アメリカで起きているのは「ふたつのリベラル」の対立 週刊プレイボーイ連載(277)


トランプ旋風があいかわらず止まりません。イスラーム圏の特定の国からの「入国禁止令」は全米ではげしい抗議デモを引き起こし、トランプはメディアでも「暴君」「差別主義者」「サイコパス」などさんざんないわれようです。

しかしその一方で、世論調査では米国人の約半数が「入国禁止令」に賛成しています。さらに興味深いのは、リベラルな若者を中心にトランプを支持する層が増えていることです。

「トランプ・デモクラット(トランプの民主党員)」と呼ばれる彼らはSNSでつながった30歳以下のグループで、その多くが民主党の大統領予備選挙で、格差是正の急進的な政策を掲げてヒラリー・クリントンと争った「民主社会主義者」バーニー・サンダースを応援していました。アメリカの若いリベラルは、民主党主流派と手を携えて新政権に反対するのではなく、民主党員のままトランプに「転向」したのです。

右(共和党)か左(民主党)かの従来の政治思想では、若くてリベラルな民主党員がトランプを支持する現象を説明できません。これを理解するには、メディアや知識人のレッテル張りから距離を置いて、トランプが「リベラル」であることを認めなくてはなりません。

アメリカ独立宣言は、人権と自由・平等を高らかに掲げて近代の画期を開きました。自然権である人権は普遍的なものですから、すべてのひとに平等に適用されなければなりません。こうして奴隷制は正当化できなくなり、南北戦争へと突き進んでいきます。

独立宣言の理念に照らせば、特定の国のひとだけに一方的に入国を制限するのは普遍的な人権に反します。自由の国アメリカは、不幸な難民を平等に受け入れなければならないのです。これを「コスモポリタンなリベラル」の立場としましょう。

ところがトランプは、「アメリカファースト」によって、このリベラリズムを反転させました。彼が重視するのは、「アメリカ人の自由、平等、人権」なのです。こうして、「国民国家が外国人の“入国する権利”より、国民をテロから守ることを優先するのは当然だ」との主張が生まれます。こちらは「ドメスティックなリベラル」です。

トランプはさまざまな「暴言」をTweetしますが、黒人を批判することはありません。彼らも「アメリカ国民」だからです。評判の悪い「国境の壁」もメキシコからの不法移民の流入を止めるためのもので、合法的に市民権を取得したヒスパニックを追い返そうとはしていません。「入国禁止令」についても、あくまでも治安対策で「宗教を信じる権利」は守られると政権は強調しています。

トランプのやっていることは、かなり危ういとはいうものの、どれもリベラリズムの範囲内に収まっています。これが、国内の経済格差に憤慨する「リベラルな若者」がトランプに「転向」できる理由でしょう。

アメリカでいま起きていることは、「コスモポリタン」と「ドメスティック」の2つのリベラリズムの対立です。そして民主政が多数決(人気投票)である以上、アメリカでもヨーロッパでも、もちろん日本でも、「自国民ファースト」のリベラルが常に優位に立つのです。

参考:日本経済新聞2017年2月8日「解剖トランプ流 支持の民主党員台頭」
水島治郎『ポピュリズムとは何か』

『週刊プレイボーイ』2017年2月20日発売号 禁・無断転載

カテゴリー: Column, そ、そうだったのか!? 真実のニッポン タグ: , パーマリンク

アメリカで起きているのは「ふたつのリベラル」の対立 週刊プレイボーイ連載(277) への6件のフィードバック

  • 尖沙咀 のコメント:

    >アメリカでいま起きていることは、「コスモポリタン」と「ドメスティック」の2つのリベラリズムの対立です。そして民主政が多数決(人気投票)である以上、アメリカでもヨーロッパでも、もちろん日本でも、「自国民ファースト」のリベラルが常に優位に立つのです。

    なにもアメリカに目を向けなくても、
    現在東京都で起きていることこそ、

    「自分たちさえ良ければよい」

    という「セクショナリズム」でしょ。

    ちょっと考えてみればわかるように、
    既に6000億円もかけて建ててしまった
    豊洲市場を使わないのは

    小池都知事の「政治的思惑」にほかなりません。

    6000億円をむだにしないためにこそ
    速やかに市場を豊洲に移転し、

    現在の築地市場エリアを再開発する決断を
    こそするべきでは???

  • シリモンコン のコメント:

    リベラルにもその”守備範囲”があってしかるべきで、移民制限もその一環かと理解しています。

    リベラリストが僕は中道リベラルだよ、とか言ってもあまりピンと来ませんしどうついて行ったらいいかよく分かりませんが、暴君が”リベラルいうてもこの位にしときや”とポーンと道筋を提示した場合、なるほど、ついて行きやすいです。

  • 山田 のコメント:

    >自然権である人権は普遍的なものですから、すべてのひとに平等に適用されなければなりません。
    >こうして奴隷制は正当化できなくなり、南北戦争へと突き進んでいきます。
    奴隷解放は人権なんて関係無いですよ。
    工業化に伴い奴隷が仕事を奪うから解放するという流れですよ。

  • 大岩四丁目 のコメント:

    「ポリ・コレ」の鬱陶しさに多くの人が気付いてきた、のだと私は思います。
    お利口ちゃんの、正義で、恰好良くて、独善で、二元論で語り、ご都合主義
    の詩人で、不都合な現実は見ないフリをして、輝く未来を説いて儲けている
    方々のこと。

    こんな詐欺師同然の者に連れてこられたので、ふっと気がつくと輝く未来は
    どこへやら? ハードでタフな現実に打ち負かされそうになっていた。口先
    だけの似非リベラルに対して、多くの人が怒るのも無理はなかった。

    トランプさんが危ういのは判っているけど、口先で上手く儲けていたお利口
    ちゃんよりはずっとマシ。薬にも毒にもならない連中が跋扈するような世界
    はもう飽き飽きした、そんな気持ちになったんだと思う。

    先日、アカデミー賞でトランプさんは散々だったけど、セレブの彼等が批判
    すればするほど、彼等のカッコつけが目にあまった。まったくイイ気なもん
    だ。豪邸に住むような彼等に、没落しつつある中産階級の生活苦など理解は
    出来ないはずだ。なぜ似非リベラルが嫌われたのかまったく解っていない。
    「夢と希望」を信じることが出来れば、必ずそれは叶うのだろうか?

    >アメリカでいま起きていることは「コスモポリタン」と「ドメスティック」
    の2つのリベラリズムの対立です。

    私は、「夢・理想」と「現実・メシの種」の対立だと思います。食えない
    若者が、お利口ちゃんをやっつける元祖リベラルのトランプさんの支持に
    回るのも、なんとなく心情的に解ります。

  • おととい確定申告した のコメント:

    ふん、
    つまらんなあ

    凄く
    自然科学

    内向きには、結束力の強化
    外には、弱体化

  • ひらめいた のコメント:

    ひらめいたのは、苦しんでる国のリーダーのこと

    アメリカのトランプ
    ロシアのプーチン 
    日本のアベ

    原因は、オバマの置きみやげか、手段は情報力に
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