最終回 沖縄をタックスヘイヴンに〈日経ヴェリタスVersion〉

これまで日本の金融機関に対していろいろぶしつけなことを書いてきたけれど(関係者にみなさま、すみません)、文句のネタも尽きたので、今回が最終回になる。

それを記念して、というわけでもないのだけれど、最後に日本を変える国家プロジェクトを考えてみたい。

沖縄県知事選が終わっても、普天間基地の移設問題は解決の糸口さえ見出せない。いったいどうすればいいのだろう。

そこで、提案。

  1. 米軍基地を受け入れるかわりに、沖縄は内政上の自治権を獲得する(外交と安全保障は日本国に属する)。
  2. 日本国の自治領として、タックスヘイヴン化を実現する。

チャネル諸島などイギリス周辺の島々は、実質的にはイギリス領だが、タックスヘイヴン化によって金融ビジネスの一大拠点になっている。これらの島の金融制度に準じれば、沖縄タックスヘイヴンは、具体的には次のような税制になるだろう。

  • 金融商品から得る利子・配当所得と譲渡所得は非課税。
  • 相続税・贈与税は廃止。
  • (沖縄の)域外で得た所得には課税しない。
  • 日本居住者は域内の金融機関を利用できない。

沖縄がタックスヘイヴンになれば、中国や台湾、韓国などから莫大な資金が流入するだろう。中国の富裕層にとっては、中国政府の管轄下にある香港よりも、日本とアメリカの安全保障下にある沖縄の方が資産の預け先としてはるかに魅力的にちがいない(厄介者だった米軍基地の存在が、ここではタックスヘイヴンとしての沖縄の魅力を増すことになる)。

沖縄が東アジア最大のオフショア金融センターに成長するとわかれば、世界じゅうから金融機関が進出してくる。銀行、証券、生保、ファンド会社のほか、周辺業務も含めれば大規模な雇用が発生するだろう。

それに加えて、アジアの富裕層が(相続税・贈与税のない)沖縄に移住してくるから、地価は高騰するにちがいない。不動産業や建設業はもちろん、富裕層を対象とする観光業や飲食業などのサービス産業も活況を呈するだろう。

一人当たりGDPで見て世界でもっとも豊かな国は、ルクセンブルクやモナコなどヨーロッパのタックスヘイヴンだ。こうした国々と比べても、東アジアの交通の要衝に位置し、美しい海に囲まれ、温暖な気候と魅力的な文化を持つ沖縄にははるかに大きな可能性がある。

沖縄は第二次世界大戦で焦土と化し、戦後はずっと差別と貧困に苦しんできた。だが自治権を獲得し、タックスヘイヴン化を実現すれば、10年も経たないうちに世界でもっとも豊かな島に生まれ変わるにちがいない。

閉塞する日本社会に必要なのは、みんながわくわくするようなイベントだ。東アジア最大のタックスヘイヴンつくるのは、沖縄の基地問題も、金融の国際化も、日本の不況もまとめて解決できる妙案だと思うのだけれど、どうですか、菅総理。

橘玲の「不思議の国」探検 Vol.20:『日経ヴェリタス』2010年12月12日号掲載

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本年の更新はこれが最後となります。

8月20日から見よう見まねでブログを書きはじめてみましたが、思ってもみないほどたくさんの方に訪れていただいて、正直、びっくりしています(たくさんのコメントもありがとうございます)。

『日経ヴェリタス』の連載の最終回は、エントリーのなかで大きな反響のあった「沖縄をタックスヘイヴンに」にすることにしました。こうしたアイデアが生まれたのも、みなさまのおかげです。

『残酷な世界~』の「あとがき」にも書きましたが、著述家の仕事というのは、自分と似たひとを探す旅なのではないかと思っています。

それでは、よいお年をお迎えください。

2010年12月27日 エジプト・カイロにて