自分勝手な日本人と協調的なアメリカ人


「日本の親はなぜ子どもに甘いのか?」で、日本人とアメリカ人の「確信度」の違いについての研究を紹介しましたが、近年の社会学や経済学では、国民性や文化によるエートス(行動や考え方)の差をアンケート調査や実験によって明らかにする試みが盛んに行なわれています。

こうした研究と、従来の日本人論に見られる「個人的な体験からの感想」のいちばんの違いは、科学的な反証可能性が保証されていることです。たとえばある実験によって国民性についての仮説が提示されたとしても、別の実験によって第三者がその仮説を反証することができるのです。

こうした研究は、往々にして私たちの直感や常識と異なる結論を導くことがあります。その格好の例として、『残酷な世界~』から、日本人とアメリカ人の協調性についての実験を紹介した部分を転載します。

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社会心理学者の山岸俊男は、『信頼の構造』など一連の著作で、「安心社会」と「信頼社会」という興味深い議論を展開している。

ほとんどのひとが、日本人は集団主義でアメリカ人は個人主義だと考えている。だが山岸は、さまざまな実証研究によってこの常識に異を唱える。

広く流布した「常識」を確かめるために、山岸は日本とアメリカの大学生に囚人のジレンマを試した。

実験の参加者は4人で、互いに面識はなく顔を合わせることもない(自分が一方的に裏切っても、相手にそのことを知られる恐れはない)。参加者にはそれぞれ100円が与えられ、それを次のようなルールで増やすことができる。

  1. 元手の100円のうち、好きなだけ寄付していい。寄付されたお金は2倍に増額され、ほかの3人の参加者に平等に分配される(自分には戻ってこない)。
  2. 元手を寄付しなければ、そのまま100円を受け取ることができる。

この場合、4人全員が協力を選んで100円を寄付すれば、それぞれが元手の倍の200円を受け取ることができる。だがもっとウマい話があって、元手の100円をそのままにしておいて、残りの3人が100円を寄付してくれれば300円が手に入る。一方、自分だけ100円を寄付しても残りの3人が協力してくれなければ、お金をすべて失ってしまう。

このような複雑な囚人のゲームでは、100円全額を寄付するひと(博愛主義者)や1円も寄付しないひと(吝嗇家)は少数で、ほとんどの参加者はどの程度協力するのがもっとも有利か(裏切られたときの損害が少ないか)頭を悩ませることになる。

山岸の実験では、この社会的ジレンマに直面した日本の学生は平均して44円を、アメリカの学生は56円を寄付した。アメリカ人の寄付率は、日本人よりも3割も高かったのだ。それ以外の実験でも同様の結果が出ていて、そこには明らかに統計的に有意な差があると山岸はいう。

日本人はアメリカ人よりも個人主義者だ。

山岸はこの“非常識な”結論を補足するために、次のような実験を行なった。

今回は、日本人とアメリカ人の学生がそれぞれ3人1組で参加する。彼らは無意味な単純作業(コンピュータ画面に表示された文字の組み合わせから特定のものを選ぶ)を行ない、チームの3人の合計得点に応じて報酬が平等に分けられる。作業は隔離された小部屋で行なわれ、他のチームのメンバーからは、自分が真面目にやっているかさぼっているかを知られることはない。

こうした条件でもっとも合理的な行動は、自分だけがさぼって残りの2人に働いてもらうことだ。その一方で、真面目にやってもその努力は他の2人にも分配されてしまうから、「正直者がバカを見る」ことになる。

そこで実験では、グループから離れ、1人で作業できる選択肢が与えられた。その場合、次のふたつの条件が設定された。

  1. 低コスト条件:参加者は、いかなるペナルティもなくチームから離れることが許された。
  2. 高コスト条件:チームから離れる場合は、受け取る報酬が半額に減らされた。

低コスト条件では、自分が「バカを見ている」とわかれば、アメリカ人も日本人もさっさとチームから離れていく(20回の作業のうち、平均8回で離脱する)。考えるまでもなく、これは当たり前だ。

一方高コスト条件では、「バカを見ている」とわかっても、チームを離脱すればいまよりも少ない報酬しか受け取れない。癪に障るが、そのまま搾取される方が合理的な選択なのだ。

このジレンマに直面して、アメリカ人の学生は20回の作業のうち平均1回しか離脱しなかった(ほとんどは合理的に行動した)。それに対して日本人の学生は、損をするとわかっているにもかかわらず、ほぼ8回の作業でチームを離れた。

この実験も、日本人とアメリカ人の次のような顕著な違いを明らかにしている。

日本人はアメリカ人よりも一匹狼的な行動をとる。

山岸の行なった社会的ジレンマの実験は、日本人はアメリカ人よりもずっと個人主義的で一匹狼的だ、という驚くべき結論を導いた(他の研究者による実験でもこの結果は支持されている)。日本人が「集団主義」だという、あの誰もが知っている常識はどうなってしまったのだろう。

これについて山岸は、「集団主義は文化の問題ではなく、日本とアメリカの社会の仕組みが違うからだ」とこたえる。

日本の社会は(というか、世界のほとんどの社会がそうだが)、お互いがお互いを監視し、規制する濃密な人間関係が基本だ。こうしたムラ社会では、集団の意思に反する行動には厳しい制裁が待っているから、集団主義的な態度をとらざるを得なくなる。

ところが山岸の実験では、集団の利益に反して裏切りを選択しても、なんの不利益もないように仕組まれている。こうした条件の下では、日本人は集団に協力しようとは思わない(「旅の恥はかきすて」の状況だ)。これを山岸は「安心社会」と呼ぶ。

それに対してアメリカ社会では、異なる人種的・文化的背景を持つひとたちが共生している。こちらの社会ではムラ社会的な集団主義は機能せず、つきあい方の別の戦略が必要になる。

山岸はこれを「信頼社会」と名づけたが、そこで効果を発揮するのはしっぺ返し戦略だ。

*「しっぺ返し戦略」では、最初に相手を信頼し、裏切られたら裏切り返し、相手が約束を守ればすぐに許す。

安心社会で暮らす日本人は、仲間内では集団の規律に従うが、相互監視・相互規制のくびきから離れれば個人主義的(というか自分勝手)に行動する。それに対してしっぺ返し戦略を基本とする社会で育ったアメリカ人は、仲間であるかどうかとは無関係に、人間関係をとりあえずは信頼(協力)からスタートさせる。

この違いが、社会的ジレンマに直面したときに、協力か裏切りかの選択の差となって現われるのだ。

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自分勝手な日本人と協調的なアメリカ人 への22件のコメント

  1. KJ より:

    レーザーディスクで東京裁判というのがあった。
    こういうものを家においておいてはいけない。

  2. dm より:

    > 「しっぺ返し戦略」では、最初に相手を信頼し、裏切られたら裏切り返し、相手が約束を守ればすぐに許す。

    海外ドラマやハリウッド映画なんかで、こういう状況を見るたび、
    「なんで相手が裏切ったら裏切り返すの?」
    「今まで怒っていたのに、なんでたったそれだけで許すの? 今までの怒りはなんだったの?」
    と思うことがたびたびあったが、そういうことだったのか、と得心しました。

  3. hiroshi より:

    タイトルが協調でなく強調になってますね。
    修正されましたらこのコメントは削除してかまいません。

  4. Tz より:

    大変に面白い記事です。他の記事も興味深く読みました。もしよろしければ、この類の記事は、ソースを示していただくと本当にありがたいです。

  5. オレ より:

    ひどいなーこの実験!!笑
    色々突っ込みどころあるけど、
    とりあえず言えるのは、日本人は人とか集団に感情移入しなかったら冷たい。
    アメリカは、どんな人でもある程度フランクな人が多い。ってこと。
    これは、街中で会う外人が陽気、
    日本人は冷ためなことが表してる。

    日本は集団主義というか、個の概念が弱く、
    集団を自分と思う。
    それはつまり、リスクでもある。
    だから、どんな人かわからない人たちと
    フランクに、という意識は薄い。
    それがムラ社会の本質。

    アメリカは、むしろコンソーシアムのように、
    個が生きるために、
    互いの目的のために協力する。
    だから、どこでだれが助けてくれるかわからないし、
    何もしなければ独り飢える。

    極端に言えばこう。
    そしたらこんな実験ひどいってすぐわかる。
    あとは、宗教観。

  6. www より:

    木を見て森が分かったようなきになっとるwww
    こういうのを視野が狭いといいます

  7. cln より:

    日本人は集団に従うのに慣れすぎて普段から思考停止気味になって
    個人で合理的な判断をしたことがあまりないから、いざこういうシチュエーションになると
    合理的な判断できずにズレた行動を取るってだけじゃないの?

    同じ行動を取る=協調的ってのは浅すぎるし、個人主義だとか協調的だとかは全く関係ないと思う
    個人主義って、自分で思考した結果としての合理的な判断がある ってのが前提でしょう
    合理的な判断をしてないのに主義も何も無いんじゃないの?

    これ見てそう思いました

  8. oriental n より:

    日本人の個人主義とヨーロッパ人の個人主義。前者は多分に利己的で、後者はキリスト教、一神教抜きではなりたたない。「インドへの道」という古い映画のなかで、あるインド人が老英国女にいう。「誰も見てはおりませぬ。」と、「いえ、神がみております。」と老英国女は答える。
    我々日本人を成り立たせているものは?「赤信号、みんなでわたれば怖くない」か?

  9. saka より:

    私の考えでは、この実験は協調性の強さを測る実験というよりも、むしろ集団行動に伴うリスクをどの程度負えるか、という問題を測るているのではないかと思います。
    たとえば一つ目の寄付の実験では、自分の寄付金額に対して、どの程度のリターンが望めるか、
    という、リスクマネジメントの問題を扱っているようにも見える。
    そうすると、日本人はリスクに対して慎重で、アメリカ人はより冒険的である、という、従来の見方と同様の解釈ができてしまうのです。
    組織としての協力行動における心理と、知り合いや仲間に対する有愛の心理とは分けて考えられるのではないでしょうか。

  10. ピンバック: News Update » Blog Archive » 2011/07/22 NEWS

  11. 桃色式部7 より:

    面白い記事です。日本人は利他主義的で他人に空気を読み合わせる人が多く、利己主義と個人主義をごっちゃにしている人が多いとは思います。個人主義というのが非常に難しい。
    此の実験なんなく予想できました。「寄付」というのが微妙ですがアメリカでは募金はかなり行われるので、それとごっちゃにしてしまうと此のテストをどうとらえるか困ってしまいます。
    ゲームなのかそれとも善意や協調の問題なのか?
    2の場合は一緒に仕事をしている事は解っている訳ですから報酬に対する合理性や責任に関係あるかと思います。
    今回の震災で日本人は実は力を合わせるのが苦手だなと思いました。戦時中もそうですが。
    薄々感じてはいました。システムの問題もありますが意思疎通スピードが違う、韓国中国等よりも遅いと感じます。

  12. あおい より:

    囚人のジレンマゲームをやるならオリジナル通り、100円を「賭けて」200円の「利殖」を
    期待するゲームにすればよかったのだと思うのですよね。
    でも、それだと「日本人の方が投機に不熱心」という常識どおりの答えにしかならない。

    なので「賭け」を「寄付」と言い換えて、利益追求行為を利他的行為に見せかけ、あたかも
    社会参加度を測る実験であるかのように欺いているだけなんですよね。
    実社会でもよくある詐欺的手口です。

    日本人は基本的に互いと社会を信用しますが、こういうあからさまな詐欺師は忌避するのです。
    ただそれだけのことです。

  13. 実験の解釈に疑問 より:

    一つ目の実験は、日米の投機またはリスクに対する考え方の違いを示し、
    二つ目の実験には、公平さ・公正さを重視する程度の違いが表れている。
    そのように理解したほうが、両国の実態とも一致するように思います。

    日本特殊論はたいていの場合、アメリカとの比較に基づいています。
    他のOECD諸国、とくにヨーロッパ各国とも比べた場合、日本人の結果は
    特殊ではなく、むしろアメリカの特異性を示唆する結果になるはずです。

  14. 坂 栄一 より:

    面白い結論に達したなと思うが、宗教を持つアメリカ社会がなぜしっぺ返し戦略に支配されるかの説明がいまいち納得できない、アメリカンフットボールなどで反則を犯した場合、反則をやり返すわけではなく公平である審判(神?)が罰をあたえるというゲームになっている、しっぺ返しがそこまで大きな力を持つならアメフトやその他のスポーツなどももっとその要素が見えてもいいかなと思う。同じ神に帰依するから信頼社会になったと説明するほうがまだ納得できるのだが。

  15. KJ より:

    市橋容疑者のやってることですけど、あれ一種の一方的心中だと思うんですよ。
    頭がいかれるとああいうことをやる。
    強すぎる愛は相手を殺してしまうことがある。
    これは教育でもそうです。

  16. KJ より:

    意味づけ

    わたしは数学的直観力に疎いんですけど、事業者と労働者が折半して料金を
    支払う場合と
    労働者が全部払う場合 事業者が全部払う場合  
    このみっつになにか違う意味があるんでしょうか

    ただの神経症としか思えない

  17. ちゃお より:

    自分勝手、というより信頼度の薄さが原因のように見える。

    「実験の参加者は4人で、互いに面識はなく顔を合わせることもない」という状況を
    「自分が一方的に裏切っても、相手にそのことを知られる恐れはない」という風に解釈するのは
    「日本人は人に監視されていなければ本当は身勝手」という結論ありきの解釈に見える。

    面識がなく、顔を合わせることもなければそもそもグループであるという認識が薄い。
    集団主義的、というのは裏をかえせば排他主義的でもあるので
    グループであるという認識が薄い=敵であるという認識になると思う。
    だから損得勘定の面が強く出る。

    一方アメリカ人は文字通りの「個人主義」であり、グループであろうが、一人であろうが行動内容が変わらない。

    そう捉えれば実験の解釈としては理解しやすくなるけど、
    この実験から「日本人は監視されていなければ一匹狼的である」と導きだすのは暴論に近いのでは。

  18.      より:

    アメリカは表面上は個人主義だけど、水面下では「愛国心」というもので
    しっかり「協調」してる。それが日本と決定的に違うところ。

    この実験が卑怯だと思うのは、アメリカと日本という極端に対照的な国で
    やってること。日本人論なら、世界平均を見るべきでしょう。

  19. 恩田川 鴨次郎 より:

    アメリカでは公正(Fair)が第一に規範に来ますが、日本は人情です。自分の所属する小集団(村、企業)の利益が第一になります。小集団以外の人は野垂れ死にしても構わないという思想です。
    アメリカ人は個人が自立しているので、自分以外の他人に対して公正にするのが、自分の利益にもなります。一方、日本人は小集団に個人が依存しているので、小集団の利益が正義となってしまい、その集団以外の個人に対する公正は二の次になります。

  20. より:

    コメ12、「あおい」さんの分析通りだと思います。
    この実験で「コスト」を基準のひとつにしてるあたり、日本人は胡散臭く感じるのですよ。
    カネなんて日本人にとって重要な要素ではありませんからね。

    日本人は基本的にその社会の規範に従います。
    でも、他人に迷惑かけないなら好きな事に猛進してきました。
    それだけだし、そうやって高い文化や技術を作ってきただけ。
    西洋とどう違うかなんて関係ないし、興味もない。

    利己的か協調的かなんて二元論、基督教文化圏のガキっぽい思考満点で愉快ですね(´∀`*)ノシ

  21. マロン より:

    この程度の実験のたぐいで「科学的な反証可能性が保証されている」には笑わざるを得ない。
    検証方法もその結果分析も、恣意的な判断がいくらでも可能に思える。
    数値化できたから科学的と言ってるに過ぎない。
    そもそも、テーマの設定自体にも実験に加わった人の判断基準である個別の価値観を無視しており、一時はやったゲーム理論のように合理性ということの認識自体に違いがあることを無視している。
    寄付なんかはその例で、災害募金など全く見返りを求めない寄付は別として、日本人にはなじみが薄く、アメリカのように単純に手放しで善行と思われない微妙な感情も存在する。
    誰もが直接的に自分が得になるように判断している訳ではないという視点が欠如している。

    西欧的価値観に基づいて検証すれば「科学的」ということか。
    確かに物理化学のような分野ではそう言えるが、社会学や人文学のような人や社会を扱う分野では、人の多様な価値観を前提にしておかないと、検証手法に依ってなんでもありの恣意的な結果が生まれる。

  22. マロン より:

    上記に補足しておくと、この実験方法とその評価方法自体がどちらかと言えばアメリカ(あるいは西欧)的価値観に基づいており、日本人とアメリカ人という母集団の比較に適切かどうか大きな疑問がある。
    結果について言うと、社会に生きる人間である限り、集団主義と個人主義の両方の側面を持っているのが当然で、その表れ方をどうとらえるかの問題であり、この程度の実験で「本当はこうなんだ」と言われても説得力は乏しい。

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