みんなが忖度する社会で忖度を批判しても…… 週刊プレイボーイ連載(286) 


日本じゅうを大騒ぎさせた森友学園問題ですが、世論調査では「政府がじゅうぶんに説明しているとは思わない」との回答が8割を超えるものの、安倍政権の支持率はさほど下がらない、という結果になっています。

幼稚園児に教育勅語を暗唱させ、軍歌を歌わせる特異な教育理念を掲げる理事長が、小学校の設置認可と用地取得に便宜をはかってもらおうと政治家を通じて行政に強い政治的圧力をかけたことは間違いないでしょう。そのなかでもっとも効果的だったのは首相夫人が名誉校長に就任したことで、日本国籍を取得した韓国人の親に「韓国人と中国人は嫌いです。日本精神を継承すべきです」との手紙を送りつけた理事長夫人に、神道に傾倒する首相夫人が同志的なつながりを感じていたこともメールのやりとりから明らかです。

しかしこれだけでは、首相の責任を追及し内閣退陣を求めるのはちから不足です。大半のひとはこれを、“神道カルト”ともいうべき理事長夫婦とスピリチュアルにはまった首相夫人に、行政担当者(そして夫である首相)が振り回された事件だとみなしているのでしょう。

森友学園への国有地売却で注目を浴びたのは「忖度」です。私人であるはずの首相夫人に経産省から出向した秘書がおり、理事長からの要請を財務省に問い合わせ、FAXで回答していたことが証人喚問で暴露されましたが、回答そのものは便宜を約束したものではありませんでした。そこで、「形式的には断っているものの、役人はこの学園への首相夫妻の強い意向を感じ、破格の安値で国有地を取得できるよう取り計らったにちがいない」というのです。

これもありそうな話ですが、やっかいなのは、忖度そのものは違法でもなんでもないことです。そればかりか、忖度は「相手の気持ちをおもんばかること」で、これまで日本社会では美徳とされてきました。

「いちいち言葉に出さなければひとの気持ちを理解できない」のは、学校でも会社でも、日本のあらゆる組織でもっとも嫌われるタイプです。これが世代と関係ないことは、子どもたちのあいだで「KY(空気を読めない)」がいじめの対象になることからもわかります。

日本の組織の特徴は流動性がきわめて低いことです。いったん就職すると定年まで40年以上もひとつの組織に「監禁」されるのですから、若いときの悪い評判はずっとついてまわって出世を妨げます。閉鎖空間のムラ社会では、ひたすら失敗を避け、リスクをとらず、上司や同僚の気持ちを「忖度」するのが生き延びるための唯一の戦略になるのです。

日本の組織では忖度できない人間は真っ先に排除されるのですから、森友学園問題に対応した財務省や大阪府の行政担当者が「忖度の達人」なのは当たり前です。彼らを批判するマスメディアも、会社内の人間関係は忖度によって成り立っているはずです。安倍首相の責任を追及する野党の政治家にしても、支持者の要望を忖度できないようでは当選はおぼつかないでしょう。

そう考えれば、森友学園問題が失速気味な理由もわかります。みんなが忖度する社会で忖度を批判することは、自分の首を自分で締めるようなものなのです。

『週刊プレイボーイ』2017年4月17日発売号 禁・無断転載

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28件のコメント

  1. >>そのなかでもっとも効果的だったのは・・・・
    >>・・・・メールのやりとりから明らかです。

    なにを言いたいのかよく判りません。
    追求するのに効果的ということでしょうか。

  2. だから、「忖度」とかいう
    よくわからない言葉を使わなくても、

    「KY」=空気を読めない

    で過去にも言い尽くされた
    日本社会の病理なのです。

    >そのなかでもっとも効果的だったのは首相夫人が名誉校長に就任したことで、日本国籍を取得した韓国人の親に「韓国人と中国人は嫌いです。日本精神を継承すべきです」との手紙を送りつけた理事長夫人に、神道に傾倒する首相夫人が同志的なつながりを感じていたこともメールのやりとりから明らかです。

    これはちょっと言い過ぎです。

    橘さんは「リバタリアン」ではなかったのでしょうか?

    「国粋主義:外国人排斥的な私立の学校」が存在し、
    そういう「教育方針での指導を行うこと」が
    あっても良いのです。

    そういう教育方針の学校に
    入れるか入れないかは
    あくまで親の判断です。

    19年ぶりに日本出身横綱(稀勢の里)が誕生しましたが、

    日本人横綱でなく、日本出身横綱とする理由
    http://www.nikkansports.com/battle/sumo/news/1772972.html
    もあるのです。

    ナショナルなものへの傾倒や愛着をも許容するのが、

    「リバタリアニズム」

    ではないでしょうか???

  3. 政治的圧力として効果的ということですね・・・・
    2つの文章が合わさっていたので誤解してしまいました。
    たいへん失礼しました。

  4. 本件の見所は朝鮮学校です。

    今まで朝鮮学校を「異常なカルト教育を行う犯罪組織であり排除すべき」という立場を取ってきた層は、心情として森友を褒めたいけど過去の発言に縛られて何も言えなくなってしまった。
    反対に、朝鮮学校をあくまでも教育の自由と多様性の文脈で捉え、一切の制限も障壁もあってはならないという立場を取ってきた層は、心情としては森友を蛇蝎の如く嫌っているのにやはり過去の発言から決定的なこと(カルト教育やめろ)を言えなくなってしまった。

    イデオロギーのために脳味噌の出力をリミットしてるマヌケどもの居心地の悪そうな顔が面白すぎる
    これはそういう案件

  5. 忖度については橘先生のその通りだと思います。

    >ナショナルなものへの傾倒や愛着をも許容するのが、「リバタリアニズム」ではないでしょうか???

    それは違う。
    リバタリアニズムは思想の根幹として、決定的にナショナルなものへの傾倒を許さない。許したらもはやそれはリバタリアニズムではない。
    自分の所属組織(町内会から国家まで)すら借りもの、離脱可能と考え、都合が悪くなれば逃げ出せるのがリバタリアンだから。

    ナショナルな思想もそれを認めない。国外脱出しようとしようとした時点でリバタリアンを売国逃亡罪で逮捕するだろう。

    もしナショナルなものへの傾倒を認めたとすれば、それはリバタリアニズムではなく、都合のいい時だけナショナリストになったりリバタリアンになったりする思想のつまみ食いだ。権力者、富裕層、既得権益層にはよくあるパターンだけどね。

  6. リバタリアニズムのWikipediaでの定義は、

    リバタリアニズム(英: libertarianism)は、個人的な自由、経済的な自由の双方を重視する、自由主義上の政治思想・政治哲学の立場。リバタリアニズムは、他者の身体や正当に所有された物質的財産を侵害しない限り、各人が望む全ての行動は基本的に自由であると主張する。

    この定義が正しいならば、

    「各人」が「右翼」になろうが「左翼」になろうが基本的に「自由」のはずです。

    言ってしまえば、

    >もしナショナルなものへの傾倒を認めたとすれば、それはリバタリアニズムではなく、都合のいい時だけナショナリストになったりリバタリアンになったりする思想のつまみ食いだ。

    という
    「思想のつまみ食い」
    ですら許容するのが

    「原理的リバタリアン」

    のはずですが???

  7. >森友学園問題が失速気味

    これは賞味期限が切れてきたのと、辻元清美氏に飛び火して混乱したのが原因でしょう。

  8. 西洋では説教を聞く、セミナー文化があるが、日本では歴史が浅い。

  9. 言論の自由は「全ての言論は国家に統制されるべき」という国家主義者の意見を許容する。
    しかし、国家主義者が実権を握ったら言論の自由は滅ぶから、「そーゆー意見もあるね」と許容しても、実権を握られないよう絶対に譲歩するわけにはいかない。

    リバタリアニズムも「ナショナルな意見もいいよ」というが実際ナショナリズムが席巻したらリバタリアニズムは滅んでしまうので絶対にナショナリズムに譲歩することは許されない。
    定義以前の本質的な部分で相容れないものです。思想のつまみ食いはしてもいいけど、それは只の節操のない人で、リバタリアンを名乗ってはいけないなあ。

    橘先生にあなたリバタリアン?と疑問を向けるところには賛同いたしますが。

  10. リバタリアンとしては、

    「森友学園」も「朝鮮学校」も

    その存在を認めるべきで、

    そこに通わせるかどうかは、
    親の判断です。

    個人的なことをいえば、
    かつて生家の近くには炭鉱があった関係で、
    「朝鮮学校」がありました。

    もちろん強制徴用された方もいたでしょうが、
    出稼ぎに来た方もいたはずです。
    終戦後、自分の意志で帰国した/しなかった
    人もいるのです。

  11. 横からすみません。

    相対主義は自身を相対化できるか、といった話に似ていますね。
    言論の自由はあくまで言論の自由(言うだけなら何でも可)であって、それを制限することに反対の立場でも論理的矛盾はなさそうですが、リバタリアニズムは「他者の身体や正当に所有された物質的財産を侵害しない限り」という条件付きなので、どこかで線引きせざるを得ず、本質的にリバタリアニズムも自己矛盾を抱えているということでしょうかね。

  12. 税金を投入してる時点でリバタリアン的にはいかんでしょ
    「私立リバタリアン学園」であってもね

  13. KYとは遺伝のなせるワザって、気づけませんでした。
    人生の半分に近づいたころ周りから示唆されました。
    半分過ぎてから結局、得したかもねと思いました。
    KYとは感情に揺さぶられるなって、頭文字のこと。
    極右や極左が、社会の多数からは迷惑かもしれません。
    ただ極寒や極暑のまんだら乗り越え発展していくのです。

  14. 忖度そのものは違法ではない? 忖度には何かの行動が伴うわけですよね。その行動が違法行為ならその忖度は違法です。国の役人が国民の財産を勝手に首相の友達に利益供与すればこれは犯罪行為。徹底究明されるべきです。首相側から役人への圧力があったのか無かったのか、森友や加計学園への利益供与が忖度であったのか無かったのかすらまだ解明されていません。

    みんなが忖度する社会で忖度を批判すると自分の首を絞める? 政府はこの問題を忖度に矮小化して収束したがっているようですが、橘さんはそのお手伝い? お忙しいんでしょうけど、最近のこの欄の文章甘すぎませんか?

  15. >みんなが忖度する社会で忖度を批判すると自分の首を絞める? 政府はこの問題を忖度に矮小化して収束したがっているようですが、橘さんはそのお手伝い? お忙しいんでしょうけど、最近のこの欄の文章甘すぎませんか?

    ただし、「忖度:他人の気持をおしはかること。」がまったくない社会

    すなわち、
    「完全競争社会」
    って、

    果たして理想的な社会といえるのか?という疑問が残りますな。

    政治家でも官僚でも、自分が向いている方向というのがあって、
    それに資する方向への

    「ナッジ=nudge、つまり
    (注意を引くためひじで)そっと突く、そっと突く、
    (ひじで)そっと(横に)押して動かす、ひじで押しながら進む、そっと動かす」

    という事例はいくらでも挙げることができますよ。

    「フクイチ爆発」の直後は
    ほとんどの政治家も「反原発」一色でしたが、

    現在は「再稼働容認」へと変化してきています。
    この理由は、

    「エネルギー安全保障」と
    「潜在的核武装可能性保持する」のため

    ということが政治家や市井の人にも理解されてきたためであります。

    「反日勢力」への「カウンターウエイト」としての

    「右翼学園」の存在を許容するべきではないでしょうか?

  16. 多重債務者ばかり集めた会を結成しようと考えている。
    なぜなら常に布施を求めているからだ。

  17. 職場にいるKYをアスペルガー症候群と思って我慢しているのだけど….

  18. 橘氏はリバタリアンではなく、リバタリアニズムという思想を国内一般に
    紹介したただの売文屋です

  19. http://www.sankei.com/west/news/170426/wst1704260003-n1.html
    橘玲氏には、こちらの産経新聞の記事を読んでいただきたい。

    「犯罪者の子供は犯罪を犯しやすい」という荒唐無稽(「自殺したければ夜道を歩け」と言われるヨハネスブルグでもない限り、13%以上もの人が有罪判決を受けることなどありえない)な文書のせいで、犯罪者の家族がどれほどの風評被害に苦しんでいることか。

  20. >「犯罪者の子供は犯罪を犯しやすい」という荒唐無稽(「自殺したければ夜道を歩け」と言われるヨハネスブルグでもない限り、13%以上もの人が有罪判決を受けることなどありえない)な文書のせいで、犯罪者の家族がどれほどの風評被害に苦しんでいることか。

    現在の「優性思想啓蒙書」である

    「言ってはいけない」

    作者に何言っているだか?

    一つだけ言えることは、
    人種によって優劣は厳然としてあり、

    スポーツの世界で明らかなように、

    陸上では黒人が、
    水泳では白人の方が
    優性なことが多いのが明らかですな。

    さらに言えば、
    力道山も大山倍逹も大木金太郎も長州力も前田日明
    も松井章奎も朝鮮人ということは、

    格闘技の世界では朝鮮人は秀でていることは
    明らかで、これは朝鮮人が誇ってもよい
    ことです。

  21. >力道山も大山倍逹も大木金太郎も長州力も前田日明
    >も松井章奎も朝鮮人ということは、
    >格闘技の世界では朝鮮人は秀でていることは

    真剣勝負では無いプロレスの世界ではと言えると思います。
    ただ大山倍逹は戦後直ぐの大会で優勝してますから格闘技の世界といえますね。
    松井章奎もそうですね。

    ただ今の日本のボクシングは2014年あたりから黄金期を迎えて今日本人チャンピオンは9人ですかね。
    対比として一時期強かった韓国は今チャンピオンは0人ですね。

  22. 儲からない商売の行き着く先は アルコールギャンブル依存、鬱、金の無心、イカレタ頭、捨て鉢、原子力大事故、癌、一家離散、犯罪、犯罪被害者などである。

  23. >ただ今の日本のボクシングは2014年あたりから黄金期を迎えて今日本人チャンピオンは9人ですかね。
    対比として一時期強かった韓国は今チャンピオンは0人ですね。

    ボクシングがオリンピックにもある、階級の差が厳然とあるスポーツなのに対し、
    プロレスはオリンピックのレスリングと違い、「ショー的な要素」が非常に強い
    興業なのです。

    ショー的な要素を排した(まったくないとはいえない)K−1や
    逆にショー的な要素のみを強調したハッスルやWWEも
    ありますが、

    逆にショー的な要素がまったくないと、プロレスは
    殺し合いになってしまいます。

    「空手バカ一代」で梶原一騎は大山倍逹をして、
    八百長のまったくないプロレスは殺し合いでしかなかったと悟るのです。

    八百長も含めて、
    力道山も大山倍逹も大木金太郎も長州力も前田日明も松井章奎も

    朝鮮人のヒーローなのです。

  24. >それは違う。
    >リバタリアニズムは思想の根幹として、決定的にナショナルなものへの傾倒を許さない。許したらもはやそれはリバタリアニズムではない。

    橘さんは日本チームのワールドカップ進出をお祝いしていますが、これもナショナルな
    ものへの傾倒の一側面といえるのではないですか???

    橘 玲‏ @ak_tch 3時間3時間前
    その他
    ワールドカップ出場、おめでとう。完勝だった。

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