高市政権成立は予定調和(週刊プレイボーイ連載662)

高市早苗政権の支持率は70%前後で、トランプ米大統領の来日も無事にこなし、順調に船出したようです。そこで今回は、時間をすこし巻き戻して、日本ではじめての女性首相が誕生するまでの経緯を簡単に振り返ってみましょう。

公明党はもともと、支持母体である創価学会員の高齢化や信者の減少から近年の選挙では苦戦が続いており、支持者のあいだに、このまま自民との連立を続けていても利用されるだけ、との不満があったとされます。

公明党代表の斉藤鉄夫氏は高市新総裁に対して、「政治とカネ」問題で企業・団体献金の規制強化を強く求めましたが、これは自民党にとって簡単には飲めない提案なので、会談前から連立解消を決めていたのでしょう。党勢の衰退が避けられないのなら、せめて熱心な支持者だけでも固めておかなくてはならない、というわけです。

企業・団体献金が問題になるのは、その96%(約80億円)を自民党が受け取っており、それによって全国各地の政党支部の活動を支えているからです。逆にいえば、それ以外の政党は企業・団体献金を全面的に禁止しても“損害”が少ないため、自民の「金権体質」を責める格好の材料となっています。

民主政の大原則は市民(個人)が主権者として政治にかかわることですから、法人(企業・団体)が政党や政治家に献金するのは居心地が悪いのはたしかで、フランスやカナダのように禁止している国もあります。とはいえ、個人の政治献金の文化のない日本で法人の献金を禁じれば、国家が税金で政治家を丸抱えするしかなくなる、という別の問題が生じるでしょう。

公明党の連立離脱によって、自民だけでは過半数に達せず、野党が組めば政権を奪取できる可能性が出てきました。思ってもいなかったのこの機会に、野党第一党の立憲民主党は、人気の高い国民民主党の玉木雄一郎氏を総理大臣に担ぎ上げるという奇策に打って出ます。

とはいえ、衆議院の議席は立民が148、国民民主が27で5倍以上の差があります。立民にとっては、玉木氏が首相になっても主要閣僚を自分たちで押さえてしまえば、好きなように政権を運営できるという思惑があったのでしょう。これはあまりに見え透いていますから、いいように利用されるのを警戒した玉木氏が、「政策の一致」を掲げて抵抗したのは当然です。

とはいえその国民民主も連合の支援を受けている以上、自民と連立を組むのはかなり高いハードルです。そうなると、消去法で連立相手は維新しか残りません。

自民はどこかの野党と組まなくては政権をつくれないわけですから、これは自分を高く売り込む千載一遇のチャンスです。維新の吉村洋文代表にとって、不安定な野党連合の一員になるよりも、高市政権に恩を売って大阪の副首都構想を推進し、党の悲願である「大阪都」を実現することのほうがずっと魅力的だったことは間違いありません。そこで、自民が飲めない「企業・団体献金の禁止」ではなく、衆議院の議員定数削減を提案して「政治改革」を演出しようとしたのでしょう。

このようにすべてが終わってみれば、大騒ぎしたわりには、ものごとは予定調和で進んだことがわかるのです。

参考「献金見直し 動かぬ自民」(朝日新聞2025年10月23日)

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