海外のホテルでアメリカのケーブルテレビを観ていたら、「50%more cash(50%もっと現金を)」というCMが耳にこびりついて離れなくなった。ビジネススーツ姿の男性が、「50%キャッシュが増えたら君もうれしいだろ」とネコに語りかけるのだが、それをえんえんと繰り返されると「いったいなんのことだろう」と気になってくる。
そこで調べてみると、これは大手銀行が発行するクレジットカードの宣伝で、買い物するたびに1%のキャッシュバックがあり、さらに1年後には昨年度のキャッシュバックに対して50%の「ボーナス」がつくのだという。
100ドルの買い物で1ドルが口座に加えられ、さらに1年後に50セントのボーナスが加算される。ということは、要するに還元率1.5%のクレジットカードのことだ。
だったらなぜ最初から「1.5%還元」にしないのかというと、「50%more cash」のほうがずっとインパクトがあるからだろう。こうした心理テクニックはいまではものすごく発達していて油断も隙もない。
とはいえここで述べたいのは、クレジットカードの宣伝戦略ではなく、アメリカ人の借金観のことだ。
ずいぶん前の話だけれど、ハワイの公営ゴルフコースでウィスコンシンからやってきた年配の男性といっしょになった。サブプライムローンの全盛期で、テレビをつけるたびに、「低利でローンを借り替えてゆたかになろう」というCMが流れていた。
当時は、初対面の挨拶で、天気の代わりに不動産の話をする時代だった。長年やってきた食料品店を閉じて悠々自適の引退生活を送っているという男性は、私が賃貸暮らしだと知ると、マイホームがいかに有利かをひたすら話しつづけた。
彼によると、最高の人生とはできるだけ大きな借金をして死ぬことだという。
「かんたんな話だよ」と彼はいった。「借金っていうのは、要するに、働かずに大金を手にできる魔法のことなんだ。死ねばどうせすべてチャラになるんだから、銀行をだましてできるだけたくさん金を借りた奴の勝ちなのさ」
そんな彼もすでに2件の家を持ち、今回はハワイの物件を見に来たのだという。
それから2007年にかけて地価はほぼ倍になったから、彼の投資はきっと大成功しただろう。その後の2年間で不動産価格が半分に暴落してどうなったかは知らないが……。
彼が私に教えてくれたのは、田舎町に住む平凡なアメリカ人ですら、「借金は素晴らしい」と信じて疑わないという驚くべき事実だった。この超楽観的人生観こそが、アメリカの消費社会を支える原動力なのだ。
世界金融危機を経て、アメリカではさまざまな社会問題が噴出している。でも「50% more cash」と連呼するCMを見ると、「このひとたちは変わらないなあ」とつくづく思うのだ。
橘玲の世界は損得勘定 Vol.11:『日経ヴェリタス』2012年1月16日号掲載
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日本には借金に対してネガティブなイメージがあるが、それを打破しかけたのが、チワワのCMだったのではないか。しかしこれもグレーゾーン金利を理由に潰されてしまった。(このことを批判する人は少ない)。楽観的なことには共感できないが、日本のネガティブ感も問題を感じる。借金であることを隠して?クレジット会社はリボ払いを勧めまくっている。借金が便利なツールとして認識されて普及するのは無理なのだろうか?
アメリカにはこわ~い借金取りのおにーさんとか、いないんでしょうかね。
>世界金融危機を経て、アメリカではさまざまな社会問題が噴出している。でも「50% more cash」と連呼するCMを見ると、「このひとたちは変わらないなあ」とつくづく思うのだ。
逆にアメリカ人が消費せず、日本のように郵便貯金至上主義になると世界大恐慌の再来かも・・・と思いますが。
合成の誤謬というのはたしかにあります。アメリカ的楽観主義が日本にも必要ではと思いますけど。
アメリカはクレジットの借金が社会的ステータスの国ですからね。日本の信用は勤め先や連帯保証人、これがないと生活できない。アメリカの信用はクレジットヒストリでこれがないと携帯も契約できない。これが楽観的な借金観を醸造してきたのかもしれませんね。
でもクレジットより1000年以上も時代遅れの連帯保証人制度の方が相当問題ありだとおもいます。
これキャピタルワンのヤツですね。よく考えるとキャッシュバック率1.5%程度ですと大したこと無いんですよねぇ・・。
まぁ年会費無料で何でも1.5%バックってのは悪くないかもしれませんが。
食料品・ガスなら5%バックとかってのもありますし。入会特典(年会費無料なのに200$くれるとか、5つ星ホテルに2泊無料とかあります)とかまで考えると2or3年毎にいろんな会社をジプシーするのが一番美味しいみたいです。
得する生活を読んでから、どういうルートが一番得かなーなんて考えるのも楽しいですよ。