日本人はどんなふうに「特別」なのか? 週刊プレイボーイ連載(50)

日本人が「自分たちは特別だ」と思っていることはよく知られています。そしてこれは、理由のないことではありません。

なんといっても、20世紀前半までは、欧米以外で近代化に成功した国は日本しかありませんでした。これは歴史的に見てもきわめて特異な現象ですから、そこにはなにか特別な理由があるはずだ、と誰もが考えます。

福沢諭吉の「脱亜入欧」以来、「日本はアジアでは別格だ」という優越感と、「先進国では唯一の黄色人種」という劣等意識が日本人を深くとらえていました。しかし1970年代に「四匹の龍(韓国・台湾・香港・シンガポール)」の経済成長が始まり、東南アジアがそれにつづき、冷戦の終焉によって中国やインドが市場経済に舵を切ると、アジアは急速に「近代化」していきます。いまでは、「アジアには市場経済や資本主義を受け入れる土壌がもともとあって、そのなかで日本は、地理的・歴史的な偶然からもっとも早く近代に適応できた」と考えられています。日本は、アジアの孤児ではなかったのです。

こうして、「日本人はいかに特殊なのか」という日本人論はきびしい批判にされされるようになりました。“日本の特殊性”とされた「タテ社会」や「甘え」、「空気の支配」は、どんな社会にもごくふつうに見られるものだからです。

ある研究者が、日本論のエッセンスをまとめたレジュメを、国の名前を伏せてオーストラリアの学生に見せたところ、学生たちはそれをオーストラリア社会についての分析だと思いました。このエピソードは、「日本特殊論」が錯覚であることをよく表わしています。

しかしその一方で、「世界のひとはみんな同じ」というのも乱暴な議論です。ヒトはすべて同じ遺伝子(OS)を共有しているとしても、考え方や行動が文化的・社会的な影響を受けることも間違いないからです。

そこで、政治や宗教、仕事、教育、家族観などについて世界のひとたちに同じ質問をし、価値観のちがいを客観的に評価しようという試みが始まりました。この世界価値観調査には80ヵ国以上が参加していますが、そのなかで日本人が他の国々と比べて大きく異なっている項目が3つあります。

①「もし戦争が起きたら進んでわが国のために戦いますか?」という質問に、「はい」と答えたひとが世界でいちばん少ない。

②「あなたは日本人(ここにそれぞれの国名が入る)であることにどのくらい誇りを感じますか」という質問に、「非常に感じる」「かなり感じる」とこたえたひとの比率が、(中国の当別行政区である)香港に次いで2番目に少ない。

③「権威や権力はより尊重されるべきですか?」という質問に対し、「尊重されるべきではない」と答えた比率が飛び抜けて多い。

「日本はムラ社会」といわれますが、世界価値観調査ではまったく目立ちません。世界には日本よりもベタなムラ社会がいくらでもあって、日本社会の開放度は南欧諸国などとともに中の上あたりに位置します。

それに対して、さまざまな国際調査で、日本人の世俗性と個人主義は際立っています。戦争になってもたたかう気がなく、国に誇りを持たず、権威や権力が大嫌いな日本人は、とても変わった国民なのです。

新著『(日本人)かっこにっぽんじん』(幻冬舎)で、こうした日本人の“特殊性”について書いています。興味のある方はどうぞ。

 『週刊プレイボーイ』2012年5月14日発売号
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