ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、閲覧数の多いものや、時世に適ったものを随時、このブログで再掲載していくことにします。
今回は2019年3月22日公開の「ヤフコメの調査から見えてきた 「嫌韓嫌中」など過度な投稿者たちの正体」です(一部改変)。
前回の「SNSは社会を分断させているのではなく、分極化した中高年が好んでネットを使っている」と合わせてお読みください。なお、執筆から5年ちかくたった現在では、多少状況が変わっている可能性があります。

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エスノグラフィーは「参与観察」とも訳される文化人類学の手法で、「フィールドワーク」の方が馴染みのあるひとも多いだろう。典型的な研究は、アフリカや中南米、南太平洋などの伝統的社会に長期間滞在して、学問的に定型化された手法によって文化や慣習、ひとびとの日常などを記述するというものだ。
その後、エスノグラフィーの手法は先進国の社会に拡張され、黒人や移民などのマイノリティ、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)のような性的少数者のコミュニティが参与観察されるようになった。日本では、1980年代の暴走族を参与観察した佐藤郁哉氏の『暴走族のエスノグラフィー モードの叛乱と文化の呪縛』(新曜社)がよく知られている。
文化人類学者の木村忠正氏は、「偶然の巡りあわせに導かれ」1995年頃からインターネット研究に取り組むようになった。その過程で、ネット上のコミュニティを分析する際にも、エスノグラフィーの手法が使えるのではないかと気づいたという。
アンケートなどを使って量的な社会調査をしたり、インタビューや参与観察でコミュニティを質的に調査する従来の研究に比べて、ネットコミュニティはその性質が大きく異なる。そこでは「定性的データ(インタビューや参与観察)」と「定量的データ(アンケート調査)」の垣根が取り払われ、ひとつの事象をどちらの観点からも分析する必要があるのだ。木村氏はこれを「ハイブリッド・エスノグラフィー」と名づけた。
『ハイブリッド・エスノグラフィー N.C(ネットワークコミュニケーション)の質的方法と実践』(新曜社)では、第1部で「デジタル人類学」のコンセプト・方法論と課題を、第2部でハイブリッド・エスノグラフィーの実践を扱っている。詳しくは本を読んでいただくとして、そのなかでとくに興味深いのは第10章の「ネット世論の構造」だろう。
そこではYahoo!ニュースの協力により、「国内」「国際」などのハードニュースに投稿される膨大なコメント(ヤフコメ)が分析されている。 続きを読む →