『ダブルマリッジThe Double Marriage』誕生裏話


『ダブルマリッジThe Double Marriage』は『別冊文藝春秋』2015年11月号~2016年9月号まで6回にわたって連載されました。「ただいま連載中」のコーナーでこの本が生まれるきっかけをすこし書いたので、一部加筆してアップします。

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2013年3月に『月刊文藝春秋』の取材でフィリピンの日本人向け介護施設を訪ねました。米軍基地の将校宿舎を改築したその施設を運営しているのは、日本の老人ホームにフィリピン人介護士を派遣している会社で、その現地責任者がIさんでした。

マニラ郊外にあるIさんのオフィスで外国人看護師・介護士の受け入れ問題について話を聞いているとき、壁に奇妙なボードがかかっているのに気がついて、帰り際に「これは何ですか?」と訊いてみました。そのボードには、フィリピン人の名前の横に「戸籍」という欄があり、そこに「OK」とか「調査中」などの記号が並んでいたのです。

「ああ、これは日本で働きたい新日系人が、戸籍を書き換えて日本人になるためのものなんですよ」あっさりと、Iさんはいいました。

フィリピンには、第二次世界大戦以前に日本人の父親とフィリピン人の母親のあいだに生まれ、敗戦によって取り残された多くの日系人がいます。その後、1980年代になるとフィリピンから“じゃぱゆきさん”と呼ばれる女性たちが大量に日本に出稼ぎに来るようになりました。彼女たちと日本人男性のあいだに生まれ、父親から認知も援助を受けられず、フィリピンで育てられた子どもたちを「新日系人」というのだそうです。

この新日系人が国際的な人権問題になるのを防ぐため、日本政府は彼らに積極的に日本国籍を与えるよう方針を変えました。こうして、フィリピンで結婚の事実が証明できる場合は、行政手続きによって戸籍を書き換え、フィリピン人の母親を戸籍上の配偶者にしたうえで、その子どもを「日本人」にするビジネスが始まったのです。

私はそのときはじめてこのことを知ったのですが、それからずっと、「日本人」と「国籍」をめぐる物語を書いてみたいと思ってきました。その後、日本国籍を取得した新日系人の若者たちの話を聞いたり、本作の舞台となるマニラのスコーターや孤児院、ビコールのスコーターを訪れるなどして、『ダブルマリッジThe Double Marriage』にまとめることができました。一人でも多くの「日系日本人」がこの問題に目を向けるきっかけになればと思います。

橘 玲

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『ダブルマリッジThe Double Marriage』誕生裏話 への9件のフィードバック

  • 尖沙咀 のコメント:

    国内にも米兵と日本人女性とのいわゆる「混血:ハーフ」が
    たくさんいます。

    ハーフであるからこそスポーツや芸能の世界で頭角を
    表してきた人物もたくさんいるわけで、
    じゃぱゆきさんなどの苦闘を表現するより
    純血主義=ナショナリズムの台頭に対抗できる方法だと思うのですが。

    「梶原一騎」はやはり橘さんよりずっと偉大な作家ですな。

  • ストーカー? のコメント:

    この尖沙咀って人は橘さんのストーカーなの?

  • 尖沙咀 のコメント:

    「筋金入りの粘着ストーカー」こと尖沙咀と申します。

    それでなくても、アメリカでも欧州でも「ナショナリズム」が吹き荒れ、
    隣の韓国でも「従軍慰安婦問題」で日本の戦争責任を蒸し返す動きが
    盛んな現在、

    戦後の日本人ビジネスマンがフィリピンで
    「ビジネスマン向け従軍慰安所でゴムを付けずにやりたい放題」

    みたいな話をするのはちょっと???
    ということですよ。

    衣笠やダルビッシュ、あるいはアジャコングのように
    「混血であっても」

    「スポーツの分野」で頭角をあらわし、ヒーローになった
    例を挙げたのは、

    先人である「梶原一騎」の偉大さの再確認という意味でもあります。
    梶原は、その作品において多くの
    「在日ヒーロー」
    を登場させています。
    力道山、大山倍達、そして巨人の星の金田もそうですね。

    これこそが、排外主義(ナショナリズム)に対抗する
    唯一の手段だと思うのですが。

  • いい加減 のコメント:

    無関係な話は別の場所でされたらどうでしょうか。

  • 筋金入りの粘着ストーカー のコメント:

    尖圭コンジローマみたいな名前の人は もう コメントしないで欲しい。。

  • ぞぞ のコメント:

    きっと寂しいんでしょう

  • 尖沙咀 のコメント:

    >無関係な話は別の場所でされたらどうでしょうか。

    「作家」である以上、
    どんな作品であれ、それを

    「世に問うた」からには、

    それによる
    「社会的反響」を

    引き受ける覚悟が必要です。

    私はこれが
    「第2の従軍慰安婦問題」
    になるのでは?
    を懸念しているのです。

    橘さんは、自分が「アイリス・チャン」に
    なるかもしれないと思わないのでしょうか?

    自分でこんなことを書いているのにですよ!!!

    [橘玲の日々刻々]
    アイリス・チャンが死んだ日
    http://diamond.jp/articles/-/26454
    (一部引用)
    しかし、満を持して上梓した3作目の『ザ・チャイニーズ・アメリカン』は、彼女の期待に反して酷評に晒されることになりました。西部開拓時代のアメリカで鉄道建設に従事した中国人がどれほどの迫害に耐えたのかを描いた力作ですが、アメリカの知識層は、旧日本軍が中国人をレイプする話には喝采を送っても、アメリカ人が中国移民を差別する話は好まなかったのです。

     この頃から、アイリスは不眠とうつ病に悩まされるようになります。そんな彼女が4作目のテーマに選んだのはフィリピン戦線におけるバターン死の行進で、生き残ったアメリカ兵に取材して、ふたたび旧日本軍の残虐行為を暴こうとします。しかし彼女の病んだ神経はもはや困難な取材に耐えられず、夫と2歳になる子どもを残して、享年36の短い生涯を終えることになったのです。

     新聞やテレビでその衝撃的な死が報じられたとき、私はたまたまニューヨークに滞在していました。なぜこんな古い話を覚えているかというと、ニューヨークタイムズやワシントンポストなどアメリカの一流紙が、「30万人以上が虐殺され、8万人以上がレイプされた“もうひとつのホロコースト”を発掘した」と、なんの注釈も付けずに彼女の業績を賞賛していたことに驚いたからです。

     日本では南京大虐殺について詳細な検証が行なわれており、旧日本軍による蛮行を認める戦史研究家でも、陥落時の南京城内の人口が20万人程度だったことなどから、死者30万人の“大虐殺”を史実とはみなしません。しかしそうした研究はほとんど英語に訳されることはなく、一部の現代史の専門家を除けば欧米ではまったく知られていないのです。

  • バファナバファナ のコメント:

    『言ってはいけない』では、「日本人にうつ病や自死が多いのは遺伝子の影響だ」と書かれているが、元々日本は自死が多い国ではない(むしろ、20年程前まではフランスよりも自死率が低かったくらいだ)。

    http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/2770.html
    こちらのページを見ると、リトアニアやハンガリー、ロシアといった東欧諸国の自死率がかなり高くなっているが、それも遺伝子の影響なのだろうか?

  • 尖沙咀 のコメント:

    私の世代以上だと、

    アジア旅行といえば
    「買春ツアー」
    だったわけで、
    (2chにはその名も
    危ない海外@2ch掲示板
    があります。)

    海外旅行で
    「ハワイに行った」は言えても、

    「韓国、タイやフィリピンに行った」
    と言うこと自体、はばかられるような雰囲気が
    ありました。
    (いまでも、韓国に行くとキーセン旅行かよ!とよく言われます!)

    現在、LCCで韓国、タイやフィリピンへの格安チケット(なんと数千円!)で行けるのに、
    なぜ何十万も出してハワイに行くかといえば、
    「買春ツアー」と思われたくない
    という見えない力が働いていることは想像に難くありません。

    バックパッカーの「聖書」である
    沢木耕太郎の「深夜特急」
    には、これに関する記述がたくさんあります。

    第5章 娼婦たちと野郎ども 
    とか。(この中では意外と娼婦たちは明るく描かれている!)

    そういう歴史があったことは間違いない事実ですが、

    日本人ビジネスマンが
    アジアで「第2の従軍慰安婦問題」を起こしていた!
    みたいな作品を世に問うことは、

    「反日勢力」の恰好の燃料になりかねない
    と懸念しているのです。

    橘さんは
    同性婚に「日本の文化」で反対する自虐的なひとたち 週刊プレイボーイ連載(197)
    http://www.tachibana-akira.com/2015/06/6867
    などで同性愛には許容的ですが、

    それなら、ロリコン=ペドフィリアをも許容せねばなりません。

    リバタリアンである以上、
    アジアの幼い少女たちが
    「生きていくために売春すること」
    を許容できますか?

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