なんといってもまだそこまで国民は悲観的じゃないのでできた解散でしょう。
    私は改憲反対派で原発推進派なので投票先はなく、投票日はごろ寝を決め込みますけど。

  • シンクシノハラC5 のコメント:

    生活に満足していても安倍首相に嫌気が差すことはあると思う。
    あのいちいち文節で区切る喋り方はイライラする。
    国策?の原発押しも。
    当時の民主が停めた原発のエリアにいるけど、四六時中TVで安全をアピールする広告(電力会社の)にウンザリしている。早く燃料棒が冷えて欲しい。

  • 匿名 のコメント:

    必死な零細組織の下らない野次とか
    同業者に鼻で笑われてるアホ記者とか
    を相手にする幼稚さはトランプを越えた。

  • alise のコメント:

    7割が満足かぁ・・・
    その7割の内の9割は、高齢者なんじゃないなかなぁ・・・

    だとしたら、民主主義ってやっぱ限界ですよね?
    五輪が終わった後の経済状況の不透明さ。
    先の見えない不安さ。
    世界どこでも同じと以前書かれていましたが、若者受難時代ですね。
    まあ幸不幸は隣の芝が大きく影響すると思いますが、
    日本は隣の芝が見えにくいので世代間での比較になると、やはり
    デフレ時代を生きている今の若者や中年には厳しい時代な気がします。
    団塊Jr世代は社会に出てそろそろ20年経ちますが、
    手取り所得はせいぜい1.2~1.5倍とか。
    ここに晩婚化や少子化の原因があると思うんですけどね。
    あと散々メディアに一人1000万だの2000万だの植え付けられた子育て費用も。
    これは今も膨らみ続けているし・・・。

  • 尖沙咀 のコメント:

    >7割が満足かぁ・・・
    >その7割の内の9割は、高齢者なんじゃないなかなぁ・・・

    いわゆるデフレ=物価が上昇しない社会
    のメリットがあるのではと思いますけど?

    物価が上昇せず、待っていれば次から次へ
    安くて良いモノがでてくる社会っていうのは、

    かつての石油ショックからバブル崩壊を経験した人にとって、

    ある程度のインカムとストックがあるという前提ならば

    むしろデフレ社会の方が安定していますね。

  • 匿名 のコメント:

    7割の9割(74*0.9、つまり国民の67%)が高齢者なら、
    内閣府の調査は信頼性が全く無いということだねw

    ありえるのかもしれないけど、もしそうなら役人は役立たずだねw

  • 匿名 のコメント:

    希望の党の論旨は、じつは公明党と非常に近いです。

    都議選で公明党が都民ファーストに寝返りました。

    国政でも同様な流れになれば、全てがひっくり返ります。

    今回は自民党圧勝でしょうが、問題は小池さんが国政に出る次の選挙だとおもいます。

    公明党票が無いと、自民党の議席は半数くらいになるのではないでしょうか。

    そう考えると、公明党に顔を向けた社会保障てんこ盛り政策の連発もうなづけます。

    小池ー公明党ラインは政局のジョーカーです。

    安倍首相も、都議選で小池さん公認しなければ良かったのに・・・

    論者の意見に反するようですが、自民党幹部は、そんなに余裕には思ってないとおもいますよ。

  • 尖沙咀 のコメント:

    >小池ー公明党ラインは政局のジョーカーです。

    が、小池百合子が知事の仕事をキャンセルして希望の党の街頭演説をしてしまう
    ことが、与党自民党にとっては格好の攻撃材料になるのです。
    ttp://matomame.jp/user/arieru555/b3e3a75b71ffffe0019e
    これは小池知事を支持した都民だけでなく、地方からみても同じでしょう。

    かつて橘さんはこう書きましたね。
    地方の支店長が社長に命令する組織 週刊プレイボーイ連載(72)
    ttp://www.tachibana-akira.com/2012/10/5142

    コレと同様なことが今回の選挙でも・・・というわけで
    安倍首相が解散に打ってでたとは穿ち過ぎでしょうか???

  • 文藝春秋ファン のコメント:

    今朝おめあての文藝春秋の最新号を読んだ。

    驚いたのは、橘さんの洞察力
     ・従来のひだり右の翼の考え方が、真逆になってきている
     ・日本の世代間の価値観ギャップが、四十代以下と五十代以上にある

    となると、この選挙とは世代間の戦争かもと感じた。

    橘さんには、戦争の傷跡を埋めるための、フィクションライティングを
    期待している

    壬申の乱のあとに作られた日本書紀や、
    明治維新のあとに作られた憲法のように
    橘さんなら、作れるって確信

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