イギリスEU離脱でもたいして変わらない? 週刊プレイボーイ連載(249)


国民投票でイギリスのEUからの離脱が決まった“歴史的な”6月24日朝はロンドンにいました。地下鉄駅前や金融街シティなどでは投票日までEU残留を求めるステッカーが配られ、直前にリベラル派の女性下院議員が狂信的右翼に射殺されるという悲劇もあって、残留派の楽観論が支配的でしたが、イングランドの地方で離脱派が予想以上に強く、僅差でEUと袂を分かつことが決まったのです。

このニュースは世界じゅうに衝撃を与え、日本でも株価が暴落し、為替は大きく円高に振れました。まるで世界が崩壊するかのような騒ぎですが、イギリスがEU政府と協議を行ない正式に離脱するまで数年はかかる見込みです。EU加盟後もイギリスはポンドを使いつづけ、シュンゲン協定の適用除外でEU圏からでも出入国手続きが必要だったのですから、大半のイギリス人は昨日と今日でなんの変化も感じられないでしょう。フランスやドイツに比べ、イギリスは常にEUから距離を置いており、だからこそ気楽に「離脱」に票を入れられたのです。

24日の午後はブリュッセルに移動し、欧州委員会本部を覗いてみました。特徴的な建物の前にはテレビ局の中継車が何台か集まっていましたが、それ以外に変わった様子はなく、週末ということもあって午後5時を過ぎると職員たちが次々と帰宅していきました。多くは加盟国からの出向で、とりあえずは自分には関係ない、ということなのでしょう。

皮肉なのは、残留を求めていた各国の政治家やEU首脳らが、「イギリスとEUの良好な関係はこれからも変わらない」と繰り返していることです。人心を安定させるためでしょうが、これでは離脱派の主張が正しかったと認めるのと同じです。この原稿が掲載される頃には、「メディアは騒ぎすぎで、実はたいしたことない」という雰囲気になっていてもおかしくはありません(6月26日パリで執筆)。

日本では、「残留派=リベラル」「離脱派=ナショナリスト」と決めつけて、国民投票の結果をイギリスの右傾化の証拠とする論調が大半ですが、これではイギリス国民の半数が「馬鹿で間抜け」になってしまいます。イギリスでは残留派も、民主的な選挙による主権者の判断を受け止め、よりよい方向を目指す現実的な方策を論じていますから、善悪二元論による単純化はかなり違和感があります。

今回の国民投票にいたった理由は、イギリス国民が帝国主義の時代を懐かしむようになったからではなく、EUが自らの理想の実現に失敗したからです。ユーロ危機やギリシア危機では財政が一体化していない共通通貨の矛盾が露呈し、昨今のテロと移民問題では、人道と治安が両立できない現実が明らかになりました。欧州主要国のひとたちが巨額の財政負担金を払うのは馬鹿馬鹿しいと考えるようになったとしても、なんの不思議もないのです。

EUとはいわば「人道の旗を掲げるヨーロッパ帝国」で、イギリス国民はその「帝国主義」にNOを突きつけました。かつて多くの知識人が共産主義の理想に魅了されましたが、保守的な一般大衆はその非人間的で人工的な社会を毛嫌いしました。彼らは「愚か者」と嗤われましたが、どちらが正しかったかは歴史が証明していることを、私たちは忘れてはならないでしょう。

『週刊プレイボーイ』2016年7月4日発売号
禁・無断転載

ロンドンで見かけたEU残留派の広告。ドナルドトランプとキスをする離脱派のボリス・ジョンソン元ロンドン市長
ロンドンで見かけたEU残留派の広告。ドナルド・トランプとキスをする離脱派のボリス・ジョンソン前ロンドン市長
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12件のコメント

  1. EUというか、ユーロの一番の問題点は、

    「自国だけで買いオペ・売りオペなどの経済政策を取ることができなくなる」

    ことだと思いますけど。

    イギリスに代表される賢い国はEUに参加しても
    ユーロに移行しませんでしたよね。
    だからこそ、EUを離脱できたのではないでしょうか?

  2. ・ 英国がEU離脱する可能性を示唆した経済人は皆無 つまり、不測の事態である

    ・ 賛成派も反対派もトップが公認する異常事態 誰が喜んでいるのか、糸を引いているのか判断が困難

    ・ 英国のEU離脱で最悪の結末は、スコットランド、北アイルランドの分離独立機運が高まることである

    ・ EU設立の目的として、共産国の驚異に対する対抗があった 英国離脱で、ロシアとのパワーバランスがどうかわるか

    ・ しかし、このまま英国が中途半端なEU加盟を続けたとして、長期的なメリットがあるかどうかは分からない 何故なら、EUの経済連衡体制自体、大きな矛盾を抱えているからである

    結果として、今回の英国離脱の判断が正しかったか、間違いであったかは、十年後くらいにならないとわからないのでは無いかと私は思います。

  3. ・ 英国がEU離脱する可能性を示唆した経済人は皆無 つまり、不測の事態である

    ・ 賛成派も反対派もトップが公認する異常事態である 誰が得をし喜んでいるのか、どこの国が糸を引いているのか判断が困難である

    ・ 英国のEU離脱で最悪の結末は、スコットランド、北アイルランドの分離独立機運が高まることである

    ・ EU設立の目的として、共産国の驚異に対する対抗があったが、英国離脱以降で、ロシアとのパワーバランスがどうかわるか?

    ・ このまま英国が中途半端なEU加盟を続けたとして、長期的なメリットがあるかどうかは分からない 何故ならEUの経済連衡体制自体、大きな矛盾を抱えているからである

    (当コーナーの識者の方のご意見に順ずるところであります)

    ……………

    結果として、今回の英国離脱の判断が正しかったか、もしくは間違いであったかは、十年後くらいにならないとわからないのではないでしょうか?

  4. すみません二回送信になりました

    公認ではなく降任の間違いです

  5. > 結果として、今回の英国離脱の判断が正しかったか、もしくは間違いであったかは、十年後くらいにならないとわからないのではないでしょうか?

    EUの場合、民族的対立を超えて、
    国と国の間の垣根をまず経済の分野からとっぱらおうという
    EECから始まりましたよね。

    この理念はある意味正しかったのかも知れませんが、

    逆に民族的には同じシナ人であっても、
    香港や台湾、あるいはシンガポールのように
    中共から独立していることによって発展してきた地域もあるのです。

    国や地域によって、発展に適切な大きさや地政学的、地経学的な背景というのがあるのであって、
    EUって実は、尖閣諸島や南沙諸島まで自国のものと主張する中共の覇権主義と同じなのかも
    知れませんよ。

  6. EUの中で英国は、完全にドイツ、フランスの後塵を拝しています。

    ドイツはトルコ、ロシアと経済的関係を持ち、フランスは北アフリカとの関係を深め地中海の勢力を強めようとしています。

    つまり、EU以外の国とも関係性を深め、勢力を拡大しつつあります。

    対して英国は、地政学的にどん詰まりの状況です。

    しかし、EUの枠を離れ、西に目を向ければ、そこには大西洋と米国が見えます。

    英国がEUと距離を取り、米国との新たな連携関係(覇権構想?)を考えてるのであれば、トランプさんとボリスさんがチューしているのもうなづけます。

    となると、今回の英国EU離脱の黒幕は、ロシアの敵であるはずの米国の可能性も出てきます。

    しかし、米国と英国が再び覇権主義に回帰するのは、非常に危険です。考えすぎかもしれませんが。

    冷静に考えると、ヨーロッパほぼ西端のイギリスが不安定になることは、非常に怖いことであると、私は身震いしています。

  7. 投資家らしい橘さんの記事です。「マーケットの事はマーケットに聞け」で、
    複雑系の事象はナッシュさんの均衡に収斂していくが、ドコへ均衡していく
    のかは、まったくワカラナイ。ブリジットも先生達にナンヤカンヤ言われて
    いるが、実際にはどうなるのか全く不明。

    >日本では、「残留派=リベラル」「離脱派=ナショナリスト」と決めつけて、
     国民投票の結果をイギリスの右傾化の証拠とする論調が大半。

    これはマスコミの(正常な)病気で、視聴者の望む論調をマーケティングしてお
    いて、それに合わせた報道内容を拡散すれば、視聴率が取れ本雑誌が売れ、ネ
    ット上のアクセスが増える。より儲かる。記者クラブ様を拝む人々はまだ多い。
    彼等は、大本営発表のブリジットについて、「俺は良く知っているんだぞ!」
    と自信を持っている(持たされている)。カモは自分がカモだと気付かない。

    投資情報はもっとヒドイ。投資銀行・証券会社はブローカーとプレーヤーを兼ね
    ているので、ズブシロのポジのマーケティングをしながら、お抱えアナリストが
    彼等の好きそうな(数年前なら太陽パネルメーカー)情報を流し、それにカウンタ
    ーをあてるようにポジを取る。より確実に儲かる。投資雑誌や投資ブログや投資
    セミナーを拝む人々は多い。投資銀行や証券会社はそう倒産しないが、ズブシロ
    がよく死ぬのは、カモは自分がカモだと気付かないようにされているから。

    一流の投資家は、数字やデータだけを読むのだそうです。ブリジットのタワケ話
    など読まない。私も早く、せめて二流の投資家になりたいもんだ。

  8. 記憶を消去された自分が 元の自分にあったら、ほほう このような御仁もおられるのだなというのが素直な感想である。

  9. 「永遠の旅行者」に「精神分裂症」、いまでいうと「統合失調症」を患った

    「まゆ」というヒロインが出てきますが、

    KJさんはこの「まゆ」みたいなものじゃないでしょうか?

    とはいえ、 大岩四丁目 さんが例に挙げたナッシュ均衡のジョン・ナッシュも克服していますよ。

    ジョン・ナッシュ – 数学者。統合失調症の発症により自らの研究を中断したが、後に克服し、ノーベル経済学賞を受賞するに至っている。ただし受賞の理由とされた論文は、発病以前に発表されたものである。後に映画となり『ビューティフル・マインド』は彼がモデルとなっている。

  10. 洗脳の方向に従うと、ものすごい高揚感。
    疑うと、頭がわれるように痛い。
    パチンコは勝つとかまけるとかを超越してしまっているのだ。

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