規制緩和なんて、しょせん私利私欲? 週刊プレイボーイ連載(293) 


学校法人「加計学園」が愛媛県今治市の国家戦略特区に大学の獣医学部を新設する計画で、安倍首相の関与をめぐって国会が紛糾しています。森友学園問題では、理事長夫妻の特異な教育方針に心酔したのは昭恵夫人で、校名に自分の名を冠して寄付金集めの道具にされるなど、首相は「困った妻に振り回される夫」の役回りでした。しかし今回は、首相自らが権力を行使したのではないかというのですから疑惑はより重大です。

なにが問題になっているのか、論点は2つあります。

(1)文部科学省と獣医師会は「全国的に獣医師の数は足りている」として、50年以上にわたって獣医学部の新設を認めてこなかったが、この規制は正当化できるのか。

(2)規制緩和するとして、獣医学部はどの地域にどれほどの定員で新設し、誰が運営するのか。設置場所と事業者の選定は公正な手続きで行なわれたのか。

獣医学部の新設については民主党政権時代にも検討されたことがあり、規制が既得権を守っているだけとの認識はあったようです。税金を投入しているわけでもないのに、需要に合わせて獣医師の数を調整しなければならない理由があるとも思えません。供給が多くなればサービスの悪い獣医師が淘汰されるだけですから、消費者にとってもよいことでしょう。

だとすれば問題は、「どこに誰がつくるか」にあります。そして前文部科学次官の証言などを見るかぎり、その経緯は権力の陰に覆われているといわざるを得ません。

獣医学部の新設が認められたあと、内閣府は公募を行ないますが、手を挙げたのは加計学園と組んだ今治市だけでした。これは一見すると、競合者がいないのだから公正に思えますが、報道によれば、京都府が京都産業大学と組んで名乗りをあげていたものの、公募条件が突然、「獣医系大学のない地域に限り」に変わったため、地域内にすでに獣医学部がある京都府は諦めざるを得なかったといいます。これは「あと出しじゃんけん」以外のなにものでもありません。

安倍首相の関与については、内閣府の文書に「総理のご意向だと聞いている」との文言があったり、「総理は自分の口からは言えないから、私が変わりに言う」との首相補佐官の発言を前次官が証言するなど、ぞくぞくと傍証が出てきています。加計学園の理事長を首相は「腹心の友」と呼んでいるのですから、規制緩和を利用して支援者に便宜を図ったと見られても仕方ないでしょう。

国家戦略特区は、「岩盤規制に風穴を開ける」という大義名分で、トップダウンの強い権限が与えられています。規制緩和の正統性は、権力と結託して甘い汁を吸っている既得権益を破壊し、「消費者主権」のもとで市場を活性化させていくことにあります。既得権が「岩盤」となっている業界では強引な手法が必要なこともあるでしょうが、それだからこそ運用にあたっては常に公正をこころがけねばなりません。

規制緩和の名のもとに自分たちも甘い汁を吸っているなら、そんなものを誰も信用しないのは当たり前です。「改革」の掛け声だけでけっきょくなにも進まないのは、けっきょくこういうことなのでしょう。

『週刊プレイボーイ』2017年6月12日発売号 禁・無断転載

カテゴリー: Column, そ、そうだったのか!? 真実のニッポン タグ: パーマリンク

規制緩和なんて、しょせん私利私欲? 週刊プレイボーイ連載(293)  への10件のフィードバック

  • 尖沙咀 のコメント:

    むしろ、かつて田中角栄がそうであったように、

    「私利私欲をも
    飲み込んでしまう政治家」

    の方が正しいのではないでしょうか?

    かつて反田中の急先鋒だった石原慎太郎は、

    その著書『天才』で

    田中角栄を活き活きと描いています。

    橘さんのご支持する民主党議員の
    玉木雄一郎氏
    (マネーロンダリングで解説を書いている)は

    獣医学部新設反対を唱えていますが、

    産経新聞によると、獣医学部新設に反対している日本獣医師会の総会で、獣医学部新設を阻止することを宣言している。同紙や窪田順生によると、獣医である父と弟も家族ぐるみで獣医師学部の新設には反対である。

    これは見方を変えれば、既存獣医師の既得権が希釈されるのを強硬に反対している
    ととられても仕方ありませんよ。

    なんせ、四国の香川出身の議員が、獣医学部の空白地帯である四国に
    獣医学部設立に反対しているのですから、言わずもがなですな。

    ところで、「獣医師」というと、
    「動物のお医者さん」
    的イメージですが、

    その仕事は多岐に渡り、
    畜産や食品衛生、保健所や屠畜場、はては動物園
    などの公的機関でのニーズがあります。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8D%A3%E5%8C%BB%E5%B8%AB#.E3.80.8C.E8.A8.BA.E7.99.82.E3.82.92.E3.81.97.E3.81.AA.E3.81.84.E3.80.8D.E7.8D.A3.E5.8C.BB.E5.B8.AB

  • h3 のコメント:

    >公募条件が突然、「獣医系大学のない地域に限り」に変わったため、地域内にすでに獣医学部がある京都府は諦めざるを得なかった…

    この「あと出しじゃんけん」(規制)を課したのは 権力と結託して甘い汁を吸っている既得権益側ですよね。

  • sariew のコメント:

    うまい!>h3さん
    どや顔でうpしたら、墓穴を掘りましたねw>主

  • 尖沙咀 のコメント:

    そもそも、獣医師には、

    獣医師国家試験
    (農水省管轄)

    があり、それに合格しないと
    「獣医師」になることができないことで、

    どこに作ろうが、この国家試験によってある程度の水準を
    担保しているわけです。

    なんのためにつくるのかわからない
    凡百の他大学新設には言及せずに、

    社会的ニーズの高まってきている
    獣医師養成のための獣医学部新設だけを
    問題にするのは、

    「反安倍のためならなんでもする」
    ととられても仕方ありませんよ!!!

  • 残念至極! のコメント:

    ちょっと間違ってる。
    今治市は、国家戦略特区制度以前から新設を要望していたし、
    加計も要望していた。
    しかし、それが何年もなぜか却下されていた。

    今治市の要請は、四国と中国地域に獣医学部がある大学が存在しておらず、
    元から公務員獣医師の採用に不利な状況下だったから要望していた。
    そこにこの文科省の認可という岩盤があり、なかなか突破できなかった。

    というか獣医師会の会長すら新設阻止を唱えており、
    そのロビー活動の中心に民進党議員が動いていた事実まである。

    今回、歪んだように見えるのは、民進党のくだない拘りであまりにも
    お粗末なまでのそれこそ印象操作と言ってもいい、問題化にしたい
    というやりかただった。

    地域限定も別段、おかしいということもなく、「京産大の申請が…」という
    くだりもおかしい。すぐ近くの大阪大きな獣医学部を持つ大学あるのに
    なぜそこに設立しなくてはいけないか?です。

    そもそも新設は1校のみと限定条件を出してきたのは、文科省とその
    背後にある獣医師会がゴリ押しで認めさせたのは明白です。
    国家戦略特区や今回の加計学園への獣医学部新設に関して、難癖をつけるのは
    あまりにも歪み過ぎであるのは明白ですね。

    橘さんとあろう方がでも、この辺の思惑が見えてないと
    思わないのですが、ややチープな切込みで残念です。

  • 名無しさん のコメント:

    所詮は、私利私欲のため、納得です。

    長い間、需要の増加もあり、幼稚園から高校大学まで
    様々な学校が認可され続け、増え続けてきたのですが、
    国会議員の田中某さんに「必要がない!」と
    北の方の梯子を外されるような大学もありましたね。

    そもそも、獣医学部に日本でどれだけの需要があるのかと
    思ってしましますが、開設のためのそもそもの動機が
    開いた口が塞がらないような
    私利私欲のためだったら驚いてしまいます。

    そういう事実を、今回の今治市の獣医学部開設では
    唱える人もいますね。

    獣医学の勉強を大学でした
    加計学園の息子さんの就職口として開設を考えたと。
    本当なのでしょうか。
    https://togetter.com/li/1116962

  • 尖沙咀 のコメント:

    >そもそも、獣医学部に日本でどれだけの需要があるのかと
    >思ってしましますが、開設のためのそもそもの動機が
    >開いた口が塞がらないような
    >私利私欲のためだったら驚いてしまいます。

    「私利私欲」こそが資本主義の発展の原動力なのであって、

    「私利私欲」を否定した

    社会主義国家がうまくいかなかった
    ことをこそ考えるべきです。

    前にも言ったように、

    「国家試験」に通らないと
    「獣医師」
    と名乗ることができません。

    つまり
    「獣医師」であることの

    ある程度の品質は
    「国家」によって
    保証されているのです。

    獣医である息子・加計悟も

    既得権益を守るために獣医学部新設を潰したい意図がある
    玉木雄一郎の父と兄も

    どちらも同じ穴のムジナですよ。

    結局「政治」というのは、

    利益誘導のせめぎあい

    にすぎないのです。

  • h4 のコメント:

    私はリバタリア二ズムという思想があることを橘氏の著作を通じて知り、以後は自分の判断基準の中心に置いてきまたし、てっきり氏もリバタリアンかと思ってましたが、個人の自由を政府ができる限り縛らないという思想と今回のブログの投稿は相いれないように感じました。

    獣医学部だろうが何だろうが、教育機関として健全であるというお墨付きが行政から与えられるのであれば、ぼんぼん建てれば良いと思います。京都産業大学の新規参入が拒まれたのは、見立てとしては内閣府と抵抗勢力の妥協の産物と考えるのが妥当だと思います。

  • 尖沙咀 のコメント:

    >獣医学部だろうが何だろうが、教育機関として健全であるというお墨付きが行政から与えられるのであれば、ぼんぼん建てれば良いと思います。京都産業大学の新規参入が拒まれたのは、見立てとしては内閣府と抵抗勢力の妥協の産物と考えるのが妥当だと思います。

    というより、
    「獣医師」の就職先の1/4以上は

    実は公務員

    なのです。
    日本大学生物資源学部獣医学科の例
    http://brs.nihon-u.ac.jp/~vethome/career/index.html

    官僚養成校である東大法学部でもこれだけの高公務員比率はありえません。

    ということは、保健・食品衛生・農業畜産行政の中枢には、多数の
    獣医師がいるわけで、これが「既得権」であり、
    「学閥」や「コネ」を生み出す土壌であることは想像に難くありません。

    仮に、自分が獣医師であり、(農水省や地方自治体の)公務員になり
    それなりのおいしい地位にいるならば、
    わざわざ新設の獣医学部をつくって、自分のおいしい地位を
    手放すわけはないというだけの話ですよ。

  • TA のコメント:

    元官僚の話の方が説得力がありますね。
    http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52049

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