日本は「極右国家」?安倍政権は「極右政権」? 週刊プレイボーイ連載(288) 


4月23日に行なわれたフランス大統領選の第1回投票では、独立中道右派のエマニュエル・マクロンと、国民戦線(FN)党首マリーヌ・ルペンが決選投票に進むことになりました。この記事が掲載されるときにはすでに結果が出ていますが、現時点の世論調査ではマクロンがルペンを大きく引き離しています(世論調査のとおり大差でマクロンが勝ちました)。

各社の報道を見ていて気になるのは、いまだに国民戦線に「極右」のレッテルを貼るところが大多数なことです。極右(ultranationalism)は「国粋主義」のことですから、たんなる「自国ファースト」のナショナリズムではなく、自民族の優越性を前提とした人種主義(レイシズム)と見なされます。

国民戦線が「極右政党」なら、ルペンに投票した770万人(決選投票では1000万人)のフランス人は「人種差別主義者(レイシスト)」になってしまいます。もし大統領に当選すれば、フランス革命によって近代の画期をひらいた国は「極右国家」になりますが、それでほんとうにいいのでしょうか。

冷戦終焉後の1990年代にヨーロッパ各国で台頭した右翼は「ファシズムの再来」ではなく、グローバル化と福祉国家モデルの破綻がもたらす先進国社会の動揺から生まれた新しい現象でした。「反移民、反EU、反グローバリズム」を唱えるものの露骨な人種差別からは距離を置き、白人の優越性をことさらに主張するわけでもありません。彼らの世界観はハリウッド映画のような善と悪の対立ですが、ポスト産業資本主義=知識社会から脱落しつつある主流派中流層(善良なふつうのひとびと)は“被害者”で、その救済のために“古きよき時代”を破壊するイスラームの移民や“強欲”なグローバリストとたたかっているのです。そう考えれば、「ポピュリスト(民衆主義)」「伝統保守」「新右翼」などの呼称がより適切でしょう。

風刺雑誌『シャルリー・エブド』襲撃事件の後、日本の新聞社のインタビューに応じたマリーヌ・ルペンは、「(両親が外国人でもフランスで生まれた子どもは国籍を付与される)出生地主義の国籍法を改定し、二重国籍を廃止すべきだとしたうえで、「めざすは(どちらも実現している)日本のような制度」と明言しています。EU加入とユーロ導入で通貨主権を失ったことを嘆き、「日本はすばらしい。フランスが失った通貨政策も維持している。日本は愛国経済に基づいたモデルを示しています」とも述べています。

さらに、国民戦線の新世代を代表する政治家(仏北部エナンボモン副市長)は、「今は安倍晋三氏の自民党に近い政策の党だ」と自分たちを紹介します。移民や難民に門戸を閉じ、よそものに不寛容で、多文化主義からもっとも遠い日本は、国民戦線にとって理想の社会モデルなのです。

その国民戦線が「極右」だというのなら、彼らが憧れる日本は「極右国家」、自民党は「極右政党」、安倍首相は「レイシスト」で安倍政権は「極右政権」になります。「まさにそのとおり!」というひともいるかもしれませんが、確信犯でなくたんなる惰性でやっているのなら、「事実(ファクト)」を無視したレッテル貼りはいいかげん終わりにした方がいいでしょう。

参考:朝日新聞2015年1月27日 マリーヌ・ルペン「国民戦線」党首インタビュー(インタビュアー国末憲人)

『週刊プレイボーイ』2017年5月8日発売号 禁・無断転載

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5件のコメント

  1. >さらに、国民戦線の新世代を代表する政治家(仏北部エナンボモン副市長)は、「今は安倍晋三氏の自民党に近い政策の党だ」と自分たちを紹介します。移民や難民に門戸を閉じ、よそものに不寛容で、多文化主義からもっとも遠い日本は、国民戦線にとって理想の社会モデルなのです。

    かつてアフリカや東南アジアに多くの植民地をもち、
    それらの地域からの人口流入圧力が常にある

    フランスと、

    台湾、朝鮮半島や旧満洲にわずかな植民地しかもたなかった

    日本との

    混同をすることこそ問題なのです。

    いってしまえば、アジア・アフリカを植民地支配していた西欧列強が、
    その歴史の負の遺産として、難民や移民の人口流入を受け入れることこそ、

    負の遺産への借金返済なのです。

  2. ちょっと違和感を覚えるのは
    >そう考えれば、「ポピュリスト(民衆主義)」「伝統保守」「新右翼」などの呼称がより適切

    ポピュリストは、別に昨今の「新右翼(?)」だけのものではなく、民衆を煽る手法ではネオリべの小泉政権でも成立したので用語としては不適切でしょう。
    「伝統保守」、保守の基本は反共であり、つまりネオリベこそ保守本流に近いのですからこれもあんまり適切ではないのでは。

    手法より反グローバリズムという内容に注目すべきでしょう。「内向主義」とか(人種や文化面でないという)「新国粋主義」とかの方が良いのでしょう。

    >日本は愛国経済に基づいたモデルを示しています」とも述べています。
    まずこれが事実誤認でしょうね。愛国どころか、自国民に犠牲を強いている経済ですから。
    なぜ日本に愛国経済」を主張する「新国粋主義政党」が生まれないのか?保革ともに堕落しすぎた結果で、それは国民の水準を表してます。
    「マクロンもルペンもお断りだ!」正直で堂々としたフランス人が羨ましくもあります。

  3. >「マクロンもルペンもお断りだ!」正直で堂々としたフランス人が羨ましくもあります。

    とはいえ、フランス人やフランス語に誇りを持っていたであろうフランスに
    他民族がどんどん入ってくることに抵抗のある人も多いのでは?

    (かつて、ある国際会議で、フランス代表が賛成を表意するのに、
    Yesではなく、Oui(ウィ)と発言していたことがありました。)

    Star Trek: The Next Generationのメインキャラである、
    https://ja.wikipedia.org/wiki/新スタートレック

    ジャン=リュック・ピカードは

    地球・フランス出身の地球人。2305年生まれ。惑星連邦の宇宙艦隊大佐(艦隊指揮大佐)、かつU.S.S.エンタープライズの艦長ですが、

    作中でフランス国旗をして
    「もっとも適切なカラー配置」
    と発言させています。

    もしこれが日系の人物で、
    映画やテレビ中で、

    日章旗や旭日旗を
    「世界で一番シンプルで美しい国旗」
    (これはその通りだと思いますが)

    と発言したら大問題になるでしょ?

    ある国と国民の、「どの程度のナショナリズムなら許容できるか?」も、

    国と国との関係によって温度差があるだけの話では???

    余談ですが、ジャン=リュック・ピカードは、
    フランス人であるはずなのに、アールグレイティー、馬術、シェイクスピア劇、リビングストン、探偵ごっこ、考古学と、イギリス人のステレオタイプっぽい趣味・嗜好が顕著である。

    TNGでは、ホームズのジェームズ・モリアーティ教授もでてきますな。もっともアメリカ人には、
    旧宗主国であるイギリスに対する敬意は少なからずあるだけの話でしょうが。

  4. >EU加入とユーロ導入で通貨主権を失ったことを嘆き、「日本はすばらしい。フランスが失った通貨政策も維持している。日本は愛国経済に基づいたモデルを示しています」とも述べています。

    もし仮に、今から45年前の1972年の沖縄返還時に、

    通貨:ドルも沖縄円も通用する。レートは当時の1米ドル=沖縄円308円固定。
    交通:自動車は右側通行
    言語:英語ないし沖縄語

    という「1国2制度」を実施していたなら、

    沖縄は日本における
    「欧米社会への橋頭堡」
    として

    大いに発展していた可能性があります。

    私のハンドルネーム尖沙咀、すなわち香港では
    まさにこの「1国2制度」を維持しているから、
    「欧米社会への橋頭堡」として
    あのように発展しているわけです。

    通貨:香港ドル。レートは1米ドル=7.8HKD固定。
    交通:自動車は左側通行(大陸は右側通行)
    言語:英語ないし繁体字の広東語(大陸は簡体字の北京語)

    だから、沖縄と香港の歴史が証明しているように、
    なんでもEUのように統一すればよいというものではないのです。

  5. 名前には左右されるな
    無名の精力に注視して
    本質を最大限に生かせ

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