トランプはリベラル? レイシスト? 週刊プレイボーイ連載(303)

アメリカ南部のバージニア州シャーロッツビルに「白人至上主義」団体が集結し、極右の若者が集会に反対するひとたちに車で突っ込んだことで、死者1名と多数の負傷者が出ました。事件のきっかけは、南北戦争で南軍の英雄だったロバート・リー将軍の銅像を市内の公園から撤去しようとする計画に白人の極右団体などが反発したことです。

2015年6月に南部サウスカロライナ州チャールストンの黒人教会で極右の青年が銃を乱射し9人が犠牲になった事件を機に、南部連合の軍旗やリー将軍の銅像などを「奴隷制の象徴」として撤去する動きが広がりました。一部の白人がそれに反対しているのですが、ややこしいのは、リー将軍自身は奴隷制に反対しており、南北戦争後はバージニア州のワシントン大学学長に就任して南部復興に尽力するなど、人格者として高く評価されていることです。極右とその周辺のひとたちにとっては、奴隷制に反対した人物を「奴隷制の象徴」にするのは、歴史の歪曲以外のなにものでもないのでしょう。

混乱に輪をかけたのは、トランプ大統領が「一方の集団は悪かったが、もう一方の集団もとても暴力的だった」などと、“喧嘩両成敗”のような発言を繰り返していることです。それを秘密結社クー・クラックス・クラン(KKK)の元指導者が「左翼のテロリストを非難した大統領の誠意と勇気に感謝する」と歓迎したことで、人種差別とのはげしい非難にさらされることになりました。

しかしこのことから、トランプを「レイシスト」と短絡することはできません。白人至上主義者のなかにはネオナチに心酔する者もたくさんいますが、周知のようにトランプの娘婿はユダヤ人で、政権の中枢で重要な役割を果たしているからです。

トランプの過激な発言を追っていくと、たしかにヒスパニックの「不法移民」に対しては排外的な主張をしているものの、市民権を持つヒスパニックを批判することはありません。キリスト教原理主義にちかい共和党右派は中絶に反対し、同性愛を神への冒瀆と考え、黒人に対するアファーマティブ・アクション(マイノリティへの優遇措置)を否定しますが、大統領就任後もトランプは女性やLGBT、黒人を敵に回すような言動は慎重に避けています。客観的に見れば、その政治理念は共和党の大半の議員よりずっと“リベラル”なのです。

こうした態度は、トランプが政治をビジネスと考えているとすると、きわめて容易に理解できます。

再選を目指す大統領にとって、投票権をもつ者はすべて「潜在顧客」です。それに対して「不法移民」や「(外国の)イスラーム」「中国(あるいはEUや日本)」は市民権をもっていないので、いくら批判してもかまわないのです。

シャーロッツビルの事件後の対応も、同じ論理で説明できます。

白人至上主義者はトランプ支持者の中核、いわばリピーター(優良顧客)です。どのような商売もリピーターを大事にしなければ立ち行きませんし、「右翼」を批判したところで「左翼」は態度を変えようとは思わないでしょう。だとすれば、ビジネスの論理によって、どれほど批判されようともトランプが「レイシズム」を擁護するのは当然なのです。

『週刊プレイボーイ』2017年8月28日発売号 禁・無断転載